第24話
今年最後の日を迎えた。大晦日の今日もどうせなら一緒に過ごさないかと提案する珠子に、さやかは首を横に振った。
「私、深夜から巫女さんのアルバイトがあるから、今日は帰るね。」
「え?さやか、巫女なの?」
「バイトだって。」
驚く珠子に、ひらひらと手を振ってさやかは笑う。
「ありがたみがないー。」
珠子は神社の実態を知り、残念そうに眉を下げた。
「そんなことないよ!奉ってよ!」
「それは、もはや神だねえ。」
笑いながら健が突っ込むと、さやかは唇を尖らせた。
「もう、二人には甘酒を振る舞わないからね。」
「それは困る。」
珠子ははっと気付いたように、息を呑む。
この町の神社は一つしか無いらしく、正月にはほとんどの人がそこに詣る。初詣に行くなら、必然的にさやかのバイト先に行くことになるようだ。
「ふっふっふ、そうじゃろ。謝るなら今だぞー。」
「すみませんでした許してください。」
珠子が手で健の頭を押さえるように下げながら、早口に謝罪する。
「え?僕も?」
「そうだよ!冬の甘酒がかかっているんだから!」
どうやら甘酒の威力たるや、とんでもないらしい。さやかは二人のやりとりを、ニヤニヤと笑いながら見守っている。そして溜飲が下がったようだ。
「よろしい。許してたもう。」
ははは、と笑い、気を取り直したように言う。
「冗談だよ、二人には甘酒たくさんサービスするから!」
さやかは元気よく玄関から出て行った。
「今度来るときは連絡入れなさいよー!」
珠子がさやかの背中に、声を張る。
「あーい!!」
後ろ手にひらひらと手のひらを振り、途中、少し滑りそうになりながらアパートの階段を下っていった。
「危なっかしいなあ。」
その様子をハラハラとした様子で見送って、珠子は呟く。
「賑やかだったね。」
「騒がしかったでしょ。」
物は言い様だった。
「さて、これからどうしようか。商店街にでも行く?」
健が提案すると、珠子は悩むように腕を組んだ。
「うーん…。お餅ぐらい買っておきたかったけど、混んでそうだよね。」
珠子は、年末の人混みを懸念していた。冬の人混みは寒さの中で進まないから、より体力が消耗される。
「それもそうか。寝正月、しちゃう?」
「…するか。」
健の言葉に、珠子は悪巧みをするかのように笑う。
「夕方に、コンビニに行こう。それまで昼寝しようぜー。」
「たまちゃん、今日はまだ大晦日だよ。」
くくく、と声を震わせて、でも、と言葉を紡ぐ。
「それは最高だ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます