第20話

坂田の言葉が空気を支配する中、青島はふと、何かが足りないような気がしていた。坂田が示唆した裏の計画が何であれ、どうして風呂屋の親父がそれに関わっているのか、すべてが謎だった。しかし、今はその謎を解くために、坂田の情報に頼らざるを得なかった。


「さて、青島。君たちが求めている情報の一部、矢追町で手に入るかもしれない。」坂田が静かに言った。


青島はその名前を聞いて、心の中で何かが引っかかるのを感じた。矢追町――それは、彼がかつて事件を追っていたときに、何度か耳にした名前だった。だが、その町は何かしらの秘密を抱えている場所だと噂されており、普通の警察が足を踏み入れるにはリスクが大きすぎる。そこには、あまりにも多くの裏社会の影が広がっていた。


「矢追町だと?」青島は思わず声を上げた。「そこに行くのは危険だろう。あの町は、普通の捜査では足を踏み入れられない場所だ。」


坂田は、どこか冷静な表情を崩さずに答えた。「だからこそ、君たちには行く価値がある。矢追町には、あの爆発事件の背後にいる者たちの足跡が残っているかもしれない。あの町に潜む連中が、今この街を動かしている。」


青島は深いため息をつき、周囲を見渡した。レオン、スネーク、そして和久がそれぞれ考え込むように黙っている中、青島は決断を下さなければならなかった。このまま坂田の言う通りに矢追町に足を踏み入れれば、ただの捜査では済まない危険が待ち受けていることを予感していた。


「矢追町で何か情報を得るなら、慎重に行動しないといけない。だが、もしそこに行かないと真実にはたどり着けないなら、行くしかない。」青島は決意を固めた。「行こう。だが、準備をしっかりと整えてからだ。」


坂田は満足げに頷いた。「その通りだ。君たちが準備を整える間、私はここで情報を引き出す手助けをする。矢追町に向かう前に、必要な道具と知識を手に入れることが先決だ。」


そして、青島たちは風呂屋を後にし、矢追町への準備を進めることとなった。どこか危険な香りを漂わせるその町へ向かうことになったが、青島は覚悟を決めていた。この事件の真相を解明するためには、どんな障害も乗り越えなければならないと。



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数日後、青島たちは矢追町に到着した。町は一見普通の住宅地のように見えるが、その奥深くには隠された世界が広がっていた。あたりの空気がどこか重く、常に監視されているような錯覚にとらわれる。地元の住民たちの目線が、青島たちに注がれていることを感じ取る。


矢追町に足を踏み入れるのは、警察関係者ですら極めて稀なことだった。町内には犯罪組織が根付いており、警察が捜査に踏み込むことを非常に警戒している。それに、どこか不穏な空気を感じる。町全体が、何かを隠しているかのような雰囲気が漂っていた。


青島はまず、矢追町に詳しい元警官である老いた男、黒川から情報を得ることにした。黒川はかつて、矢追町で起きた数々の事件を捜査していたが、ある事件のあとに退職し、この町から距離を置いていた。しかし、今でも町に詳しく、裏社会の動きには敏感な人物だった。


「青島か、久しぶりだな。」黒川が青島たちを迎え入れると、やはり彼の目にも、この町の異常さが伝わっているようだった。「矢追町に来たのか。お前さんたちも随分と危ない橋を渡るな。」


「黒川さん、何か知っていることがあれば教えてくれ。」青島は真剣に頼み込んだ。


黒川は少しの間黙っていたが、やがて口を開いた。「あの町には、もう何年も前から怪しい連中が絡んでいる。特に最近、そいつらの動きが活発になってきた。あんたらが追っている爆発事件も、実は矢追町の裏で進行していた計画の一部だと聞いている。」


青島は驚き、目を細めた。「計画の一部?それはどういうことだ?」


黒川は一度、大きく息を吐いてから言った。「矢追町の裏には、大規模な犯罪組織が潜んでいる。彼らの動きは、単なる犯罪集団とは違う。政治家、企業家、警察の一部が絡んでいるんだ。お前さんたちが追っている爆発も、その計画の一部であり、ただの序章に過ぎない。」


青島はその言葉にショックを受けると同時に、ますます事件の深刻さを実感した。矢追町には、裏社会と深く繋がる者たちが存在しており、その背後にはまだ見ぬ巨大な力が潜んでいるのだ。


「黒川さん、その情報、確かに信じてもいいのか?」青島は再度確認した。


「信じるも信じないも、君たちの判断だ。ただ、もしここで足を踏み外したら、何もかも失うことになる。」黒川は厳しく言った。


青島は無言で頷き、心を決めた。矢追町の闇を突き止めるためには、さらに深く掘り下げる必要がある。そして、もう後戻りはできないことを覚悟した。


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