森の恵み

 おっす、俺ゴブリン! やっぱり火を通した飯は旨いね!

 畑の近くで拾った平たい石をフライパン代わりに、野菜と雑草の炒めものを作れるようになった。

 火を使ってるから魔法が使えるようになったと思うだろ? まだ使えないんたなこれが。何かが掴めそうな、そうでもないような感覚のまままるで成長していない。

 だが魔法でなくても火くらい起こせる。やっててよかったサバイバル体験。科学の力の勝利である。ん? 物理か? まあどっちでも変わらんだろ。

 こうして野菜炒めもどきを食べられるようになった俺に、更なる欲求が襲い来る。味のついたものが食べたい。シンプルな塩味でいいから、と。

 塩が欲しい。だがそれはとても難しいだろう。

 これは以前にも語った事だが、双子ちゃんがこっそり持って来る嫌いな野菜の食べ残しを俺は代わりに食べてあげていた。生の物もあったが、調理されている物もあった。それがかなり薄味だったので、ママさんが料理下手……あるいは超自然派な食生活を推奨しているのでもなければ、この村において塩は貴重な物だと考えられる。そんな貴重な塩をゴブリンが欲しがった所で貰える筈がない。はぁ……。


「チビタ! 遊び行くよ!」

「チビタ! 早く早く!」

「ギ、オレ、チビタ違ウ」


 子犬や子猫にするような安直なネーミングを断固として拒否する。確かに今はチビかもしれないが、これから成長してデカくなる予定なんだからよ。


「今日は何があるかなー?」

「面白いの見つかるかなー?」


 プロ級雑草抜き師である俺の活躍で、畑に生えてくる雑草が減っていた。そのおかげで収穫作業への参加を許されていない俺は、双子ちゃんに振り回される頻度が大幅に増加していた。

 しかし森へのお出かけにまでついて行くのは、今日が初めてのことだ。


「アオメ見て見て! ここにもミミの実あったよ!」

「やったねアカメ! おやつゲット~!」


 人の耳のような形をした実をもいでニコニコ顔で頬張る二人。口元から血のような赤黒い果汁が滴っていて、本当に人の耳でも食べているかのような絵面だ。


「チビタも食べるー?」

「食べたいー?」

「タ、食べル」


 見た目はともかく、この二人が喜んで食べるくらいだから普段の野菜よりは旨いのだろう。


「ぷぷぷ、はいどーぞ」

「むひひ、お、美味しいよー?」

「アム……ギ⁉ ゲホッガハッ!」


 か、辛過ぎるッ! こんなもん旨そうに食ってたのか⁉


「アハハ! 引っ掛かった引っ掛かった!」

「とっても辛ーいニセミミの実でしたー!」

「グギギ……」


 お、おのれメスガキどもめ……。偽物渡してくるとは猪口才な! でも料理に使えそうだから許してやらぁ!


「なんでニセミミの実集めてるの……?」

「ゴブリンってニセミミの実好きだったかな?」

「ミミの実の方が美味しいのにねー?」

「やっぱりチビタは変わってるよねー」


 そんな事がありつつ、双子のおやつ集めは続いた。途中で見つけた丈夫でとても大きな葉っぱ、それから作った簡易バック(双子は自分用の物を持って来ていた)がいっぱいになるほどいろいろな物が集まった。その中でも一番の収穫はキノコだろう。

 雑草をムシャムシャ食べていた俺ではあるが、さすがにキノコに考え無しで手を出すのは躊躇われた。いくら食いでがあって旨そうな見た目をしていても、ノータイムで確保するほどアホじゃない。家で食べた事があるかどうか、双子ちゃんのチェックを通してから採取した。


「これ嫌ーい」

「なんか臭いもん」

「そっちのも嫌っ!」

「ぐにゅぐにゅして気持ち悪いし」


 知らない、もしくはこのようにネガティブな反応しか反ってこなかったが、キノコが嫌いな子供は多い。大人な俺は遠慮無く持って帰ることにした。旨味最高!


「あっ! これ! これは好き!」

「やったねアカメ! 母様もぜったい喜ぶよ!」


 よほどそれを見つけたのが嬉しいのか、抱き合いキャッキャと盛り上がる双子ちゃん。それは俺一人なら一目見て即座に毒物判定を下すだろう、毒々しさ花丸満点のザ・毒キノコな風貌をしたキノコだった。しかもやたらデカい。下手すると俺よりもデカいかもしれない。

 このキノコを最後に収穫して、この日は村へと帰ることにしたようだ。当然、このデカブツを運ぶのは俺の役目だ。


「落としちゃダメたからねー!」

「ちゃんと運んでよー?」

「グギギギ……!」


 お、重い! ここまで結構な距離を歩いたが、これを背負って帰らないといけないのか⁉

 だがキノコ嫌いな双子ちゃんが大喜びするほど旨いキノコだ。これだけ大きければ、俺も分けて貰えるかもしれない。そう信じて歩みを進める。

 ゼェ……ゼェ……。は、畑が見えた。もう少しで村に辿りつく。双子ちゃんが俺のバックを持ってくれなければ途中で力尽きていただろう。


「もうちょっとだよチビタ!」

「チビタ頑張って!」

「チ……チビ、タ……違……ウ!」


 応援サンキュー。でもやっぱその名前は受け入れたくないんだわ。別の案を考えてくれると嬉しいです。

 ゴールは目前。しかしどうしてトラブルってやつはそんなタイミングでやって来るのだろうか?


「テメェらオレ様の誘いを断っておきながらゴブリンなんか連れて遊んでやがったのかよ!」

「げっ……アホオーク」

「関係ないでしょバカオーク」


 子分を引き連れたガキ大将の登場である。

 ほーん?この村にはオークまでいたのか。知らなかったぜ。


「誰が豚人オークだ⁉ ホーク様と呼べホーク様と! あとバカでもアホでもねェ!」


 ええっ、オークじゃないんです⁉

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