第15話 経過報告

 卒業制作の編集も無事終わり最後の授業の日になった。


 いつもの十三階スタジオでなく、入学試験を行った部屋に集まり、卒業証書を貰う。あの丸くて長くて、蓋を外すとポン!という小気味良い音がなる筒に入ったやつだ。


 それから刻土さんから卒業に関しての話があったが、まぁ当たり障りの無い内容だ。要はこれからも頑張れよ的な話だった。


 ディレクターコースの面々が、この半年間でどれくらいの繋がりを築いてきて、それがどの様に形となったかは、既に結果は出ている。


 卒業試験の後、それぞれ刻土さんから呼び出しがあり、個人面談の形でこれからどうするか、どうしたいかなどの話をしたのだ。


 その結果、ディレクターコース六人の内、三人は今後の動きが決まっていた。


 一人目は栄化放送の事務局の手伝いとして声がかかったらしい。イベントを手伝いに良く顔を出していたし、事務処理も手伝っていたので声がかかるのは分かる。


 でも、ディレクターの勉強をしていたのに、どうして事務局から声がかかるのか疑問だった。


 そこを本人に詳しく聞いてみると、事務局は音源管理や、機材を軽くメンテナンスしたりするので技術的な人手が欲しかったそうだ。


 そのまま事務局で頑張るのも良いし、ディレクターをやりたいなら、事務局に顔を出す番組関係者と新たに関係を築けるかも、との事だった。


 入館証もそうだが、とにかく栄化放送に自由出入りできるのは大きなアドバンテージだ。事務局で働いてお金を稼ぎながらチャンスを待てるというのは、ある意味一番当たりの道かもしれない。


 二人目は、なんと刻土さんの会社に引き抜かれた。見習いエンジニアとして、刻土さんの下でお世話になるらしい。すぐ現場に出られるのは強く、B&Dとのコネクションがある刻土さんの傍にいられるのも強い。これから多くのチャンスに恵まれる可能性は高いだろう。


 そして三人目がオレである。凪杦さんと知り合った飲み会の話題に出た、あの芹沢一果さんの番組ADをやらせてもらえる事になったのだ。


 この四月からディレクターをやっていた人が番組を卒業し、それまでADだった人が晴れてディレクターに昇格した。そのため、番組では空いたADのポジションを探しており、そこに刻土さんがオレを売り込んでくれたらしい。


 その話をもらった時は嬉しくて、腕を認めてくれた刻土さんにもの凄く感謝し、恩を仇で返さない様に頑張ると伝えた。


 刻土さんから「ADを一本もらったくらいで浮かれるな」と言われてしまったが、栄化放送に出入りできて、番組制作に直接関われるのはオレのやりたい事と直結している。何と言われようと嬉しくなってしまう。


 四月の一週目から早速収録なので、今日アカデミーを卒業しても、またすぐ栄化放送に戻ってこられる。有難い。


 ちなみに残りの三人にはとくに声はかからなかった様だ。事務局からのイベントお手伝いの連絡はまだ届くので、三人はそこからチャンスを狙うと言っていた。


 最後に刻土さんを含めて記念撮影をした。もういい歳なのに、卒業証書をもって真面目に映っている自分を見るのはちょっと恥ずかしかったが、いい記念になったと思う。


 あっという間に終わった半年間だったが、何とか次に繋げられた。


 ただし、ここからは授業ではなく仕事である。


 アカデミー生だった時よりも更に責任をもって動かなければならないし、貰った番組をいつまで続けさせてもらえるかも分からない。なにより、まののんとの番組を担当できなければ、オレがこの業界にいる意味がない。


 本番は今日から始まる。


 全てはまののんの彼氏になるため、オレは突っ走るのだ。





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