第3話

その翌日、青島はいつものように捜査に集中していたが、ふとした瞬間に、突然聞き慣れた声が響いた。


「おーい、青島! 俺だ、俺!」


青島が顔を上げると、そこにはあの豪快でおちゃらけた姿の室井が、軽い足取りでオフィスに入ってきた。室井は、いつも通りの無鉄砲な笑顔を浮かべている。


「室井…お前、また何か面倒なことでもしてきたのか?」青島は少し呆れたように言ったが、その口調に少しの笑みが混じっていた。


室井はふっと大きく息を吐きながら、「いやー、今日はお前に一発、ビッグニュースを伝えに来たんだよ!」と胸を張る。まるで何か大きな発表をするかのような演技をして、周りの空気をわざと盛り上げる。


「ビッグニュース?」青島は眉をひそめながらも、すぐに彼の冗談だと察する。「またくだらないことか?」


室井は、青島の言葉を無視して、さも重大なことのように続けた。「まあまあ、聞いてくれ。実は、すみれが俺に向かって『青島さんって、ちょっと頼りになるときもあるんですね』って言ったんだよ!」


青島はその言葉に目を丸くした。「すみれが、そんなことを?」


室井は嬉しそうに肩をすくめた。「そうだよ! なんだかんだで、俺もちゃんと頼られてるってわけだろ? まあ、あれだ、俺の魅力に気づいたってことだな!」


青島は軽くため息をついて、そのおちゃらけた言動に少しだけ苦笑を浮かべる。「お前、そんなことで調子に乗るなよ。でも、すみれがそう思ってるなら、少しは認めてやるかもな。」


室井はにやりと笑いながら、青島に向かって指をさした。「お前、すみれに気があるんだろう? 隠しても無駄だぞ、俺にはわかるんだ。」


青島は驚いた顔で室井を見た。「お前、何言ってるんだ。そんなことない!」


室井は目を細めて、まるで青島が否定するのを楽しむかのように笑う。「おいおい、俺だってお前の気持ちくらいわかるさ。でも、恋愛ってのはタイミングだろ? うまくいかないこともあるしな。」


青島はその言葉に少し考え込む。室井が言っていることは正しいのかもしれないが、すみれと雪乃のことが頭をよぎり、複雑な気持ちになる。


室井はその様子を見て、ちょっと真面目な顔をして続けた。「まあ、冗談はさておき、青島、俺たちが一緒に捜査してるのはもちろんだが、こういうことも考えなきゃいけない時期だってことだ。恋愛なんて、どう転ぶかわからないからな。」


青島は静かに頷き、室井の言葉に少しだけ重みを感じた。室井の言う通り、何もかもが順調に進むわけではなく、時には人間関係の難しさに悩むこともある。それに、恋愛が絡むと一層複雑になる。


「まあ、ありがとう、室井。」青島はちょっと照れくさい気持ちを抱えながら、室井に礼を言った。


室井はにっこりと笑って、「おう、気にすんな! 何か困ったことがあったら、俺に頼ってこいよ。…まあ、無理だろうけどな、俺が頼りになったことなんて一度もないからな!」と、冗談っぽく言いながら肩をすくめる。


青島はそのやり取りに少しだけ和み、心の中で少しだけ笑った。室井の存在は、何かと忙しい日々の中で、気を楽にさせてくれる貴重な存在だった。


室井がオフィスを出て行くと、青島は再び捜査に戻る。しかし、室井の言葉が頭の中でくすぶり、心の中で少しだけ整理しようとする自分がいた。すみれとの距離を縮めるべきか、それとも雪乃との関係をもっと深めるべきか――その答えを、今はまだ見つけられないでいた。


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