第28話 嫉妬もしくは独占欲
「そうなったのね。あなたのクラスは」
「うん。まあ、天音さんとお近づきになりたい人に声をかけられることが多かったんだけどね」
お昼休みに天音さんの教室で俺は昼食を取っていた。
もちろん教室の中からは複数の視線が向けられていたりしているが天音さんは全く気にした様子はない。
正直な話俺自身こうやって注目されるのは慣れて来てしまっている。
「でしょうね。私って今まで本当に学校の人と関わってこなかったから。そんな私たち唯一関わりを持っているあなたに白羽の矢がたったのでしょう?」
天音さんは自身の弁当を食べながら面白そうにしている。
俺の状況を楽しんでいるのだろう。
『おい、今天音さんが笑ったぞ?』
『嘘だろ?今まで笑ってるところなんて見たことないのに、、、』
『柳は特別ってことなのか?と言うかあの2人に今まで接点ってあったか?』
『バカ、最近一緒に登下校してるだろうが』
『いや、それは知ってんだけどよ。それよりも前、と言うか柳の変な噂が流れ始めた直後から一緒に行動してなかったか?』
『そこまでしらねぇよ』
と言ったようにクラス中がざわついていた。
今まで笑顔すら見せてなかったのか、、、
聞こえて来た声に天音さんが今まで学校で全く笑っていなかったことを知って軽く戦慄する。
「、、、」
「あら?なんでそんな目で私を見つめてくるのかしら?何か文句があるのなら聞くわよ?」
「なんでもないです」
文句ではない。
単純に今まで笑ってなかったのがすごいなーと思ってただけだ。
「そう?ならいいのだけど」
どうやら天音さんの笑顔は俺が想像していた100倍くらいレアなものだったらしい。
家では頻繁に目にしているけど、どうやらそんな天音さんを見ている俺は想像以上に恵まれているなとそう思った。
「っと、そろそろお昼休みも終わりね」
「そうだね。じゃあ俺は教室に戻ろうかな」
「ええ、今日もしっかり待っているのよ?」
「置いて帰ったりしないって。ちゃんと待ってるよ」
置いて帰ったりしたら後が怖そうだし。
それにわざわざ置いて帰る理由もない。
「よろしい。またあとでね。空」
「うん」
こうして俺は自身の教室に戻るのだった。
◇
「先輩!!見つけましたよ!」
この超元気でノリノリな声は七海さんだろうな。
「君は俺のストーカーか何かか?」
毎回昼休みが終わる直前に声をかけられている気がする。
まあ、この子が俺をつけ回す理由なんてないから偶然なんだろうけど。
いや、今回は探されてたのか。
一体どうして?
「そんなわけないじゃないっすか」
「だろうね。何か用事があったのかな?」
「そうっす!今度の土曜日私とデートしてくれませんか?」
「、、、ん?」
今七海さんはなんていった???
今度の土曜日にデート?
「だから、今度の土曜日にデートしてほしいんすよ!」
「なんで?」
俺は別に七海さんにデートに誘われるようなことをした覚えはないんだけど?
いったいどうしてこうなった?
「なんで黙ってるんすか?返答してくださいよ」
「いや、なんでいきなり?」
「別になんだっていいじゃないっすか。今度の土曜日だけでいいんで付き合ってください」
特に土曜日に予定はなかった気がするし前に悟の動画をもらった借りもある。
ここまで真剣に頼まれたら断るのもなんだか申し訳ない。
「わかった。いいよ。今度の土曜日にデートに付き合うよ」
「マジっすか!!」
「うん。場所とか時間はどうするの?」
「それはまた連絡するんでお願いします!じゃ、私はこれで」
七海さんはそういうとすぐにどこかに行ってしまった。
本当に神出鬼没で何を考えているかわからない子だけど特に悪意は感じなかったから行っても大丈夫だろう。
俺はそう判断して七海さんの提案を了承した。
◇
「じゃあ帰ろっか」
「そうね」
放課後いつも通り俺たちは二人並んで帰っていた。
いつものごとく視線は集めているがその視線に以前のような悪意はなかった。
嫉妬は感じたけど。
「そういえば昼休みの終りに女の子と話していたらしいじゃない」
「え?まあうん。話してたかな」
「一体誰なの?」
天音さんは歩く速度を少し落としながらそう聞いてきた。
なんか怒ってる?
表情からは何も読み取れないけど声音や雰囲気から怒っているような気がする。
でも、心当たりがない。
俺何か怒らせることしたかな?
「えっと、この前知り合った一個下の後輩だよ」
「ふ~ん。いつの間にそんな人と知り合ったのかしら?」
「えと、屋上から教室に帰る途中に話しかけられてそれから話すようになったって感じかな」
接点なんて他にない。
知り合ったのは多分偶然だ。
「なるほどね~」
「それと土曜日に出かけることになった」
「はぁ!?」
「待って待って!?なんでつかみかかってくるの???」
いきなりすごい形相で睨まれて胸倉をつかまれた。
なんで???
「ふふっ、いい度胸じゃない。家に帰ったら美空ちゃんも交えて三人でゆっくりお話しましょうか?空」
「、、、はい」
そういう天音さんには確かな圧が込められていて俺に選択肢はなかった。
ここでイエス以外の選択肢を取ろうものならそのまま首を絞めて殺されそうなほどには気迫があった。
◇
何でなのかしら。
空が私以外の女の子と一緒にいたって聞いてイライラする。
私の心はこんなにも狭かったのかしら?
でも、これだけイライラしているということは私の心が狭いことの証明なのでしょうね。
「空、覚悟しておきなさい」
最近は空を空音と重ねて見る頻度が少なくなったと思う。
私は彼を空音への贖罪相手としてではなく柳空として見るようになったと思う。
彼はいつも私に優しくしてくれて普段から人と関わってこなかった私に関わってくれる数少ない人間だと思う。
それでいて他の男性たちみたいに私に下心を向けてこない。
彼と一緒にいると安心するし落ち着く。
最近は彼と一緒にいる時間が一番楽しいと感じている自分がいる。
「また、私は依存しようとしているのね」
昔に空音にしたように彼としか関わらなかったら今度は空に危害が及んでしまうかもしれない。
でも、そう告げても彼は一緒にいてくれると言ってくれた。
それが心の底から嬉しかった。
「何か言った?」
「いいえ。何でもないわ。それよりも早く家に帰るわよ」
「わかったって」
空は少し困りながら私の後をついてくる。
そんな姿が可愛く見えてしまう。
ダメね。このままじゃあ本当に依存してしまいそうだわ。
気をつけないと。
私は空の隣を歩きながら密かにそう決意した。
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