第30話 ゆっくりお話し?

「それじゃあ詳しく話を聞こうかしら?」


 家に帰った俺は正座をさせられて問い詰められていた。

 勿論天音さんの隣には美空が座っていて少し面白そうな表情を浮かべていた。

 いや、少しは兄を庇ってくれよ。内心でそうこぼすが美空はそんなことを気にもしていない様子であった。

 全く困った妹である。


「話といいますと?」


 天音さんの眉間がぴくぴくしている。

 返答を間違えたら相当に恐ろしい目に遭うような気がするから気をつけよう。


「あら?とぼけるつもりかしら?決まっているじゃない。あなたが土曜日に後輩の女の子と出かける件についてに決まっているじゃない」


「え!?お兄そんなことがあったの?」


 いや、お前今まで知らなかったのかよ。

 どうやら今初めて知ったようで美空は目を見開いていた。

 つまりこいつは俺が正座させられているという状況だけであそこまでにやにやしていたということになる。

 全く本当に困った妹だ。


「まあ、成り行きで」


 あれは本当に成り行きだろう。

 断わることも難しかったしな。


「へぇ~成り行きで空は女の子とデートするのね」


「待って待って!?デートじゃないって」


「男女二人きりで遊びに行くのはデートでしょう?美空ちゃんもそう思うわよね?」


「え!?ここで私に飛んでくるの?う~ん、でも確かに男女二人きりってことはデートってことになるんじゃないかな?」


 妹よ。

 おねがいだから少しは兄を庇ってくれ。

 お前が天音さんに同調したら二対一になっちまうだろう。

 ただでさえ分が悪いのに。


「ほら、美空ちゃんもこういってるわよ?つまりこの場での多数派は私達」


「それはそうだけどさ。仮にデートだったとしても別に良くないか?」


「あら?開き直りかしら?」


 天音さんの声音が数段低くなった。

 やばい。

 返答を間違えた。

 もしこれがシミュレーションゲームならこの回答は失敗に当たるのだろう。

 天音さんの反応を見ればわかる。

 俺はこの場をどうやって切り抜ければいいんだ?


「だって今俺は誰とも付き合ってるわけじゃないだろ?だから別にデートに行っても何ら問題はないと思うんだけど」


「そういう事を言うのね。前にずっと一緒にいてくれるといったのにすぐに他の女に所に行こうとするのね」


「お兄そんなこと言ってたの!?」


 確かに言いはしたけどそういう意味じゃあって、行っても無駄か。

 でも、本当に七海さんとは何もないんだよな~


「言ったな」


「じゃあお兄が悪い!!有罪死刑さよなら~」


「待て待て!兄をそんなに簡単に殺そうとするな」


 いくら何でも判決が速すぎる。

 俺は控訴するぞ?


「まあ、冗談はこのくらいにしてよかったわね」


「よかったって何が?」


「だって女の子の遊びに誘われるくらいには学校での悪い噂はなくなってきたのでしょう?それは良いことじゃない」


 天音さんは優しい声音で言っていたけど、なんだかもやもやする。

 最近の俺は少しおかしい。

 天音さんと居ると鼓動が速くなるしドキドキする。

 今だってそれは変わらない。


「確かにそうかもしれないけど、本当にデートではないんだ」


「女の子と二人で遊びに行くのに?」


「美空、ややこしくなるからお前は少し黙ってろ」


「は~い」


 今度美空になにか頼まれても聞いてやらない。

 俺はそう決意した。


「どういう事かしら?」


「七海さんは何か目的があって俺を使ってるだけだと思う。俺も七海さんに個人的な恩があるから一緒に行くだけで他意はない。前に言った約束をたがえるつもりもない」


 天音さんが拒まない限り俺は天音さんから離れるつもりはない。

 この約束をたがえるつもりは絶対にない。

 そもそも今の俺にとって一番大切なのは天音さんと美空だ。

 だから、俺が他の人を優先するなんてことは絶対にない。


「そ、そうなの?」


「当たり前だ。俺が大切なのは天音さんと美空だから」


「お兄ってそういう事簡単に行っちゃうよね。まあ、嬉しいからいいけどさ」


「本当に空はそういう言いにくいこともはっきり言うわよね」


 なんだか呆れられてない?

 おかしいな。俺はただ本心を言っただけなのに。


「まあ、いいわ。あなたの本心はわかったし行ってきなさいよ。土曜日」


「いいのか?」


「もちろんよ。もともと私はあなたの行動を束縛するつもりなんてあまりないないのだもの」


「そうなのか?」


「そうよ。まあ、一緒にいてほしいとは思うけどね」


「、、、、、」


 それってどういう意味なんだろう。

 文面通りに受け取るならただ単に一緒にいたいってだけなんだけど他意はあるのだろうか。

 もしあるのだとしたら嬉しいな。


「お兄が照れてる~」


「う、うるさいな。別にいいだろ」


 美空に指摘されて途端に顔を背ける。

 恥かしくさ半分嬉しさ半分だった。


 ◇


「約束をたがえるつもりはない、か。そういってもらえてうれしかったわね」


 私は二人が帰った後にお風呂などを済ませてベッドに入りながら空が言っていたことを思い出す。

 空は私と美空ちゃんには嘘をつかない。

 だから、本当に空は私とずっと一緒にいてくれるつもりなんだろう。

 それがどうしようもなくうれしい。

 この感情が何なのか私にはわからない。

 でも、不快な感情出ないことは確かだ。


「いつかこの感情が何なのかわかる日が来るのかしら」


 わからないけどいつかはこの感情が何なのか知りたいと思う。

 できることなら依存でないことを願うばかりね。

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