第26話

カーテンの隙間から、柔らかく温かい夕焼けの光が内側から発するように漏れ出ている。

ちょっとしたゲームから数時間が経ち、珠子は健の肩に頭を預けてうとうとと微睡んでいた。無防備な彼女の姿が嬉しくて、健は膝に置かれた珠子の手のひらを撫でる。ふわっとした脂肪が程良く付いて、少し乾燥してザラつくような肌だった。

こみ上げるような優しさと凪いだ慈しみを込めて、つ、と指で珠子の手の骨をなぞった。健康的な桜色の爪に触れたとき、珠子は健の指を捕まえた。

起こしてしまっただろうか、と思って横目でちらりと様子を覗うとどうやらそうでもないらしい。珠子は健やかな寝息を立てている。と言うことは、これは無意識の行動だ。

絡まる指先はほんの少し冷たかったが、触れているうちに段々温まってきた。自然と呼吸が深いものになる。そして、健もまた珠子に寄りかかって眠るのだった。

健がふっと眠りから意識を上昇させて横を見ると、珠子も目覚めていてカーテンを微かに引いて窓の外を眺めていた。どうやら冷たい小雨が降っているようだった。パラパラと降る雨粒は小さく、その姿は光の粒子のようにきらめいている。窓ガラスに雨が当たって伝い、銀色の雫がサッシに溜まっていった。

「夜には雪になるといいけど。」

小さく愛を囁くように、珠子が呟いた。夕焼けは半分沈み欠けて、影は濃く黒く町を刻んでいる。

「…健。」

「何?」

「まるで、世界で二人だけみたいだね。」

「…うん。」

珠子はベッドに戻ると、猫のように健の膝を枕にするように寝転んだ。そして下から手を伸ばして、健の頬に手を添えた。

「ねえ。」

「うん?」

珠子の瞳に映る自分と目が合う。

「健の中には、何人の人がいるの?」

「それ聞きたい?」

「うん。」

頷く珠子を確認して、健は指折り数えて今までに食べてきた人たちのことを思い出した。

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