第33話
ようやく見えてきた闇夜に浮かぶコンビニの明かりに誘われて、自動ドアをくぐる。店内の温かい空気に触れて、ほっと心が緩んだのは健だけだった。
「肉まん、あるだけ。」
珠子はレジに直行して、富豪のようでいて庶民的な買い物をする。店の保温機に残っていた肉まん三つを独り占めして、イートインコーナーで大きな口を開けて一気に食した。次々に無くなる肉まんを見ながら健は、おお、と声を漏らす。
「そんなにお腹すいてたの、たまちゃん。」
「違います。これはやけ食いですー。」
やっと口をきいてくれた珠子は、ズッと鼻をすする。
「全てが全て、健の言うことなんか聞けないけど…。今、へそを曲げたら、健、逃げそうだからとりあえず納得したことにしてあげる。」
残った紙屑をくしゃくしゃに丸めながら、珠子は言う。
「でもね、健。私だって、殺そうと思えば殺せるのよ。なんせ、死体を愛する変態だからね。」
「自分のことをそんな風に言うものじゃない。」
「うるせー。自分のことは自分が一番わかってる。」
珠子は怒気を背負いながら、健の胸ぐらをつかむ。健より身長が低い彼女にされても全く怖くはないが、迫力はあった。
「あなたに会えて、とても嬉しい。」
場違いにもほどがある言葉を吐いて、珠子は健の胸板を手のひらで押した。そしてふいと顔を背けると、買い物かごを手に取って再び店内を物色し始める。
「…。」
健はささやかな笑いが込み上げてきて、くくくと声を漏らした。珠子の後を追うように近づいて、かごの中身を見るとお菓子がてんこ盛りに入っていた。
「やけ食いでストレス発散は太るぞ。」
「いーの!」
頬をリスのように膨らませながら、尚も珠子はお菓子を投げ入れる。健はせめてもとそのかごをそっと奪い取って、レジに向かった。
「奢るよ。」
「…そんなんで、だまされないからね。」
「うん。ごめん。」
「謝っても、許さない。」
お菓子の入ったビニール袋を二つ、両手に持ちながら健と珠子はコンビニを出る。
「せっかくここまで来たから、神社に寄って行こう。」
アパート方面に行こうとする健を、珠子は呼び止めた。健は困ったように、両手の荷物を掲げて見せる。
「この格好で人通りの多いところに行くの、若干恥ずかしいんだけど。」
「見せしめも含めて、罰ゲームだよ!」
ほら早く、と珠子は健の腕を引くのだった。
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