私人処刑②

「はいどうも〜!エレメンタルブラザーズで〜す!レッド!」

「ブルー!」

「黄!」

「今緊急で動画を回してま〜す!アンチが俺たちに凸してきました〜!ありえないよね〜?!」

「我らを小悪党と呼ぶ傲慢さ……いくら美人といえども、許されることではない!」

「矯正!」

「というわけで今日は『アンチが美人だったので土下座させてペットにしてみた』って内容で、一つよろしく〜!」


三人は勝手にカメラを回してしゃべりだした。


「前置きはそれくらいで、さっさとかかってきなさいよぉ。アタシだってお暇じゃないのよぉ?」


百尼びゃくにはさらに挑発する。


「コイツ、さっきから偉そうに……!そんなに食らいたけりゃあ、食らわしてやるよぉ!」


レッドが火柱を噴射。渦を巻いて百尼の元へ。


「真っ黒焦げになっちまえぇ!」


百尼はニヤリと笑い、


「すぅぅぅ……」


のけぞるほど息を深く吸い込んで、


「ブッフォォォ!」


勢い良く吐き出した。火柱が拡散されて消えていく。


「は、はぁぁぁ?!なんだぁぁぁ?!」

「レッドの火がかき消されたぁ?!吐息でぇ?!あ、あと、スンスン、なにか甘い匂いがする?!美人の吐いた空気、うまし?!」

「芳香?!」


三人が色々困惑してる間に、レッドに詰め寄る。


「よっせぇ。」


そのまま膝蹴り。


「うっげぇ?!」


レッドがゴロゴロ転がる。


「うわっ、レッドォ?!おのれぇ!」


ブルーが水柱を噴射。ひょいとかわしたところに、


「迎撃!」


イエローも雷柱を噴射。大きく距離を取ってかわす。


「兄弟愛ねぇ。ご立派ぁ。」

「レッドォ!大丈夫か?!」


二人が駆け寄ってレッドを抱き起こす。


「いてぇよぉ……くっそがぁ……!」

「よくもやってくれたな!おう、必殺技だ!やってしまおうぞ!」

「瞬殺!」


三人が揃って拳を構える。


「せーのぉ!」

「「「トリプルバーストォォォ!」」」


火、水、雷が一つの大きな渦となって百尼に襲いかかる。


「まぁ、これはなかなか……当たらないけどぉ。」


サッと避ける。渦は百尼を通過し、背後の自動車へ。


「ひっ、ひぁぁぁ?!」


車が吹き飛ぶ。そのまま宙を舞い、歩行者へ真っ逆さま。


「きゃぁぁぁ!」

「全くもぉ。」


車が歩行者を下敷きにする直前、百尼が割って入る。


「おっとっと、とぉ。」


車を受け止め、優しく下ろしてやる。歩行者も車の運転手もポカン顔。


「さっさとお家に帰んなさぁい、危ないわよぉ。」

「「は、はい……?」」


一方、三人。


「当たれよぉ!必殺技だぞ!」


レッドが地団駄を踏む。


「落ち着けぃ、レッド!当たるまで何度でも撃てばいいだけのこと!」

「連射!」

「そっか、そうだよな!よぉーし、それじゃあもう一発!せーのぉ!」

「「「トリプル……」」」

「もうやらせないわよぉ。」


百尼はマンホールの蓋を取り上げ、円盤投げのフォーム。


「だぁっしゃぁぁぁい!」


リリース。弧を描きながらレッドの腹部へ。


「おぉっぐぅっ?!」


彼方に吹っ飛ぶ。


「げっはぁぁぁ!」

「レッドォ?!」

「心配!」


レッドは二、三回バウンドしてようやく止まった。


「げっ、げぇっ、がはぁっ……くっそ……」

「あらぁ、結構タフなのねぇ。」


目の前に立ちはだかる百尼。


「……ぁぁぁあああ!舐めんなぁ!俺はぁ、正義のヒーローなんだぁぁぁ!」


手から精一杯火を噴射する。百尼が火に包まれる。


「よくも燃やしてくれちゃってぇ……ねぇアンタ?」


にゅっと手が伸びてレッドの首根っこを掴む。


「ぐがぁっ?!」

「ココがどこだか、分かってるぅ?」

「は、はぁ?どこって……あぁ?!」


レッド、気づく。かすかな油の匂い、ネオンサイン。そうココはガソリンスタンド。


「アンタ自身は火に耐性、あるのかしらねぇ?」

「ひ、ひぃぃぃ!や、やめて……」

「うぉぉぉらぁぁぁ!」


レッドごと拳を叩きつけ、地面を割る。その瞬間。

大地を揺るがすような大爆発。地下のタンクに引火した。


「レッ、レッドォォォ?!」

「安否?!」


黒煙と大火の中、二つの焦げた影が見えてくる。一人は堂々と歩き、もう一人は虚しくその手にぶら下がっている。


「ぶっはぁぁぁ〜。髪がチリチリになっちゃうわぁ。」


歩く影の主がどんどんはっきりしてくる。サラッと伸びた銀髪に白い肌。妖艶な目つきは、残る二人を真っ直ぐ見据える。


「ぎゃぁぁぁ?!なんなんだあの女ぁぁぁ?!レッドがぁぁぁ?!」

「き、脅威!」

「逃げよう、イエロー!分が悪いと思うぞ、うん!」

「撤退!戦略的、撤退!」


二人は血相変えて走り出した。


「兄弟愛はどこいっちゃったのぉ?待ちなさぁい。」


百尼は虫の息のレッドを放り捨てて二人を追う。


「ココだ!ココに逃げよう!」

「承知!」


二人は地下駐車場へ。


「百さん、誘われてませんか?罠では……?」


イヤホンから千尋の忠告が聞こえる。


「獲物の罠を乗り越えてこその狩人よぉ。モーマンタイ!」

「もう、気をつけてくださいね!」


駐車場に飛び込む。シンと静まり返った場内。人影は無い。


「コソコソと男らしくないわねぇ……んん?」


百尼は足下が濡れているのに気づいた。そして、


「大瀑布スプラァッシュ!」


ダムが決壊したかのような水量が流れこんできた。みるみる駐車場内の水かさが増し、百尼の膝まできた。


「わわっ、溺れちゃいますよ!」

「上から流してるのねぇ。量は大したことないけど、問題は……」


パチパチッと水が爆ぜる。


「うべべべべべべ!」


百尼の体を雷が走った。


「がっ……ふぅ……はぁ……これよねぇ……うびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!」

「百さぁん?!」


断続的に痺れ続ける百尼。その間にも水かさはどんどん増え、百尼の胸まできた。


「百さん、何とかしないと!」

「クッソがぁ……」


一方、駐車場一階の二人。


「いいぞイエロー!その調子でどんどん感電させるのだ!痺れて溺れさせる!我ら二人のコンビは敵無しよぉ!」

「稲妻!霹靂!雷鳴ぃぃぃ!」


ブルーが全力で地下へ水を噴射し、その合いの手でイエローが雷を噴射し続けていた。


三分後。


「はぁ……はぁ……これで、よかろう……」


地下へ続く道がチャプチャプに満たされるほど水で埋まった。


「イエロー!とどめの一発を!」

「粛清ぃぃぃ!」


ドカンと一発、地響きするほどの雷撃を叩き込んだ。


「さすがにあの怪物女も、くたばったろう。」

「赤……」


イエローがレッドを思い出してしょげる。


「仕方ない。いつか敵が現れるのは必然だった。レッドは我らのために犠牲になったのだ。これからは二人で、レッドの分まで正義を執行しようではないか、なぁ?」

「誓約……!」

「よし!では帰ろう。あのバーで何か腹ごしらえをしようぞ。」

「蕎麦。」

「あぁそうだったな、ハッハッハッ!」


その時。

二人が立つ地面が大きく揺れた。


「なんだ?!地震か?!」

「震度大?!」


また揺れる。衝撃で地面にヒビが入る。


「まさか……嘘では……?」

「現実……?」


さらに揺れる。地面は崩壊寸前。


「逃げろぉぉぉ!」

「逃亡ぅぅぅ!」


そして。


「でぇぇぇやぁぁぁ!!!」


地面が崩れ落ち、何かが飛び出てきた。二人の目の前に着地する。


「うぉぉぉ?!」

「夢、夢ぇぇぇ?!」

「痺れたわぁ。こんなに痺れたのは昔、親知らずを抜きに歯医者で麻酔を打たれた以来ねぇ。」


濡れた髪をかき上げ、不満げに呟く。


「た、助け、助けてくれぇぇぇ!」

「懇願!」


二人は地面に手をつく。


「今さら何よぉ。そんな甘い考えは通用しないわぁ。」


二人の首を片手ずつ持ち上げる。


「ぐぅぅぅ?!」

「て、抵抗!」


イエローが百尼の手に触れて雷を流す。


「ぎぇぇぇ!拙者も食らってるぅぅぅ!」

「あ、ち、陳謝!」


慌てて雷を止める。


「もう慣れちゃったわよぉ。ワンパターンねぇ。」


百尼はズカズカと自分が空けた穴に近寄り、二人の頭を沈める。


「ぼがぁっ?!」

「げぼぉっ?!」

「ほらぁ、最後っ屁でも何でもしてみなさいよぉ。もしかしたらアタシを倒せるかもしれないわよぉ?」

「がっ……あ……」

「ぎぃっ……あぁ……!」


バチバチッと雷が爆ぜる。


「ぎぃぃぃぁぁぁ!……ぁ……」


ブルーが落ちる。雷はまだ止まない。


「ほらほらほらほらぁ!そんなもんかしらぁ?!」

「ああああああ!」


火花が散るほどの雷撃が襲った。そして、


「あ、あぁ……」


イエローが落ちた。体からプスプスと煙が上がる百尼。


「ふぅ〜。やっぱ長男ね、しぶとかったわぁ。」


二人を水から上げて放り捨てる。


「お疲れ様です。ちょっと騒ぎになっちゃいましたね、色々壊しちゃったし……」

「まぁコイツらのせいにできるでしょ。早いとこ退散しましょ。」


こうしてエレメンタルブラザーズは逮捕され、チャンネルもBAN、無期限活動休止となった。


後日、事務所。


「異能を手に入れたからって、どうしてみんな見せびらかすのかしらねぇ?」

「新しいオモチャをもらった子どもと同じじゃないですか。自慢したいんですよ。」

「そんなことしてたらいつか異能者全部が白い目で見られるわよぉ。ハーレムの夢も遠のいちゃうわぁ。」

「諦めてないんですね、ソレ……」

「モチのロン。アタシはいつまでも本気よぉ。」


夢を求めて今日も働く百尼だった。

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