第2話

和久は、青島の心の葛藤をまったく知らずに、その日の捜査結果を持って青島のオフィスに現れた。彼の足音が部屋に響くと、青島はすぐに顔を上げた。


「お疲れ様、青島。これで一段落だな。」


和久の声はいつものように落ち着いていて、どこか余裕が感じられる。しかし、その余裕が青島には少し遠い存在に感じられた。


「お疲れ様です。これで一つは解決しましたね。」青島は軽く会釈しながらも、その言葉に続く言葉を飲み込んだ。和久は普段からその深い知識と経験で周囲を引っ張っていく存在だが、その分青島は時に自分の立場がどこか疎外感を感じていた。


和久が資料をテーブルに広げ、仕事の進行具合を説明している最中、青島の目は無意識に窓の外を眺めていた。その時、ふと自分の胸の奥に何か引っかかる感覚が広がった。それは、雪乃との時間に感じる安堵感と、すみれとの距離を縮めたくてたまらない気持ちの板挟みのようなものだった。


「どうした? なんだか考え込んでるようだが。」和久が気づいて声をかける。


青島は少しだけ表情を引き締めて、和久の顔を見つめた。「すみません、ちょっと別のことを考えていたもので。」


「そうか。お前もいろいろ忙しいしな。」和久は軽く笑いながらも、青島の顔をじっと見ていた。その視線に、青島は思わず苦笑いを浮かべる。


「和久さん、何か気づきましたか?」


和久はその質問に一瞬黙り込み、少しだけ視線を外した。「まあな、若いもんに多いことだ。悩みがあれば、ちょっと話してみろ。」


その言葉に、青島は心の中で戸惑いを感じながらも、和久の言葉を真剣に受け止めた。普段はどこか冷静で頼りにしている和久だが、今は少しだけその背後に隠れた心情が見えるような気がしてならなかった。


「実は…」青島は言いかけた言葉を一度止め、少しだけ間を置いた。「雪乃さんとすみれさん、二人のことなんです。最近、少し気持ちが…。」


和久はその言葉を聞くと、すぐに軽く笑いながらも、少しだけ表情を引き締めた。「ああ、それか。お前も年頃だしな。難しい時期だな。」


青島は少し驚いた。「和久さんは、俺の気持ちを…?」


「いや、そんなわけじゃない。俺だって若い頃はそんなことを考えたことがあった。でもな、どんなに悩んでも答えは出ないもんだ。」和久はその言葉に少しの余裕を込めて続けた。「心の中で何を選ぶかはお前の自由だ。ただ、他人を傷つけないようにしろよ。そうすれば、自然に道は開ける。」


青島は和久の言葉をじっと聞きながら、心の中で何かが少しだけ軽くなるのを感じた。そのアドバイスが、まるで彼の心にそっと寄り添ってくれているようだった。


「ありがとうございます。」青島は静かに頭を下げ、再び和久の顔を見上げた。和久の目は少しだけ温かみを帯びているように感じられた。


その後、和久が帰った後、青島はひとりになり、雪乃とすみれのことを改めて考え直してみた。雪乃には安定感と知性、そして一緒にいるときの落ち着きを感じる。すみれはどこか不器用で、それでも時折見せる優しさに心を打たれる。


しかし、今はまだその答えを出すことができない。どちらか一方を選ぶには、まだ彼の中でどちらも大切すぎて、決断ができないのだった。


その夜、雪乃からの電話が鳴る。青島が電話に出ると、雪乃の穏やかな声が耳に届いた。「青島、明日、また一緒に夕食でもどう?」


その提案に、青島は一瞬、胸の奥で何かが揺れるのを感じた。そして、答える前に心の中で静かに考えた。「どうするべきか、もう少しだけ時間が必要だな。」


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