魔力覚醒

「何度も言わせるな! 俺様のことはホーク様と呼べ!」

「やだよアホオーク」

「ちょっとは痩せてから言いなよバカオーク」

「オークって言うなァ‼」


 やれやれ、と肩を竦める双子ちゃん。オーク君……じゃなくてホーク君はそんな双子ちゃんの様子に、地団駄踏んでおこである。足を踏み鳴らす度に、ブルンブルンと揺れるボディはなかなかの迫力だ。


「いいか⁉ オレ様は村長の息子なんだぞ! いつまでも馬鹿にしてると本気で痛い目に合わせてやるからな!」

「やっぱりオークはアホだよね。私達にかなう訳ないじゃん」

「バカだよね? 訓練でも一回も勝ててないくせに」

「ぐぬぬ! おいお前達、あのゴブリンを捉えて人質に……なんでこの状況で平然と帰ってるんだ?」

「オ気ニナサラズ」


 子供のじゃれあいの邪魔なんかしねぇよ。そんなことより旨い飯が最優先……チッ、囲まれたか。


「んん? おいおい何背負ってんのかと思えば仙木茸じゃねぇか! ぐふふ、せっかくだからそいつはオレ様が貰ってやるぜ」

「ああっ! チビタ逃げて!」

「渡しちゃダメだからね!」

「逃がすか!」


 取り巻き達に取り押さえられ、ここまで苦労して運んだキノコを奪われる。抵抗したかったが、胸に刻まれた奴隷紋がそれを許してはくれなかった。


「ギィ……」

「あれ? 噂より全然弱いっすよこいつ」

「むしろ普通のゴブリンより弱いんじゃね?」


 あまりに呆気なく捕まった俺に、取り巻き達は拍子抜けしたようだ。そのせいか拘束が緩んだが……抜け出すのは無理だな。


「当たり前でしょ! チビタは呪術のせいで反撃出来ないんだから!」

「仙木茸も返しなさいよ!」


 怒ってくれるのは嬉しいが、君らも反撃出来ない俺に普段からプロレス技かけてくるのを忘れてない? 人のふりして我が尻直せって言葉が……あれ、なんか違うか? 尻震えて三暗刻だっけ。これもしっくりこないな。


「やだね。返して欲しかったらオレ様と勝負しろ」

「え? いいの? じゃあ遠慮無くボコボコにするね!」

「どっちがやろうか?」

「ククク、何なら二人まとめてかかって来てもいいんだぜェ?」

「は? 何それ……?」

「弱いくせに舐めてんの?」


 二人から放たれる殺気に、空気が張りつめる。


「へっ、い、いい殺気じゃねェか。だけどな、昨日までのオレ様だと思ったら大間違いだぜ!」


 そう言い終わると、ホーク君は太っているにしてはなかなかの俊敏さで二人に向かって突進していった。


「そんなの当たる訳ないし」

「ちょっとは考えて戦いなよ」


 余裕で回避しようとした双子ちゃん。しかし回避は失敗に終わり、ホーク君の両腕が二人を捉えた。


「なっ⁉」

「えっ⁉」

「捕まえたぜェ?」

「この! 離せよ変態‼」

「な、なんで⁉」

「効かねーなぁ、そんな柔な攻撃」


 拘束から抜け出そうと攻撃を繰り返す二人だったが、ホーク君はニヤニヤと余裕の笑みを浮かべている。

 見た目に似合わない急加速、そして明らかに頑丈過ぎる耐久力。何かからくりがありそうだが……。うん? うっすら感じるこの力はまさか……。


「ギ、魔力……?」

「ええ⁉」

「嘘!」

「ハハハ! なんだゴブリン、お前なかなか鋭いじゃねぇか! その通り、オレ様は魔力制御を会得したのさ! さすがにまだ金剛身とまではいかないがな、今のお前達の攻撃程度じゃなんのダメージにもならねェぜ?」


 ホーク君は勝ち誇った顔でそう宣言した。双子ちゃんは悔しそうに顔を歪める。


「オレ様は寛大だからな、今降参するならこれまで馬鹿にしてきたことも特別に許してやってもいい。だが諦めないなら……」

「うっ、あ!」

「くぅ……!」


 ホーク君は徐々に締め付ける力を増していく。


「ど、どうだ? ふぅ……ふぅ……! これで参ったろ!」

「だ、れが……!」

「この、くらいで!」

「うおお⁉ くっ、この馬鹿力どもがッ! 魔力も使えない癖に!」


 力が拮抗し始めた。ホーク君は気づいていないようだが、双子ちゃんからも魔力のオーラが感じられる。

 本人達も無意識で魔力を使用しているのか、ホーク君の魔力より出力に波がある。だが今回はそれが功を奏した。大きな魔力で強化され、一瞬拮抗が崩れた隙にアカメが腕から脱出を果たす。


「やあっ!」

「んぐぅ⁉ あ、しまった!」


 金的一閃。魔力による強化でダメージはなかったようだが、条件反射で怯んでしまったホーク君はアオメの拘束も解除してしまう。


「よくも汗臭い体押し付けてくれたよねー?」

「覚悟はもちろん出来てるんでしょー?」

「ふ、ふん! まだ魔力制御が使えるオレ様の優位は揺らがねぇ! もっかい押さえ付けてどっちが上かはっきりわからせて……な、なんで魔力が練れないんだ⁉」

「やっぱりアホオークはアホオークだね」

「制御出来ても覚えたてで長々使える訳ないじゃんバカオーク」

「「それじゃ、お仕置きの時間だね!」」

「ぐおお⁉ や、やめっ! 人の体はそんな角度には曲がらなっアアーッ‼」


 悲鳴を上げ、のたうち回るホーク君。取り巻き達は助けに入らないのかな?


「あーあ、やっぱりこうなったか」

「途中までは惜しかったのにな」

「魔力制御覚えたからっていきなり二人一辺に相手にすんのはなぁ……」

「だからやめとけって言ったのに」


 関節技のフルコースを受けるホーク君を苦笑いで見守っている。なんだよこいつら、取り巻きじゃなくてただの友達っぽいじゃないか。


「ぐぬおお⁉ お前達助けに……い、いやまだだ、まだオレ様一人で、ぬあああ⁉」


 技を受けながらも何処か嬉そうなホーク君を微妙な表情で眺める俺達。まだ押し付けられる体の感触を楽しむ余裕があるみたいだね。そのうちMに目覚めても知らないぞ?


「ギ、帰ッテイイカ?」

「え? ああそうだな」

「迷惑料代わりに二人の荷物も運んどいてやるか」

「仙木茸分けて貰えるかもだしなー」

「コレ、ソンナニ旨イノカ?」

「おう、マジで超旨いんだぜ? なんせ死人も食欲で生き返るなんて言われてるくらいだからな」

「ひぎぃ⁉ ま、待てお前達! そろそろ本気で限界だから助けにょほわあ‼」


 グッバイ少年。スケベ心の末路、しっかりと噛み締めるんだな。


「待ってくれーッ‼」


 何処までも響く悲鳴を背に、帰路へとついた。

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