第19話 不穏な決定会議
佐久間と凪杦が楽曲整理をしている時、栄化放送のある会議室で話し合いが行われていた。
「その番組自体は数字が取れると思うので反対はしないですが、座組はどうですかね」
「僕もそう思うけど、そこまで予算をもらえなかったから、やれる範囲でやるしかないんだよね。百道くんはマストだけど、もう一人はやめておいた方が良いと思う?」
栄化放送の会議室は基本的に禁煙である。煙草が吸いたい場合は喫煙スペースにいかなくてはならない。
タバコを吸いながら話を聞くのが向いている刻土は、栄化放送内での会議や打ち合わせがあまり好きではなかった。
だが、この手の話は外で誰かに聞かれると致命的になる。
なるべく誰も聞いていない場所で話すのが好ましい以上、局内の会議室が使われるのは仕方なかった。
「二人ともコクちゃんの教え子でしょ? なら何とかなるんじゃない?」
その羅時原が言う言葉の裏には「何かあった時はコクちゃんがフォローしてくれるでしょ?」と言うニュアンスが含まれている。
「たしかに技術的な事は教えましたが、ウチの見習いってワケじゃありません。何かあっても責任はとれませんよ?」
「そりゃ責任者は僕だから。何かあったら僕が責任を取るよ」
責任はプロデューサーである羅時原が取る。だから番組でスタッフが致命的な何かを起こしてしまっても、それによる具体的な罰は羅時原が全て引き受けるのは当たり前だ。責任者とはそういうポジションであり、だから番組の実験を握れているのだ。
ただ、何かを起こしてしまった本人達に番組の責任はなくとも、その責任を取らされるプロデューサーからどうされてしまうかはわからない。
何のコネも力もないスタッフは、プロデューサーのさじ加減で運命を決定される。
そう考えると容易に「この座組で行きましょう」と刻土は言えなかった。
しかし、だからと言って「他の人にしましょう」と言ってしまうと、新人のチャンスを潰してしまう。
そして、そのチャンスはアイツが最も欲しているモノだろう。
ヤツはプロデューサーの前で積極的にアピールする(啖呵を切れる)人間なのだ。
「何とか山崎も一緒に使えませんか? 百道と組ませるなら絶対に山崎がベストです。山崎がつくなら、後はお任せでいいと思いますが」
「山崎くんは予算的に無理だね。山崎くんを入れるなら百道くんを外さざるを得ない」
それはもっとまずい。とりまとめ役がいなかったら何も成立できなくなるからだ。それくらいディレクターの役割は大きく、その技量は必須だ。
「……分かりました」
刻土は煙で頭をすっきりさせたかったが、時間が経つほど状況が悪くなると分っていたので考えをまとめた。
覚悟を決めた。
「その座組でいきましょう。作家の選択は彼らに任せる方針でいいですね?」
「うん、もちろんだよ」
羅時原は満足気に頷き、すぐにパソコンを叩いてメールを打ち始めた。しばらくすれば百道に仕事の連絡がいくだろう。
――この座組にどういう意図が含まれているか刻土は分かっている。
「ったく……」
やはり世話を焼きすぎるとロクな事にならないなと頭を掻いたが、物事が動いてしまってからではどうしようもない。
ヤツにはせいぜい頑張ってもらう他なかった。
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