第2話 お絵描きオムライスとカフェ・オーレ

『メイドさん』と聞くと大抵の人たちは、マニアックなコンセプトを掲げたカフェにいるアレを思い浮かべるでしょ?

「おかえりなさいませ!ご主人さま♡」とか言うキラキラな女の子たちのこと!

本職ほんしょくの立場から言わせてもらうと、メイドさんっていうのは、そんなにまばゆいものなんかじゃない。たしかに本職も家主やぬしが帰宅すると「おかえりなさいませ。ご主人様。」っていうけど・・・。

「オムライス作ったりするんでしょ?ケチャップでお絵描きもしてくれるんでしょ?」

冗談じゃない。本職の立場から言わせてもらうと実にバカバカしい。

メイドさんってのは、あくまで金持ちに買われた『奴隷どれい』とか『召使めしつかい』と呼ばれるような立場だからね。

あと、料理は基本的に専属せんぞくの料理人が作るからメイドの私は滅多めったに作らない。

けど、一応お料理はできる。オムライスも・・・作れる。

でも、それは当然のことで、どんな立場であれ、私もお金持ちの家の一員だから。

礼儀れいぎ作法さほう家事全般かじぜんぱん、その他諸々もろもろ、ある程度のことは叩き込まれる。メイド長に。

ケチャップでお絵描き!?

・・・要望ようぼうがあれば・・・描く・・・

し・・・仕方ないでしょ!『ご主人様』の命令は絶対なんだから!

「夜のお相手とかもするんでしょ?」

よく分からないけど、薄い本どうじんしの読み過ぎなんじゃない?

ご期待通りの答えじゃなくて残念だけど、それは明確に否定させていただきます。

そりゃ、世界中探せばそういう家もあるかもしれないけど、少なくともこの家にはない。

「カフェ・オーレに美味しくなるおまじないをかけてくれるんでしょ?」

かけない。でも、指示があれば・・・(以下略)。

てか、別にカフェオレじゃなくても良くない?

「ナツキさん。掃除はもう終わったの?」

げっ・・・メイド長だ。

「そろそろ、お坊ちゃまが帰って来られるから急いでね。」

・・・そろそろ仕事に戻ります(仕事モード)。

ナツキ?私の名前。菜の花に月で『菜月』いい名前でしょ?

あと、『お坊ちゃま』なんて読んでるのはメイド長くらいだからね。

あの呼び方、嫌うんだよねー。お坊ちゃまが(笑)。なんてね。


ほうきを決まった位置に置き、流れるように音もなく廊下を歩く。

玄関前で足を止め、足をそろえ、背筋せすじを伸ばす。

「そろそろかな?」


ガチャッ


その刹那、玄関の扉が開く。

「おかえりなさいませ。(ふふ笑)お坊ちゃま。」

「なっ・・・///」

屋内に足を踏み入れる少年の顔が崩れ、赤みを帯びる。

時間が止まったように動きが止まり、静寂せいじゃくが一瞬その場を支配する。

ややぎこちない動きで、靴を履き替え部屋に向かう。

「お荷物をお持ちします。」

「いいよ。自分で持つ。」

「メイド長に怒られますので」

「じゃあ、手提てさげだけ持って。リュックは重いから。」

少年の返答はどこかぶっきらぼうであり、その間も顔は真っ赤で照れくさそうな表情をしている。

「おかえりなさいませ。陽太ようたさま。・・・ふふ(笑)」

道中どうちゅうのメイドが声をかけていく。しかし、どこか笑いをこらえているような様子である。

先程さきほどのお坊ちゃま呼びが近くにいたメイドには聞こえていたようだ。

「菜月・・・どういうつもりだ・・・」

「・・・?お坊ちゃまはお坊ちゃまですよ?」

少年の歯を食いしばるような口調での質問に私はわざときょとんとした表情で答えてみる。

「その呼び方は嫌いだって知ってるだろ。」

「ほんの出来心できごころでございます。」

「おまえなぁ」


陽太の部屋に着き、菜月は手提げカバンを手渡す。

「それでは、お食事の準備が出来ましたらお呼びします。」

「わかってる」

少しバツが悪そうな顔で部屋に入る。

私はダイニングルームに向かい、食事の準備を始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る