第43話 七海の持つ証拠と加害者の処罰について

「先輩方少し待ってください」


「どうしたの?七海さん」


 俺が天音さんと一緒に生徒指導室を立ち去ろうとすると七海さんが待ったをかけた。

 正直に言ってしまえば早くこの場から立ち去りたかったのだが無視するわけにもいかない。


「私はこの人たちが何をしようとしたのか知っています。先ほど言った通り客観的な証拠も持ち合わせています。だからこれはしっかり問題にすべきです。学校内だけで片付けていい問題の範疇を大きく超えています」


 七海さんは俺の目を見て真剣にそういったいた。

 確かにあの場を一瞬見ただけでも何が行われようとしていたのか想像に難くない。

 だが、今この生徒指導室には加害者四人がいる。

 こんな場所に天音さんを長居させたくはないというのが俺の考えだ。


「なんで、あなたが証拠を持っているのかしら?」


 天音さんは少し震えながら七海さんに聞いた。

 少し前まであんなに怖い目にあったのだから震えてしまうのも納得できる。


「それは秘密です。いづれ話せる時が来ると思うのでそれまでお持ちください」


「そう……」


「俺は屋上で何があったかあまり知らないんだ。ただ天音がいきなり生徒指導室に飛び込んできて屋上で問題が発生したとしか聞かされてないからな」


 佐々木先生は少し困ったように俺たち三人を見渡していた。

 教師として何が起こっているのかわからない状況で下手なことが言えないのだろう。


「私は悪くないでしょ! 私はただその魔女から空を助けようとしただけだもの!」


 いきなり瑠奈が再びわめき始めた。

 本当にいい加減黙ってくれよ。

 こいつが口を開くとろくなことを話さない。

 いい加減本当に我慢の限界だ。


「佐々木先生、とりあえず場所を変えてもいいですか? 天音さんとこいつらを同じ空間にいさせたくないので」


「……わかった。どうやらそのほうが落ち着いて話せそうだな。会議室でいいか?」


「はい。それで大丈夫です。二人もそれでいかな?」


「ええ」


「はい」


 二人にも確認を取って場所を変えることにする。

 これ以上あの場所にいると手が出てしまいそうだから。


「それじゃあ三人は俺についてきてくれ。お前らは俺が戻ってくるまでここでおとなしくしていろよ」


 佐々木先生は瑠奈たちを一瞥してからそういうと俺たちの前を歩いて会議室に向かった。


 ◇


「それで、屋上で何があったのか聞いてもいいか?」


「俺も詳しいことは知らないんだけど、話せそう?」


 はっきり言ってあんな経験をした後すぐに本人から話させるのはかなり酷だと思う。

 でも、天音さん以外に聞ける相手がいない。

 もしかしたら七海さんがなにか知っているかもしれないけど話してくれるかどうか。


「いや、私が説明するっすよ。あんな体験をした後に本人の口から話させるのはいくら何でも酷でしょうし私は一部始終を見ていますから」


 七海さんが俺の方を見て不敵に微笑みながらそういった。

 どうやら俺が何を考えているかなんてお見通しらしい。

 全く本当に末恐ろしい後輩だ。


「わかった。じゃあ、杉浦から話を聞こう。間違っているところがあればその都度天音が指摘してくれ」


「……わかりました」


 佐々木先生も七海さんの言い分に一理あると思ったのかそういって話を進めようとする。

 俺も話を進めてもらえるのは嬉しいのだが、さっきから隣に座っている天音さんに手を握られていてすごくドキドキしている。

 その手が少し震えている。

 手汗が出ていないかという心配と天音さんが大丈夫かという心配が混ざる。

 割合で言えば天音さんの心配九割残り一割といった感じだ。


「まず、天音先輩は帰りに堀井先輩に呼び出されて屋上に連れて行かれました。そして少し会話をした後に男子生徒が三人屋上に入って天音先輩を縄で拘束。それからは言わなくてもあの状況を見れば想像できるでしょう?」


「……そんなことがあったのか?」


「はい。間違いありません」


 そんなことがあったのか……

 瑠奈はそれほどまでに狂っているのか。

 それに、あいつはずっと天音さんが俺を洗脳しているといっていた。

 あれがどれほど本気で言っているのかわからないけど正直本気にしても冗談にしても一線を越えている。


「佐々木先生。これはれっきとした強制わいせつ未遂罪です。いくら学校内で起こった問題とは言え放っておくことはできません。警察を交えてしっかり話をしないといけないと私は考えますがいかがでしょう?」


「う~んそうは言っても証拠が証言だけだと我々も判断しかねる」


 七海さんが毅然と言ってのけたが佐々木先生の反応は芳しくない。

 それもそうだろう。

 教師の立場では不確定な情報で処罰をすることはできないというのも納得できる。


「だから、私は客観的な証拠を持っているといったではないですか。これを見てください」


 そう言って七海さんが取り出したのは一つのスマホだった。


「その前に天音先輩は席を外してもらってもいいですか?この映像はあの屋上での出来事を一部始終撮影したものです。それを見るのはあまり良くはないでしょう?」


 一体どうやって撮影なんてしたんだ?

 この前の助言といいこの子は未来を見すぎではないだろうか?

 少し前にも同じ疑問を抱いたが今も聞ける状況ではない。


「わかったわ」


「俺も天音さんについていくよ。今は一人にさせたくない。話し終わったら連絡してくれ」


「わかりました。佐々木先生もそれで問題ないですか?」


「ああ。事情が事情だしな。保健室を使ってくれ。連絡はこちらからしておく」


「わかりました。では」


 俺は天音さんと一緒に保健室に向かう。

 未だに手は握られておりその手の震えは収まっていなかった。


 ◇


「これは、加工とかはしてないよな?」


「当たり前です。そもそも事件が起こったのはほんの30分前ですよ?そんな時間あるわけないでしょう?」


 私は佐々木先生に動画を見せた後、今後の展開をどうするか考えていた。

 少なくとも男子生徒三人は退学だろう。

 勿論堀井先輩も。


「それも、そうだな。すまない」


「いえ、信じがたいことであるのは私も理解しています」


 まさか、あそこまでするなんて。

 もしかしたらと思ってはいたけど本当にやるあたり彼女は狂っているんだろうね。

 このまま裁判に持ち込んでも彼女だけは精神鑑定で保護観察とかになりかねないしいったいどうすればいいことやら。


「とりあえずは加害者話を聞くというのはどうですか?今日二人にはいったん帰ってもらって後日保護者などを交えて話し合いの席に着く。ですがこの罪は非親告罪だから天音先輩が何もしなくてもあの人たちは罪に問われます」


「そうだな。いったんは天音を休ませた方がいいだろうしな。天音には柳が付いているからしばらくは大丈夫だろう。今日は帰って休んでもらって明日にでも話し合いの席を設けるか」


「そうしてください。話し合いは警察も交えるといいでしょう。明日は私も呼んでください。証人として証言しますので」


「わかった。詳しいことが決まったら連絡する。今日はありがとうな」


「いえ、気にしないでください。私は先輩方に貸しを作っただけですので」


 まあ、それだけが理由ではないんだけどそこまで語る必要は無いしね。

 それよりも問題は堀井先輩だな。

 男子たちは確実に実刑判決をもぎ取れそうだけどあの様子だと堀井先輩は難しそうだな~

 さて、どうするか。

 ま、いったんは明日の話し合い次第かな。

 確実に裁判にはなるだろうけど。

 そもそも強制わいせつ未遂罪は非親告罪だから事件発生が露見した時点で終わりなんだよね。

 だから、明日の話し合いでどこまで話が進むか。

 まあ、加害者四人は一度警察に連れて行かれるんだろうけどさ。


「それじゃあ、明日の話し合いで」


「ああ。よろしく頼むな杉浦」


 私はそんな声をかけられながら生徒指導室を後にした。

 明日は忙しくなりそうだと感じながら。

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恋人に浮気され親友に裏切られ両親に見捨てられた俺は、学校のマドンナに救われた 夜空 叶ト @yozorakanato

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