第31話 刃傷沙汰と後輩の助言
ついに土曜日がやってきてしまった。
正直あまり乗り気ではない。
それはそうだ。
俺は七海さんが何を考えているのか全く分からない。
でも、俺に対する悪意のようなものは感じなかったからそこは安心しているが俺はあまりにも七海さんのことを知らなすぎるのだ。
「どうしたもんかな~」
趣味もわからなければ好きなことも嫌いなこともわからない。
知っているのは通っている高校と年齢、性別くらいなものだ。
「こんなところで一体何をするんだよ」
七海さんからメールで呼び出された場所は俺にとって苦い思い出がある駅だった。
それなりに都会よりの駅であるのだが、この場所はクリスマスに俺が瑠奈と悟の浮気現場を目撃した場所の最寄り駅だった。
そう言えばあれからもう一ヶ月くらいたってるのか。
なんだか感慨深い。
あれからはいろいろあって時間の流れを感じることなんてあまりなかったけどこうしてここに来ると実感できる。
「でも、あの事件があったから天音さんと知り合えたんだよな」
あの時はとても悲しかったし苦しかってけどそのおかげで天音さんと出会えたと思うとまあ、いいかなとも思える。
「先輩?相変わらず独り言が好きなんすね~」
どうやら七海さんが来たようだ。
後ろから肩を叩かれる。
「違うから。君がいつも独り言をしているときに来るだけだから」
毎回毎回なんでこの子は俺が独り言をしているときにやってくるのだろうか?
「それはもう独り言が好きなのを否定できてないのでは?」
「その話はもういいから!で、わざわざなんで俺をこんなところに呼んだんだよ?」
「せっかちですね~とりあえずついてきてくださいよ」
どうやらすぐに本題を話す気はないらしく俺の前を歩きだしてしまう。
全く、見た目はすごく可愛らしいのに性格は全然可愛らしくない。
悪魔のようだ。
「わかったよ」
不満はあるけどここで駄々をこねても意味はないだろう。
俺はそう判断して七海さんの後をついていくことにした。
◇
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
七海さんと合流してから二時間ほどが経過したが一向に七海さんは要件を話そうとしなかった。
それどころか純粋に出かけているのを楽しんでいるかのような雰囲気だった。
一体何を考えてるんだ?
天音さんが言ってたみたいにただデートする相手が欲しいってだけなら七海さんなら相手なんて選び放題のはず。
ならば絶対に違う理由があるはずだ。
この子には借りはあるけど信用してはいけない気がする。
俺の勘がそう言っている。
「本当に先輩はずっと私のことを警戒してるっすね。そんなに警戒しなくても何もしないのに」
「どうかな。俺は昔の一件以降他人を信用することをやめている。今、俺が信用しているのは二人だけだ」
「その二人がうらやましいっすね。いいっすよ本題を話しても」
どうやらやっと本題を話してくれるらしい。
七海さんは俺に向き直って足を止める。
「聞かせてもらおうか」
いつになく真剣な雰囲気で七海さんは語り始めた。
「まずは今まで私たちが付けられてるのは気づいていますか?」
「気が付かなかった」
どうやら、俺たちはかなり最初のあたりから何者かにつけられていたらしい。
でも、一体どうして?
俺は誰かにつけられるようなことをした覚えはない。
「まあ、そうでしょうね。で、私が先輩を呼んだ理由はこのストーカーみたいな人をどうにかしてほしいからです」
「は?」
完全に厄介ごとじゃないか。
これじゃあ割に合わない。
下手したら刃傷沙汰のド修羅場に巻き込まれた。
「なので、そろそろ襲ってくると思いますよ?ここ人通り少ないですし」
今、俺たちが話しているのは薄暗い路地裏。
確かに人を襲うのならもってこいの場所だろう。
「お前、なにやらかしたんだよ」
「さぁ?少なくとも付け回されるようなことをした覚えはないっすけどね」
「そんなのに俺を巻き込むなよな」
全くどうやらとんでもない問題に首を突っ込んでしまったらしい。
今度からこいつのお願いは安請け合いしないようにしよう。
「っとお出ましですよ?」
七海さんがそういった次の瞬間には路地裏に数人の男が入ってきていた。
手には光るもの、ナイフが握られていた。
おいおい、マジで刃傷沙汰じゃんか。
「君、本当に何したんだよ。大抵のことじゃあナイフを持った男数人に追い回されることは起こらないと思うんだけど??」
「そこらへんはこの状況を切り抜けてから話すっすよ」
確かに今はそんな話をしている場合じゃないらしい。
じりじりと男たちが近寄ってくる。
このままいくと本当に刺されかねない。
「そりゃそうか。でも、どうするか」
路地裏というよりこの場所は袋小路の場所だからこれ以上後ろには下がれない。
かといって正面に行くわけにはいかない。
正面には男たちがいる。
正面突破しようものならめった刺しにされてしまうかもしれない。
「先輩頑張ってください!!」
「君、後で覚えておけよ?」
「後でがあればいくらでも聞いてあげるっすよ?」
本当にこの後輩は信用できない。
今度からこいつの頼みは絶対に聞かない。
聞いてたら命がいくらあっても足りない。
「死ねぇ!!」
殺す気満々で一人の男がナイフ片手に突進してくる。
「ぐっ、」
何とかよけれたけどまだ正面には4人いる。
それにこのまま時間をかけると囲まれる。
「しょうがない。行くぞ!!」
七海さんの手を取って走り出す。
刺されるかもしれないとは思うけどこうする以外に選択肢がなかった。
「どけぇ!!」
七海さんの手を引っ張りながら前方にいた男たちにタックルをかます。
刺されることなく何とか袋小路を抜けることができた。
そこから全力疾走して男たちを撒く。
◇
「これからどうする?」
「とりあえず撒けたと思いますんでそこら辺の店に入りましょう」
「わかった」
全力疾走で走って男たちを振り切った。
何とか刺されることは無かったものの本当にひどい目に遭った。
「で、なんであんな奴らに追われてたの?」
店に入って軽くドリンクを注文した後に本題を切り出す。
「私の家って探偵事務所なんすよ。で、多分だけどお父さんに何かの秘密を明かされてその復讐に娘である私を狙ったってところじゃないかな?」
「にしては君は今日襲われることをわかっていたみたいだけど??」
「そりゃ調べて知ってたっすから」
「なんで俺を巻き込んだんだよ」
一歩間違えれば死んでたぞ?
「簡単ですよ。面白そうだったからです」
「マジかよ」
こいつは多分本当にやばい奴だ。
関わり続けていたら命がいくつあっても足りない。
「それともう一つ。先輩が浮気されてる時の映像がかなり良かったのは私が探偵の仕事を手伝っていてその機材を使って撮影したからっすね」
「なるほどな。あんなに音質が良かったのはそれが理由か」
あの動画の音質はかなり良かった。
それなりに距離が離れていたのに正確に二人の話声を拾っていたからな。
「そうっすよ。そうそう、迷惑ごとに巻き込んだお詫びに先輩に一つ情報を差し上げます」
「なんだよその情報は?」
刺される可能性があった事件に巻き込んだお礼ってことはそれなりに良い情報なんだろうな?
いや、そうじゃなかったら普通に縁切る。
まじ無理。
「これからしばらくの間天音先輩から離れないほうがいいっすよ」
「どういうことだよ」
しばらくの間天音さんから離れないほうがいい?
どういうことだ?
わざわざ俺にこんなことを言うってことは無意味ではないはずだ。
だが、なんで七海さんがそんなことを?
「どうもこうも言葉の通りっすよ。離れないほうがいいです。私からの助言はこれだけ。じゃあ、今日はありがとうございました」
「ちょっとま、」
俺が引き止めるよりも先に七海さんは店を出て行った。
「、、、ここの会計俺かよ」
七海さんは海会計をせずに出て行ったため全額俺が支払う羽目になった。
まあ、そこまで高くないからいいけどさ。
「にしても、天音先輩から離れないほうがいいか。探偵の娘の助言を聞かないわけにはいかないから頭の片隅には止めておこう」
とりあえず帰るか。
今日は疲れた。
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