第4話 たまごサンドとご褒美プリン

春が終わり、夏に近づきつつある季節の早朝。

唯一ゆいいつであるさわやかさがなくなり、これから暑苦あつぐるしくなると思うと気が滅入めいってくる。利点りてんとしては、明るい時間が増えることと洗濯物が早く乾くことくらいかな。

朝を迎えたメイドがする最初の仕事は、洗濯物を干すことである。この家にはメイドが5人いるけど、住み込みなのは私とメイド長だけだから、この仕事の担当は固定されている。庭とか外とかで広々と干しているイメージがあるだろうけど、想像してみてほしい。洗濯物丸見えで、生活感ダダ漏れの豪邸ごうていがどこにあると思う?この家の場合は、3階に広いバルコニーがあるから、普段はそこに干している。もちろん、布団とかシーツとか大きな洗濯物があるときは話は別だけど。

洗濯物が終わると朝の掃除か朝食の準備を始める。どちらをするかは、洗濯物を干し終わった時間によるから、そこはケースバイケースで動く。今日の場合は、朝食の準備に動く。食器類を並べ、あとは料理を運ぶだけの状態にしたら待機。ご当主さまや奥さまが席に着いてから、お料理を運ぶ。

・・・陽太がいない。ということは、仕事が1つ追加される。

「陽太はまだ寝とるのか。菜月ちゃん。すまないが起こしてきてやってくれんか?」

「かしこまりました」


静かに、そして足早あしばやに陽太の部屋に向かう。


コンコンコン


「陽太さま、朝でございます。」

起きる気配がしない、かすかに漏れる目覚まし時計の音がかろうじて音のある世界を維持している。直接起こしに行った方が良いだろうか。一応メイドには鍵の束が渡されており、邸宅内の大半たいはんの部屋には出入りできるようになっている。でも、のは少々罪悪感ざいあくかんがある。

私は、鍵の束を取り出し自室のドアを開ける。部屋の端にある陽太の部屋へのもう一つの入り口から陽太の部屋に入る。

結果的には一緒だけど、気持ちの問題だよね。うるさい目覚ましを止めて。陽太の方に目を向ける。

「うわ・・・寝相ねぞう悪いなー」

無防備むぼうび』という言葉がこれほど似合うことも中々なかなかないだろう。その姿を楽しむのもいいけどそうもいかない。

「陽太さま、起きてください。遅刻ちこくしますよ。」

まずは、普通に起こしてみる。起きない。よく考えればうるさい目覚まし時計でも起きないのに、この起こしかたで起きるはずがない。ベッドに座り、身体をすってみる。それでも起きる気配がない。お腹がすいた。もう手段は選んでられない。陽太の耳元に口を近づけ声をかける。

「陽太起きて、もう朝ですよー。」

「ンー、ムニャムニャ」

「ごはん、冷めちゃいますよー」

「ニャー」

「起きてください・・・(フー)」

陽太の耳に息を吹きかける。

「うわあぁぁぁぁ(ガバッ)」

雄叫おたけびをあげて、陽太が飛び起きる。

「おはようございます。陽太さま。朝食の準備が出来ていますので、お着替きがえをしてダイニングルームにお越しください。」

ひどい寝ぐせの陽太に目を合わせた後、陽太の部屋を後にする。

「菜月、俺の耳に何かしたか?」

「さぁ、それより早く準備してください。私、お腹すいてるんで。」

「・・・ああ。すぐに準備する。」

これは、ご当主さま直々じきじきの命令。こちらとしても最高の仕事をしなければならない。

この場合、陽太をダイニングルームに連れていくまでがセットだ。ドアのカギを閉め、陽太を待つ。

「菜月、お待たせ。」

準備を終えた陽太が部屋から出てくる。ものの数秒で準備を整えるのだから感心する。


朝食を終えて・・・


「行ってらっしゃいませ」


陽太とご当主さまを送り出す。メイドや厨房の料理人などは、そこでようやく朝食にありつける。今日のメニューはたまごサンドとコーンスープ。デザートにイチゴがある。料理人は料理長と見習い2人の3人、メイド長と私で朝食を囲む。

「たまごサンドうまー!料理長天才!おかわり!」

「こら、菜月。食べ過ぎです。仕事はまだまだこれからなんですよ。」

「まぁまぁ、いいじゃないのメイド長さん。菜月ちゃん朝から大変だったんだから。」

「はぁ、まぁいいでしょう。」

「やったー」

「いっぱい食べろよ!それにしても、今日は一段と寝起きが悪かったんじゃないか?」

「全っ然起きませんでした。」

「ガハハハッ。年頃としごろの男ってのはそんなもんだ。そんな菜月ちゃんにご褒美ほうびがある。」

料理長は、たまごサンドと一緒に小さなカップを持ってきた。

「これは・・・プリン!」

「卵がすこし余ったんで頑張る菜月ちゃんへのご褒美で作ってみたんだ。とはいえ、見習い2人が作ったから味は保証ほしょうできんがな(笑)」

「料理長、ひどいっすよー」

「菜月ちゃん。ちゃんと美味しいから安心してね。」


素朴な味のたまごプリン。朝に食べるスイーツとしては最適解だと思う。でも、食べ過ぎて午前中は仕事にならなかったのは、ここだけの秘密。

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メイドの執事~財閥の御曹司が大好きな同い年メイドに仕えるお話~ 未知 推火 @Torime1128

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