第38話 美空の決心

「美空、だよな」


 私が学校から帰っていると懐かしい声が聞こえてきた。


「お父さん……」


 お兄を家から追い出して私が家に帰らなくても何も行動しなかったお父さんが其処にはいた。


「よかった! 無事だったんだな!」


「まあね。それよりもこんなところで待ち伏せてて今更何の用?」


 ここは高校の最寄り駅だから絶対にお父さんがいるような場所じゃない。

 必然的にお父さんは私のことを待ち伏せてたことになる。


「いや、お前が心配で。家にも帰ってきてなかったしな」


「うん。私は今、違う場所に住んでるからね。それにもうお父さんたちは私の保護者じゃない。だから関わらないで」


 別に私のことを心配してないってのもわかってるしそれに関して何か思うこともない。

 でも、お兄を傷つけることは許せない。

 お兄は私にとって一番大切な人だから。

 いつも一緒にいてくれていつも私のことを守ってくれたお兄。

 そんなお兄を傷つけたあの人たちを私は許せない。


「そんな言い方無いだろう」


「事実でしょ。お兄を追い出して育児放棄で親権を失ってるんだからあなたたちはも私にとって血のつながってるだけの他人だよ。私にもお兄にも関わらないで」


 これ以上この人たちがお兄に関わるとお兄が嫌な気分になる。

 お兄は優しいから私をこの人たちと遠ざけようとする。

 一番つらいのは自分なのにそれを隠して、私たちに心配をかけないようにして。

 そんなお兄は見てられない。


「それは、でもお前たちは俺達の子供なんだ。たまには顔を見せてくれてもいいんじゃないか」


「どの口が言ってるの? そんな子供のお兄のことを信じないで追い出したのはあなた達でしょ? それを今更そんな風に言うなんて都合がよすぎるよ」


 本当に都合がよすぎる。

 お兄のことを追い出しといてなんで今更自分たちの子供なんて言うんだろうか。

 いや、いえるんだろうか。

 こんな人たちと同じ血が流れてると思うだけで寒気がする。


「話はこれだけ。じゃあ、私達にはもう関わらないで。次待ち伏せなんてしたら通報するから。それじゃあ」


 それだけ言って私はとっととその場を後にした。

 正直に言ってもう顔も見たくはなかった。

 それ以上にお兄と会わないでほしかった。

 せっかく最近のお兄は昔みたいに自然に笑ってくれるようになったのにその笑顔を曇らせることだけはしないでほしい。


「お兄は永遠姉さんのこと好きなのかな~」


 もし、2人が結婚して永遠姉さんが永遠義姉さんになったらいいのに。

 そうなるにしてもまだまだ先かもな~

 お兄って恋愛関係は奥手だし。

 というか、永遠姉さんにその気があるのかどうかもわかんないし。


「まあ、今はそんなこと気にしなくてもいっかな。お兄はいろんな問題に巻き込まれてるけどなんやかんや永遠姉さんと一緒にいて楽しそうだからいいかな」


 とりあえず、家に帰ったら今の出来事は報告しとかないとな。

 そう考えて私は家に帰った。


 ◇


「おかえり美空」


「ただいま~お兄。永遠姉さん」


「おかえりなさい。美空ちゃん」


「今日はいつもより遅かったけどなんかあったのか?」


 いつもは俺と天音さんよりも早めに帰ってきている気がするけど今日はそうじゃなかった。

 だから何かあったのか少し心配になってしまった。


「まあね。帰りにお父さんに待ち伏せされたんだよ。まあ、ほとんど話さずに関わらないでって言ってすぐに帰ってきたわけだけどね」


「美空もか。実は俺の所にも母さんが来たよ。要件は心配してたとか言ってたくらいっていうか要件聞く前に話しきってかえってきたから詳しくわかんないわ」


「私の方も大体同じ感じかな」


 タイミングが同じってことは二人ですり合わせて待ち伏せてたんだろうな。

 一体何がしたかったのかはわかんないけど。


「美空ちゃんも大変だったわね」


「別に私は大丈夫ですよ。それよりもごめんなさい。私たちの問題に永遠姉さんを巻き込んじゃって」


「そこは良いのよ。空が助けてくれたし」


「そうなの?お兄」


「いや、どちらかというと助けられたのは俺の方だな。母さんに詰め寄られても堂々と反論しててかっこよかったぞ」


「あら、空も私がビンタされそうになったのを助けてくれたじゃない」


「お兄、お母さんが永遠姉さんにビンタしようとしたの!?」


 一瞬物凄く真顔になった美空が俺に視線を向けてくる。

 どうやらこの件に関しては美空もかなりご立腹のようだった。

 それは俺も同じなわけだが。


「まあな。一応もう関わるなと言っておいたが、もしまた美空に会いに来るようなことがあったら教えてくれ。それなりの対応をするから」


 これで関わってくるというのであれば全面戦争だ。

 俺はあらゆる手を使ってあの二人を追い詰める。

 今まで育ててもらった恩で今回は見逃したが次はない。

 情け容赦なく絶対に破滅させる。


「わかった」


「じゃあ、俺は部屋に戻るよ。今日は流石に精神的に疲れた」


「そうね。今日はゆっくり休みなさい。夕飯ができたら連絡するわ」


「ありがと。いつも迷惑かけてごめん」


 いつも天音さんには助けられてばっかりだな~

 でも、今はその優しさに甘えよう。

 今日は本当に疲れた。


 ◇


「お兄大丈夫かな」


「大丈夫よ。空はなんやかんやで強いから」


「お兄のこと信頼してるんですね」


「信頼っていうのかどうかはわからないけど確かにそうね」


 どうやら、永遠姉さんはお兄のことを悪く思ってないようで安心した。

 まあ、今までのやり取りを見てれば悪い印象を抱いていないのはわかりきっていたけど。


「永遠姉さんにも今回は迷惑をかけてごめんなさい」


「いいえ。さっきも言ったけど空が助けてくれたから何ともないわよ」


 よかった。

 これで永遠姉さんに何かあったらお兄はどうしてたんだろう。

 あんまり考えたくない。


「ならよかったです」


「やっぱり美空ちゃんも空に似てるのね」


「ん?そうですか?」


 あんまり言われたことないかも。

 私とお兄が似てるって。

 昔は顔が似てるって言われたことは何回もあったけど性格面で言われたことは無かった気がするし。


「そうよ。優しいところとか常にだれかを気にしてるところとかね」


「そんな自覚は無いんですけどね」


「自覚がないところも含めて似てるのよ」


「それは嬉しいですね」


「美空ちゃんは空のことが大好きなのね」


「はい! 自慢のお兄なので」


 私はお兄のことが大好き。

 勿論家族としてだけどそれでもお兄のことは誰よりも大好きな自信がある。

 小さい時にいつも私も面倒を見てくれたのはお兄だし遊んでくれたのも助けてくれたのもお兄だった。

 だから今度は私がお兄のことを助けたい。

 辛い時に寄り添いたい。

 もし、仮にあの人たちがもう一度私やお兄に何かしてこようとしてきたら次は私がどうにかする。

 どんな手を使っても。


「なんだか空と美空ちゃんの関係性が少しうらやましいわ。私は兄妹がいないから」


「そうなんですか?」


「ええ。一人っ子だからそんなに信頼でいる身内はいないのよ」


「ご両親とかは?」


「昔から仕事が忙しくてあまり家にはいなかったから思い出とかは無いのよね」


 そう言えば前にお兄が永遠姉さんの家庭の事情は複雑そうって聞いたことがあった。

 今の質問はよくなかったかも。


「そうなんですね。なんか変なこと聞いちゃってごめんなさい」


「いいのよ。今は空と美空ちゃんがいるんだもの」


 そう言っている永遠姉さんの顔はなんだかはかなく見えたのは私の気のせいではないと思う。

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