第3話
パキリ、と小枝が借りた長靴の底で折られる。その小枝が足の淵をくすぐるように、ゴム製の表面を柔らかく刺した。
住人が住んでいた形跡を残す廃墟が数軒、白い月光を浴びて佇んでいる。
錆びた農機具、片方しか無いサンダル。幾重にも畳まれた段ボールを寝床に野良猫が数匹集って、暖を取りながらこちらを目を細めて見つめていた。
「結構、生活感が残ってんな。」
もっとおどろおどろしい雰囲気を想像していた健は、幾分か気が抜けながら呟く。
「あー、廃村になったのはここ数年前らしいよ。」
一樹がのんびりと底の抜けたバケツを覗き込みながら応える。
「じゃあそんな過激な心霊スポットって訳でもないのか。」
「それはどうかな。」
ふっふっふ、と含み笑いをしながら、一樹は振り向く。その笑みが高校時代のいたずらを前にしたときの表情と重なった。
「何かあんの?」
「ま、ねー。その場所に着いたら教えてやるよ。」
それまでは秘密、と言葉を紡ぎ、一樹は立ち入り禁止の札が下がった家の壊れた玄関を開けた。引き戸の扉は磨りガラスになっており、ヒビや欠けがが見られる。
「そこ、ガラスの破片があるから気をつけろよ。」
一樹が先立ってガラス片を蹴りながら片付けた。
「サンキュ。ていうか、流れるように立ち入り禁止を破るのな。」
「えー?肝試しのパイオニアがいるようだし、いいっしょ。」
何も許される根拠になっていないが、一樹の中では充分な理由らしい。
「土足で平気なのか。」
平然と靴を履いたまま、友人は家に上がる。
「だって、お前。この状況で靴脱ぐ気あんの?勇者かよ。」
スマートホンのライトに照らされながら見る家の廊下は薄汚れていて、どこかから入り込んだ木の葉や蓄積された埃が散乱していた。健も不承不承に頷くをせざる得なかった。
ギシギシと軋む床板が抜けないように気をつけながら、二人は進む。流れるような冷気が首筋を柔らかく絞めるように撫で、どこかの窓が開いているのだろうと思う。
二人は居間、台所、四畳半の納屋の順に室内を探索していく。家の最奥、ささくれだった畳の部屋。それは仏間だった。
「…仏壇ってそのまま残しとくもん?」
「しまい忘れたんだろうな。先祖、かわいそー。」
余計な世話を焼かれるこの家の先祖を不憫に思いながら、玄関に引き返すことにした。
家の外に出ると、久しぶりに外気に触れた気がした。ふ、と肺に淀んでいた空気を吐き出す。
「で?さっき言っていた『その場所』って?」
「気が早いなあ。まあ、いいや。耳貸せよ。」
もったいぶるように言い、手招きをする。そっと耳を澄ませて見ると、怖がらせようとして小さくなった声が聞こえた。
「…ーこの廃村、土葬の風習があったんだって。」
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