第40話 好意の自覚と瑠奈の復讐
「はい。できたわよ」
「ありがとう。いただきます」
天音さんが小粥を作ってきてくれた。
見た目がとてもいい。
何でだろう、俺が作った小粥より数段美味しそうに見える。
「おいしい!」
小粥の中には梅干しが一つ入っていてそれがまたおいしい。
「よかったわ。といっても小粥なんて誰が作っても一定のクオリティで作れるじゃない」
「いや、俺が前に作った小粥より数段美味しそうに見えるんだけど?」
「まあ、そりゃあ少しは変わるわよ。私は常日頃料理をしているし」
「だよね」
いつも天音さんが作ってくれている料理はどれもこれもおいしい。
普段から料理をしている人が小粥を作ってくれると素人の俺が作るよりも数段美味しく作れるのだろう。
俺も今度料理を教えてもらおうかな。
いつまでも頼りきりじゃ良くないしな。
「そんなことよりも体調は大丈夫なの?」
「まあ昨日よりはましかな。熱も37.1度に下がったから少しは楽かな」
「ならよかったわ。何か他にして欲しいこととかはあるかしら?」
「ううん。今のところは大丈夫かな。ありがとう」
食事は作ってもらったし薬も飲んだ。
後は寝るだけだからやってほしいことは特にない。
「そう? あなたが眠るまで手でも握ってあげようかと思ったのだけどね」
天音さんは少しいたずらっぽく笑う。
楽しそうに見えるのは俺をからかって面白いからだろう。
「天音さんじゃないんだから。大丈夫だよ」
「私のことをバカにしているのかしら?」
笑顔で聞き返してくるけど目が笑っていない。
どうやら地雷だったようだ。
「まさか、あの時の天音さんは可愛かったなと思ってね」
弱弱しい天音さんなんてあの時初めて見た。
それが可愛らしかったと思うのは本音だ。
「あなたってたまにすごく恥ずかしいこと言うわよね」
「そうでもないよ。俺はただ思ったことを言ってるだけだし」
「そう。わかったわ。また何かあったら連絡して頂戴。今日はこの部屋のリビングにいる予定だし」
天音さんも出て行った事だし寝るとするか。
今度は変な夢見ないといいな。
◇
「全く空はときどきああいうことを言うから困るのよね」
先ほど空に言われたことを思い出して少し恥ずかしくなる。
空は好意もないのにあんなことを誰にでも言うのかしら?
もしそうだったら少しだけ、ほんの少しだけもやもやするわね。
「でも、よく考えてみれば昔の空は堀井さんにああいうことを言っていたわけよね」
少し嫌だ。
なんでかと聞かれると私にもわからない。
わかってしまったらいけない気がする。
「さて、こんなどうしようもないこと考えてないで勉強でもしていましょうか」
今日は学校を休んでしまったからその分を取り戻さないと。
そう言えば藤田君はどうなったのかしら?
退学になったのは知っているけどそれ以降の動向が全くつかめないのよね。
彼の性格上空に何かしてくると思っていたのだけどそういう素振りも見られないし。
少し不安ね。
「まあいいわ。私が今考えてもどうしようもないことだしね」
私はそう割り切って部屋からもってきた教科書に視線を落とした。
◇
「じゃあ、私は学校に行くから今日一日は安静にしてるのよ?」
「もちろんそうしてるよ。しっかり今日で直して明日からまた学校に行くよ」
風邪を引いてから一日が過ぎてしっかり熱がさがったけど様子見のために今日一日休むように言われた。
俺は大丈夫だって言ったんだけど全然聞き入れてもらえずに無理やり休まされる羽目になった。
「そうして頂戴。私も今日はすぐに帰るから夕飯のリクエストがあるなら聞いてあげるわよ?」
「とくには。天音さんが作る夕飯はどれもおいしいから俺は何だって嬉しいよ」
「口が上手いわね。じゃあ、楽しみにしておいて頂戴」
「うん。楽しみにしてる」
「じゃあ、行ってくるわね」
「ああ。行ってらっしゃい」
なんだか新婚夫婦みたいなやり取りを玄関先でしてから部屋に戻る。
正直体調はかなり良くなってきてるから勉強でもするか?
「多分だけど天音さんは頭のいい大学に行きそうだしな~しっかり勉強しておかないと同じ大学に行けなくなる」
出来れば天音さんと同じ学校に行きたい。
こう思う時点で多分俺は天音さんのことが好きなんだろうな。
まあ、一緒にいて好きにならないわけないか。
容姿がいいという理由で彼女を好きになる人間は多いと思う。
大半の人間はそこで終わりだ。
性格面を見ていない。
でも、天音さんの本当の魅力は内面にあると俺は思う。
優しいところ気遣いができるところ。
料理ができるところ。
あげて行けばキリがない。
「でも、釣り合わないんだよな~俺と天音さんじゃあさ」
俺はこれといって秀でている部分はない。
顔が特段良いわけでもないし性格がいいわけでもない。
自分で言っていてなんだけど俺って性格悪いしな。
「料理とかもできるわけないしな」
それは覚えればいい話なんだろうけどな。
◇
「やっぱり空がいないと学校は退屈ね」
大事を取って今日は空を休ませたけど失敗だったかしら。
登校中もお昼休みも暇で暇で仕方がないわ。
「でも、無理をさせるのは良くないしね」
これで熱がぶり返したりしたら目も当てられないものね。
それにしても本当に暇ね。
いつもどれだけ空の存在が私にとって大きなものなのか改めて認識できるわね。
「あれ?天音先輩おひとりですか?」
「ええ。そうだけれどあなたは?」
ネクタイの色からして一年生?
見たことは無い、わよね?
あんまり自信が無い。
学校で関わった記憶はない。
「私は一年生の杉浦七海って言います。初めまして」
「ご丁寧にどうも。私は二年生の天音永遠よ。それで私に何か用かしら?」
「用というほどのものじゃないんですけど今日は柳先輩はいないんですか?」
「なんで空のことを私に聞くのかしら?」
「ずっと一緒にいるのって天音先輩くらいじゃないですか。だから知ってるかな~と思っただけです」
確かに私と空は最近ずっと一緒にいたけど、まさか後輩にまで知れ渡っているとは思いもしなかったわね。
「今日は風邪で休みよ」
「そうだったんですね。教えていただいてありがとうございます」
「え、ええ。それは良いのだけど」
「では、私は失礼しますね」
そういって杉浦さんは教室に戻ってしまった。
一体何だったのかしら?
ん?
「そうか、空が前に遊びに行った女の子じゃなかったかしら?」
名前が確か七海さんといっていた気がするし。
私の記憶が確かならだけど。
「なおさら、私に何の用だったのかしら?」
わからないけど確かめるすべがないのだから考えても仕方ないことよね。
そんなことよりも早く家に帰って空に会いたいわ。
それから帰りの時間まで私の退屈な時間は続いた。
◇
「全く柳先輩は私の忠告を覚えてないのかな~」
あんなに念を押したのに。
これじゃあ私の忠告が無意味になっちゃうじゃんか。
「ま、不満をこぼしても風邪なんだから仕方ないかな」
でも、このままじゃ不味いって言うのも本当なんだよね~
取り返しのつかないことになるといけないし。
しょうがない。
七海様が一肌脱ぐとしますかね。
そうして私は行動を開始する。
◇
「今日は空休みなんだ」
教室を見まわして空がいないことに気が付いて、その後に先生が出席を取っているときに休みだと確信した。
つまり、今日は天音永遠は一人。
復讐するなら今日しかない。
「ふふっ、私の日ごろの行いがいいからこんなにも早く機会が回ってきたのかな?」
まあ何でもいいけどね。
でも、正直私一人だと厳しいから何人か協力者を集めないとな~
とはいっても私はクラスのみんな、特に停学になった人たちからすごく嫌われてるから難しいよな~
「あ!? いいこと思いついちゃった!」
私はこのひらめきを頼りに行動を開始することにした。
空を洗脳している魔女を殺すための行動を。
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