第39話 特別視
本当に疲れた。
最近はずっと復讐のことを考えてたりしてて気を張ってたからずっと気が休まらなかった。
「なんか、しんどい」
身体がとんでもなく重い。
何とかしてベッドにたどり着いたけどこれ以上動ける気がしない。
「これ、やばい奴かも」
クリスマスからずっと気を張ってて落ち着いて眠れる日なんてほとんどなかった。
あれからまだ一ヶ月くらいしか経ってないけどこの一か月はとんでもなく濃い日常だった。
親友に恋人を奪われて、両親には見捨てられて。
ほとんどの人間から悪意を向けられてきた。
だから常に気を張っていたし気を休めることなんてほとんどできなかった。
天音さんと一緒にいる時間は楽しかったし安らぐことができたけどそれにも限度がある。
多分だけど今の体調不良これまでの疲れが来たのだと思う。
「とりあえず寝よう。寝れば治るかもしれないし、何よりしんどすぎて起きてられない」
制服のままベッドに倒れこんで目を瞑る。
するとすぐに睡魔が襲ってきて意識を手放した。
◇
「ん、んん?」
「空起きなさい。夕飯もうできてるわよ?」
「あまねさん?」
ぼんやりする視界の中で天音さんが立っているのが見えた。
あれ? なんで天音さんが俺の部屋にいるんだ?
だめだ。頭にもやがかかってるみたいでうまく思考がまとまらない。
「空、あなた熱あるでしょ」
「どうかな。計ってないからわかんないけど確かにかなりしんどいかも」
頭は痛いし体は重い。
さっきから寒気がとまんないし頭がぼ~っとする。
確かに熱があるのかもしれない。
「とりあえず体温計持ってくるから熱計りなさい。美空ちゃんには私から言っておくから」
「度々迷惑かけてごめん」
「この件に関してはお互い様でしょ? 前に私が風邪ひいたときも看病してもらったのだから」
そんなこともあったな~
あの時は天音さんのカミングアウトが衝撃的過ぎて看病のことを忘れてた。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。ありがと」
「どういたしまして。とりあえずはゆっくり休みなさい。多分精神的に疲れが出たんだろうからね」
「あはは。お恥ずかしい」
「恥ずかしがる必要はないでしょう。あんなことがあったんだから疲れて当然よ。とりあえず今はゆっくり休みなさい」
天音さんはそういって部屋から出て行った。
相変わらず頼もしいな。
今はお言葉に甘えて休もう。
◇
「永遠姉さんお兄は?」
「熱が出てるみたい。今から体温計を持っていくけど多分夕飯は食べられそうにないわね」
「そうなんですか!? 一体どうして」
「多分精神的な疲れが原因でしょうね。空は私たちにあんまり弱っているところを見せようとしないけど普通に考えてみれば高校生の子供がいきなりあんな目に遭って平気なわけが無いのよ。それを私たちに隠して一人で行動していたのだから気が休まらなかったのでしょうね」
それはそうよね。
私が空と同じ立場だったら耐えられないと思うし。
空は私と美空ちゃんに気を使って弱い部分を隠そうとしていたし。
「それはそうかもしれませんね。じゃあ、今日のお母さんの件で一気に疲れが出たって感じでしょうか」
「多分ね。私はもう一回空の所に行くけど美空ちゃんはどうする?」
「行きたいところですけど今回はやめておきます。多分私が行くとお兄は気を使って無理しちゃうと思うので」
「それは私が行っても同じじゃないかしら?」
「いいえ。お兄は永遠姉さんを特別視している節があるので大丈夫だと思います。お兄のことお願いしますね」
特別視?
一体どういう事かしら。
まあ、美空ちゃんが言うならそうなのでしょうね。
とりあえず体温計を持って空の所に行こうかしら。
あまり待たせても悪いし。
「ええ。任せて頂戴」
◇
「で、熱は何度だったのかしら?」
「38.6度」
「かなりの高熱じゃない」
熱があるという予感は当たっていたらしくかなりの高熱だった。
これだけ熱があればそりゃあしんどいわけだ。
「あなた少し頑張り過ぎなのよ」
「え?」
いきなり変なことを言われて戸惑ってしまう。
別に俺は頑張ってなんかいない。
俺ができることをやっているだけだ。
「いつも空は無理をしているのに自分ですらそのことに気づかずに突き進んでいる。そのくせ私たちにはそのことを隠してね。私はそれがとんでもなく不安なのよ。いつか私の手の届かない場所に行ってしまいそうでね」
「ははっ、心配しすぎだよ。俺はそんな大層なことはしてないし天音さんの手の届かない場所に行く気なんてないからさ」
「あなたにその気はなくても気づかぬうちにっていう事があるかもしれないでしょ」
そんなことあるのだろうか?
俺にはよくわからないけど天音さんがそういうならそうなのだろう。
「気を付けるよ」
「何を気を付けるのかしら?」
おっと、不味いことを聞かれたな。
「……」
すごい見られてる。
ちょっと怖い。
「すいませんでした」
「よろしい」
謝るしかなかった。
「それよりも何か欲しいものとかやってほしいことはあるかしら?」
「いいや、特にないかな。今はもう少し寝てたいかも」
「そう。わかったわ。なら明日の朝また来るからその時に何かあったら言って頂戴。それと問題があったらすぐにスマホで私に連絡しなさい。いいわね?」
「うん。いつもありがとね」
「良いのよ。これくらい。じゃあ、また明日ね」
天音さんはふっとほほ笑んで部屋から出て行った。
その後ろ姿を見送った少し後に俺の意識は無くなった。
◇
「はぁ、バレたならもう隠す意味もないよね。私は悟君のことが好きなの。正直もう空に興味なんてないし別れてくれない?」
「見損なったわよ!瑠奈ちゃんに無理やり迫ったんですって!?あなたをそんな子に育てた覚えはありません!!」
「もういいです!出て行きなさい!あなたはうちの子ではありません」
頭の中にいろいろな風景が映し出される。
映し出される風景がすべて過去の記憶であることはすぐに分かった。
それも俺が見た中で最も嫌な記憶に分類されるものだ。
「ははっ、体調悪い時にこういうの見やすくなるのかな。割り切ったと思ってたけど結構堪えるな」
未練があるわけじゃない。
瑠奈にも母さんにも。
でも、こうして改めてこの光景を見ると辛くなってしまう。
「俺もまだまだ弱いってことなんだろうな」
早くこんな夢冷めてしまえばいいのに。
この夢を見続けるのは少々辛すぎるから。
「……きさない」
「起きなさい!」
「へ……?」
眼をあけると天音さんの顔がすぐそばにあった。
瞬間的に心臓が速く鼓動する。
言うなれば全力疾走した後くらいには心拍数が上がっている。
「大丈夫? かなりうなされてたみたいだけど?」
「う、うん。少し嫌な夢を見ただけだよ」
「そう? ならいいのだけど。体調はどうなのかしら」
「まだしんどいかな。頭も痛いし」
熱も少しあるような気がする。
流石に今日は学校休むか。
「じゃあ、今日は休みなさい。私も休んで看病するから」
「いや、それはいいよ。申し訳ないし」
看病をしてもらうほど大したしんどさではないし天音さんを休ませるのは申し訳ない。
「それが私が前にあなたに看病してもらったときに思った事よ。あなたも観念して味わいなさい」
そう言われると弱い。
確かに俺も前に強引に看病したから何も言い返せない。
「じゃあ、お願いします」
諦めて看病してもらうことにした。
誰かに看病されるなんて久しぶりかもしれない。
「はい。それじゃあ小粥でも作ってくるけど食べれるかしら?」
「食べれる。お願いします」
「わかったわ。じゃあ作ってくるわね」
やっぱり天音さんは優しいな~
絶対にいいお嫁さんになると思う。
「って俺はなんでこんな変なこと考えてるんだか」
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