第36話 噂と計画

「瑠奈、なんでいるんだよ」


「そりゃあ停学期間が終わったからに決まってるじゃん」


「そういう事じゃない。前に関わるなって言ったはずだ。どうして関わってくるんだよ」


「だって私達幼馴染でしょ?関わってるのって普通じゃない?」


 普通じゃない。

 幼馴染が必ずしも仲がいいって言うのは物語の中の世界だけだ。

 だから、こいつの理屈は通らない。


「普通なわけあるか。俺はお前と関わりたくない。せいぜい悟とよろしくやってろよ」


 こいつはクリスマスの時に言ってたじゃないか。

 悟のことが好きでもう俺に興味はないと。

 それがなんで今更俺に関わろうとするのか心底意味が分からない。

 最近は両親のことで大変なのにこいつに構っている暇は今の俺にはない。

 正直言って暇があっても関わりたくはない。


「そんなこと言わずにさ。前みたいに仲良くしようよ」


「無理だ。マジで関わってくんな不愉快極まりない」


 これ以上顔を見たくなかったから俺はいったんトイレに避難する。


「マジであいつ何なんだよ。心臓に毛でも生えてるのかよ」


 あんなことをしておいて普通にかかわろうとしてくるなんて気が知れない。

 俺は今まであんな奴と付き合ってるなんて自分に呆れが出てくる。


「っと、そろそろホームルームが始まるな。戻らないと」


 はっきり言って憂鬱だけど戻らないと遅刻扱いになってしまう。

 せっかく学校に来たのにそうなってしまってはもったいない。



「柳君本当に大変そうだね」


「やっぱり一ノ瀬さんもそう思う?」


「うん。さすがにあんな感じで来られたらわたしだったら普通に無理だし」


「だよな~」


 教室に戻ってとりあえず席に着く。

 瑠奈がこないことを願いながら俺は一ノ瀬さんと雑談をする。

 教室で会話をできるのは一ノ瀬さんくらいだし。


「でもまあ、この前みたいに天音さんに近づきたい奴から声をかけられることが無くなったからマシになったっちゃなったんだろうけど」


「そう思ったら次は元カノが来た、と。柳君も災難だよね」


「ほんとそれな」


「でもいいじゃん。柳君あの天音さんと付き合ってるんでしょ?」


「え?」


 俺と天音さんが??

 ないない。

 というか釣り合いが取れて無さすぎるし、何より天音さんが俺なんかを好きになるわけなくないか??

 俺が天音さんに惹かれる理由はたくさんあるけど天音さんが俺に惹かれる理由は何一つないと思う。


「えって違うの?」


「違うけど、一体どこからそんな噂が?」


 どうやら一ノ瀬さんは本気で俺たちが付き合っていると思っていたようで頭をかしげていた。


「少し前からかな?あの男の人と全く関わらなかった天音さんが男の人と登校してるって話でみんな付き合ってるって噂が立ってたよ?私もそうだと思ってたんだけど」


「なるほどな。確かに客観的に見ればそう言われても文句は言えないな」


 今までの天音さんの行動を考えてみればそういう噂が立ってもおかしくはないのかもしれない。

 そりゃあ今まで男関係で何の噂もないどころか全く関わらなかった人がいきなり男と一緒に弁当食べたり登下校したりすると噂になるのも当然か。


「そういう反応ってことはもしかして違うの?」


「違うな。少なくとも恋仲なんかじゃない」


「じゃあ、どういう関係なの?」


 どういう関係か、難しいな。

 友人でいいのか?


「まあ、友達かな」


「へぇ~あの天音さんに友達ができたんだ。なんか意外だな~」


 天音さんの印象は一体どんなものだったんだ?


「というわけで今の俺に彼女はいない」


「そうなんだ。じゃあ、頑張ってあの元カノを退けてね」


「ぼちぼち頑張るよ」


 本当に頑張りたいと思う。

 そうでないと俺の精神がいかれてしまう。

 ただでさえ最近はあの両親のことで忙しいのにそれに加えて瑠奈の相手なんてできるわけない。

 何とかして躱さないと。


 ◇


「なるほど、停学期間が終わったのね」


「そうなんだよ。それで白々しく話しかけてきてどうしよ~って悩んでるところ」


「あなたも大変ね」


「本当に大変どころじゃないよ」


 これから毎日あんなふうに来られるのかと思うと不愉快で仕方がない。

 それでも、こうやって天音さんと一緒にお昼ご飯を食べれるから±で言ったらプラスだから学校には来るんだけどさ。


「それはそうと俺達噂になってるらしいよ?」


「噂って?」


「俺と天音さんが付き合ってるっていう噂」


「それくらい私も把握しているわよ。少し前から噂になっていたしね。それでも私に声をかけてくる男子生徒が多かったのにはさすがに呆れたのだけどね」


 どうやら付き合ってる噂が流れていることを知っていたらしい。

 なんで俺は知らなかったんだ?


「天音さんも十分大変だね」


「そうでもないわよ?あなたと付き合ってるって噂が流れてるおかげで男子生徒に声をかけられる割合がかなり減ったからその点ではあなたに感謝をしているわね。まあ、減ったってだけでそれなりの量の男子生徒から声をかけられてるんだけどね」


 どうやら不愉快には思われていなさそうで少し安心した。


「じゃあ、噂は放置っていうスタンスでいいのかな?」


「ええ。そうしておいて。無理に否定する必要もないしね」


「わかった。じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」


 時間が経つのは早いものでもうすでに教室に戻らないといけない時間だ。

 憂鬱だけど戻らねばなるまい。


「わかったわ。じゃあまたいつものように昇降口で待っていて頂戴」


「了解」


 こうして俺は教室に戻ることになった。


 ◇


「あっ!やっと戻ってきた~どこ行ってたの?」


「お前に答える義理はない」


 戻ってきて早々に瑠奈に声をかけられて不愉快な気持ちになる。

 全くこいつは一体どんなメンタルをしているんだ。


「そんなこと言わずにさぁ~」


「本当にいい加減にしてくれ。俺はお前の顔なんてもう見たくないし声だって聞きたくない。お前は俺にそれだけの仕打ちをしたんだ」


「それは謝ってるじゃん。もうしないから私ともう一回付き合って!」


「無理だ。俺はもうお前のことなんか好きじゃないし」


 こいつ、本当にやばい奴だな。

 俺、今までよくこんな奴と付き合ってこれたなと感心半分呆れ半分である。


「もう座ったら?授業始まるよ堀井さん」


「確かに、わかったまたあとでね」


 そう言って瑠奈は自分の席に戻って行った。


「ありがとう。助かったよ一ノ瀬さん」


「ううん。このくらいは全然良いよ。本当に柳君は大変だね」


「ほんとにね。でも本当に助かったよ」


「だから、いいってば。またあんなふうに絡まれたら助けてあげる」


「その時はよろしく頼むよ」


 心強い味方ができた気がして一安心である。

 これからあいつの対応をどうするかまた考えないといけないな。

 本当に気が重い。

 一体どういう精神構造をしているのだろうか。


「任せてよ!!」


 これから先に不安を感じながらその後の授業を受けるのだった。


 ▲


『あいつのせいで停学になったんだよね』


『本当に度の面下げて学校に来たんだか』


『それな。しかもあんなことをしておいて柳に話しかけれるって逆にすごいよな』


 やっぱりみんな私の悪口を言ってくる。

 何をしても悪口を言われる。

 私は悪くないのに。

 噂を流したのは悟君だし私は悟君に利用されただけだし。


「こうなったのも全部あの女のせいだ。絶対に殺してやる」


 空が私にそっけない態度をとるのも全部あの女のせいなんだ。

 でも、殺すにしてもあの女はいっつも空と一緒にいるから何とかして引きはがしてあの女が一人になる時間を作らないと。


「ふふっ、絶対に殺してあげるから待っててよね。天音永遠」


 授業中私は密かにあの女を殺す計画を立てるのだった。

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