第21話
「やっほー、珠子!さやかさんだ、ぞ…、」
「…。」
そこに立っていたのは、珠子と同年代の女の子だった。玄関チャイムも押さない突然の来訪で、健と珠子は驚きに固まる。
「えー、と。お邪魔しました!」
女の子は珠子に向かってウインクをすると、踵を返そうとする。
「ちょっと待てい!!」
珠子がいち早くフリーズから解凍し、女の子を止めにかかった。健の体から降りて、玄関に向かう。
「え、待っていいの?」
足を止めて、様子を覗うように女の子は室内を見渡す。
「とりあえず中に入れ。話はそれからだ。」
珠子のこめかみの筋肉がひくついている。どうやら相当立腹しているようだった。健は無言で合掌をし、気配を消そうと努力した。
「うわ、ごめんごめん。サプライズのつもりだったんだよ。」
子猫のように首根っこを掴まれて、女の子は居間に連行された。そして珠子に正座を命じられる。
「来るなら連絡、いきなり玄関を開けるなって常日頃から言ってるよな?」
珠子が腕を組んで、雷を落とす。
「まさか、彼氏とイチャついてると思いませんでした。」
小さく舌先を出して、女の子は悪びれない。そして体を傾けて、珠子の後ろに隠れるようにしている健を見る。
「彼氏さんも、ごめんね?」
両手を合わされても、どうすれば良いのかわからなかった。珠子は大きなため息を吐く。
「…彼氏じゃないから。」
「え?逆に彼氏じゃなくて、あの仲よさげな雰囲気はやばくない?」
「モデル。雇ったの。」
「ええー、何か疑わしいなあ。」
女の子は興味津々といった風だ。
「じゃ、まあモデルってことにしといたげる。ねえ、自己紹介をしようよ。」
そう言うと、健を手招きした。健は困って眉毛を下げて、珠子の様子を覗った。
「…健。これ、三島さやか。不本意ながら、私の友人。」
珠子が彼女の代わりに名前を告げる。「これってひどい!」などとさやかは文句を言った。
「えー、あー…。どうも、宮野健です。」
「ほうほう、宮野さんね。よろしくね。」
さやかは健をじっと見つめる。無邪気な視線は居心地が悪い。
「さやか、不躾に見過ぎ。その癖、治しなって言ってんでしょ。」
珠子がさやかの後頭部を、軽く手のひらで叩く。
「おお、ごめん。」
ずけずけとした物言いに健は心配したが、さやか自身が問題無さそうに笑っているので気安い関係なのだろうと推測する
「いやー、珠子の好みってわかりやすいなって思って。」
「何よ?」
「昔っから、年上が好きだよねってこと!ほら、中学の時もさ…、」
「お黙り。」
中学の思い出話が出てくる辺り、どうやら昔から仲が良いようだ。
「で、今日は何の用?」
「冷たいなあ。帰省しない組でしょ、珠子も。寂しくなったから、来ちゃった。」
さやかは思い出したかのように、鞄からアルコールの缶を二本取り出した。
「一緒に飲もーよ。あ、良かったら宮野さんも一緒に。」
「…どうも。」
「飲むのは良いけど、お酒足りないじゃん。もー…。」
珠子の家の冷蔵庫にあったビール缶はもう、二人で空けてしまっていた。
「あ、じゃあ、僕が買ってくるよ。」
健が財布を持って立ち上がる。
「そう?ごめんね、健。簡単なおつまみ作っとくから。」
珠子は台所に向かった。当然、さやかも彼女の後に続くものと思っていたら彼女は意外な提案をする。
「私、荷物持ちする。行こう、宮野さん。」
「え?ああ、うん。」
さやかに腕を引かれて、玄関に向かう。背後で珠子が声をかけた。
「さやか、お菓子とかねだっちゃダメだからね!?」
「わかってるってー。」
まるで姉妹のような、女子二人組だった。
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