第42話 救世主
「お前らここで何をしている?」
屋上の扉を開けて飛び込んできた光景に一瞬フリーズしかける。
でも、そんなことをしている場合じゃない。
この場はいったん天音さんを助けないといけない。
「ちっ、いいところだったのに何でお前がここに来るんだよ柳」
男子生徒が三人と瑠奈。
手引きしたのは瑠奈で三人は協力したってところか。
「とりあえず、天音さんから離れろよ」
誰が縛ったのか何をしようとしていたのか。
聞きたいことは山ほどあるがそんなことよりも天音さんを助けることのほうが先だ。
「いやだと言ったら?」
「お前らを組み伏せてでも助ける。邪魔をするなら容赦はしない」
正直こんな奴らと争う暇はない。
今すぐにでも縄をほどいて助けたいんだ。
「ははっ、お前状況理解してるのか? こっちは男子が三人と女子が一人。四対一だ。勝てるとでも思っているのか?」
「どうかな。そういうってことは素直に引くつもりはないという認識でいいのか?」
「当たり前だろ?ここまでしたんだ。ここで引き下がるわけなだろ」
どうやら素直に引くつもりはないらしい。
でも、安心した。
これでこいつらを大義名分ありで殴ることができる。
「そうか、残念だよ」
俺は一番近くにいた男子生徒を殴る。
場所は鼻っ柱だ。
全力で振りぬいた拳にあたり男は鼻血を出しながら地面に転がる。
すぐにもう一人の男子生徒が殴りかかってくる。
が、何とかそれを後ろに下がってよけてがら空きの腹に蹴りを入れる。
「これで二対一だ。瑠奈は喧嘩なんかできないだろうし残るのはお前だけだな飯田」
「ちっ、本当に気に食わねえ。やってくるタイミングも気に食わねえしお前なんかが天音永遠と一緒に行動してることも気に食わねえ」
こいつの感情なんてどうでもいい。
今は天音さんを助けることが第一優先だ。
こんなゴミの言葉に耳を傾けている暇はない。
「そんなのどうでもいい。そこをどけ」
「どくわけねえだろ!」
大ぶりのパンチが飛んでくる。
予備動作が大きすぎてよけるのは簡単だし隙も大きい。
あんなに自信満々だったのに拍子抜けだ。
「じゃあ寝てろ」
パンチを避けて俺は全力の蹴りを股間にお見舞いした。
「ぴゃ、あ”あ”」
声にならない声をあげながら股間を押さえてうずくまる飯田をよそに俺はすぐに天音さんに駆け寄る。
「大丈夫、なわけないか。今すぐに縄外すね」
手足を縛っていた縄をほどいて口に入れられていた布も取り除く。
ひとまず見た感じは外傷はなく乱暴された痕跡も見当たらないから安心する。
「ありがとう、でもどうしてあなたがここに?」
「その話は家に帰ってからかな。とりあえずはこの場を何とかしないと」
周りには倒れている男とうずくまっている男、それと突っ立っている瑠奈だけだ。
「天音さんは先生を呼んできてもらえるかな?この場は見張っとくから」
「わかったわ。よろしくね」
これで後は先生が到着するのを待つだけだ。
「空、私は」
「喋るな。お前からはもう何も聞きたくない。本当になんで俺はお前みたいなやつと付き合ってたんだろうな。自分が汚らわしく思えてくる」
浮気して冤罪で俺を貶めて、冤罪がバレれば擦り寄ってきて。
そして、天音さんに迷惑までかけた。
殺してやりたいくらいに憎い。
もし、天音さんに何かあったら俺はこいつを殺していたかもしれない。
「そんな言い方ないでしょ! 私は洗脳されてる空を助けようと思って…」
「洗脳? 何言ってんだお前? そんなことされてるわけないだろう」
「じゃあ、なんで私にそんなに冷たいのよ! もっと昔みたいに接してよ!」
何を言ってるんだ?
最初に俺を裏切ったのはこいつなのになんでこんなことを堂々と言えるんだ?
本当にわからない。
自分の仕出かしたことを忘れているのか?
そうでないとこんな発言できない。
怖い。
心底恐怖を感じる。
「お前が最初に俺を裏切らなければ昔みたいに接することができたかもな。でも、もう無理だ。お前は俺の一番大事な人を傷つけた。許すことはできないしもう情けをかけることもしない」
「一番大切な人って天音永遠のことを言ってるの? やっぱり洗脳されてるんだ!」
「洗脳なんてされてない。天音さんは俺が一番苦しいときに助けてくれた人だ。それに冤罪を流された俺を信じてくれたりもした。本当に大切な人なんだ。お前と違ってな」
洗脳なんてされているわけがない。
そもそも天音さんが俺を洗脳するメリットがない。
こいつは自分のしたことを棚に上げて俺が洗脳されてることにして自分を正当化していただけだ。
本当に自己中心的な考え方だ。
「でも…」
「だから、喋るな。金輪際かかわってくるな。というか、かかわらせない。どんな手を使ってもお前に俺たちとかかわらせないようにする」
裁判でも何でもいい。
もうこいつに慈悲はかけない。
それをした後にこいつがどんな目にあってもそれは自業自得だ。
俺の知ったことではない。
「もうそろそろ天音さんが先生を連れてくるだろう。それでお前らは終わりだ」
少し前にこいつに慈悲をかけた俺がバカだった。
もっと徹底的に追い詰めて壊しておくべきだった。
何よりも、七海さんに助言を受けていたにも関わらずこの事態を招いた自分自身が一番許せない。
「お前ら! 話は聞いたぞ。いったん全員生徒指導室に来なさい!」
直後生徒指導の先生とともに天音さんと七海さんが屋上にやってきた。
「なんで七海さんが?」
「一応事後処理用員みたいなものですよ。私はこの人たちが天音先輩にしたことを客観的に証明できる証拠を持っているので」
どうやら、俺にメッセージを送ったときからこうなることは予想がついていたらしい。
用意周到な後輩に関心半分恐ろしさ半分だ。
でも、こうなることが分かっていたのなら助けてほしかったとも思うけどそれはきっと望みすぎというものなのだろう。
「それよりも先輩、この貸しはかなり大きいですよ?」
「……わかってる」
七海さんは俺にだけ聞こえるように耳打ちをしてきた。
この借りをどうやって返せばいいのか、何を要求されるのか。
考えると凄く怖くなるけど、天音さんを無事に助けられたんだからどんな要求でものむつもりでいるんだけどできればお手柔らかにしてほしいところだな。
◇
「とりあえず、天音と柳、それから杉浦は帰っていいぞ! 状況的にお前らは被害者だろうしな」
「わかりました。ありがとうございます」
それだけ言って俺は天音さんを連れて生徒指導室を後にしようとした。
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