第2話
生の骨は固くてとても歯が立たないけれど、煮込むと良い出汁が出る。時間があるときに野菜と一緒に煮ようと思った。
健は冷蔵庫からラップをかけた腕の肉を取り出した。リストカットの痕があるので、恐らく左腕だろうなと思う。香りを嗅いで、まだ痛んでいないことを確認する。
そして肉を一口大に切ってフライパンで焼き、塩と胡椒のみで簡単に味付けをしてこたつを兼用したテーブルに運んだ。そして、最後の一本と決めたビール缶のプルトップを弾いた。
手元にあったテレビのリモコンを操作して、電源を付ける。
適当にチャンネルを回して、再放送されているドラマで手を止めた。
昔、流行った漫画が原作で、よくあるラブストーリーだった。たしか好きな女優が出ていたはずだ。今より幾分か幼い風貌の女優の演技を眺めながら、次はこういうシーンだと展開を知りながらもドラマを見続ける。
「…ははっ。」
コメディタッチで描かれる場面に笑い、真剣に愛を語る場面で見入る。内容をほぼほぼ覚えていながらも、案外楽しめた。
ドラマは気になる展開を迎えつつ次回に続く。コマーシャルに入った瞬間に、スマートホンの連絡アプリから着信があったことを告げる甲高い音が一音響いた。相手は高校時代から悪友とも言える、友人の一樹からだった。
『肝試し行かん?』
唐突に、脈絡無く要件だけを告げる内容に苦笑してしまう。
こいつはこういうヤツだ。
健はスマートホンの画面をタップして、返信を打つ。
『いきなりだなオイ笑』
『いーじゃん、出てこいよ。』
週末の休みに浮かれているのだろうが、真冬に肝試しとは如何なものか。
『やだよ。今、晩酌中だし。』
飲酒済みという事を告げると、一樹からOKというスタンプが気軽に送られてくる。
『車は俺が出す!ていうか、実は今、お前んちの前にいるの。』
僕はスマートホンを片手に立ち上がり、洗濯場のあるテラスへと続く窓サッシへと向かった。カラカラカラ、と軽やかな音を立て窓を開いて見ると、一樹が健に気が付いて大きく手を振った。夜なので大きな声は出せないが、その行動力の高さに盛大に笑ってしまう。
「よーう。迎えに来たぜ。」
そう言いながら友人は車の鍵を人差し指に引っかけながら回して、陽気に笑う。
「何、暇なん?」
「新しく買った車を乗り回したいんだ。」
テラス越しの会話に近所の目を気にして、手短に支度を調えてアパートの一室を出た。スニーカーを足につっかけながら駐車場に行くと、一樹がすでに車の運転席に座り待ち構えていた。
「ようこそ、我が愛車へ!」
「この寒いのに元気だよな、お前…。」
凍えるような気温に、粉雪がちらちらと舞い始めている。
「車に乗っちゃえば、暖房がんがんに効かせるから快適だって。」
「はいはい。」
そう言って助手席に乗って扉を閉めると、確かに冷気は感じなくなった。
「はい、出発ー!」
ゆっくりと安全に発車する。市道に出て車はスピード感が増していき、車窓から流れる景色はあっという間に通り過ぎていく。
しばらく走ると、車は高速道路に乗った。
「お前、高速って。どこに行く気だよ。」
「ちょっくらちょちょいと、隣の県まで。」
一樹は隣の県にある廃村に行きたい、と言うのだ。
「ええー。山ん中じゃねーの、それ。」
スニーカーできたのを後悔して不平を漏らすが、もう靴屋は当たり前だが閉まっている。一樹は後部座席を親指で示した。
「長靴持ってきた。サイズが合うかわからんけど。あと、塩。」
「用意周到なところが嫌なんだけど、何故に塩?」
唇を尖らせつつ、文句を言う。
「え?だって、塩胡椒じゃさすがに幽霊に失礼っしょ。」
「幽霊に会う前提!?」
一樹とバカみたいな話を交わしている内に、車はインターチェンジに差し掛かった。カードで料金を支払い、ゆっくりと一般道に出る。そこからは山中にあるという廃村に向かって、走って行った。
くねるような山道を辿り着いた先。目的の廃村に到着した。林道の隅に停車し、一樹と健は車を降りた。
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