第24話 ヒモと看病

「ただいま~お兄。永遠姉さん!」


「おかえり美空」


「おかえりなさい。美空ちゃん」


 といってもここは天音さんの部屋なんだけどな。

 俺と美空はそれぞれ一つの部屋を貸し与えれらてるが大体は天音さんの部屋の中で過ごすことが多い。

 美空も帰ってからすぐに天音さんの部屋を訪ねてくることがほとんどだ。

 そんなことを言っている俺も部屋は風呂に入ったり寝たりする以外では荷物置きとしてしか使っていない。

 こんなにいい部屋を貸してもらっているのにもったいないと思うけど、俺には過ぎた代物だからしょうがない。


「なんかお兄の表情がいつもと違うんだけど何かあったの?」


「何でもないよ」


「何でもないことは無いと思うんだけどな~」


 美空は俺の顔をじっと覗き込みながら聞いてきた。

 昔から俺の様子が変わるとこんな感じに顔をぐっと近づけてきて問い詰めてくる。


「そうなの?永遠姉さん」


「どうかしら。この件に関しては私が口を出すことじゃないと思うし」


「っていう事は絶対に何かあったじゃん!お兄」


「まあ、端的に言うなら俺の学校での悪評が無くなった?的な感じだ」


 嘘じゃない。

 悪評がの違いはあるわけだけど。

 そこまで言うと美空を心配させちゃうかもしれないしな。


「そうなの!?よかったじゃん。おめでとうお兄!」


「ああ。ありがとう」


 とりあえずは俺の一番の目的は達成したわけだけどこれからどうしようかな。


「立ち話は何だからとりあえずは座りましょう。美空ちゃんも帰ってきたばっかりだしね」


「うん。天音さんの言う通りだね」


「確かに。いつまでも玄関でって言うのもおかしいですよね」


 三人でリビングに向かう。

 なんだか、昔は家族全員でそろって何かするって言うのもあんまりなかったから今の状況がなんだか少し不思議に感じてしまう。

 いや、まあ天音さんとは兄妹でも何でもないんだけどな。


「お兄はこれからどうするの?学校での悪評が収まったわけだし多分だけどやりたいこともできたんでしょ?」


 天音さんに紅茶を入れてもらってから三人でリビングのテーブルに座っていた。

 こんなにも穏やかに過ごせるのは本当に久しぶりなのかもしれない。


「まあな。でも、突然やりたい事とか言われてもな~」


 復讐が終わったからすぐにハイ次に行こう!とはならない。

 というか、そんな奴がいたら普通にやばい奴でしかない。


「そうでしょうね。やりたい事なんてすぐには見つからないでしょうし、好きなだけここにいればいいわ」


「ありがたいけどいつまでも甘えているわけにもいかないからね。しっかりと自立できるように頑張るよ」


 とりあえずは大学受験かな。

 いい大学に行っていい会社に就職して恩を返したい。

 今俺がやりたい事って言うのはこれくらいしかない。


「前も言ったけど甘えてくれてもいいのだけどね。空がそういうなら私は止めないわよ」


「このままじゃあ、お兄がヒモになっちゃう」


「妹よ。そんなことを言うもんじゃないぞ」


 でも、一理ある。

 まじでこのまま行っちゃうとヒモになりかねない。

 それだけは絶対に避けないと。


「あら、私はヒモになってくれても構わないのだけど?」


「やめてくれ。さすがにそうなってくると自分が情けなすぎて死んでしまいたくなる」


「私も実の兄がヒモになってるのは見たくないかな」


 美空はジト目で俺を見ながらそういってくる。

 妹よ、お前が言い始めたことじゃないか。

 そんな様子の妹を俺もジト目で見つめ返していた。


「なら頑張ることね」


 天音さんまでそんな目で見ないでほしい。

 俺は二人にジト目で見つめられながらこの後を過ごした。

 正直とっても居心地が悪かった。

 あと、絶対にヒモにはならない!と誓った。


 ◇


「おはよう天音さん」


 いつもみたいに天音さんの部屋に入る。

 この時間は天音さんがすでに朝食を用意してリビングに座っているはずだけど、今日はそうではなかった。

 いや、それどころかいつもは朝食の匂いが漂ってくるのに今日はそれが無い。


「今日は火曜日だし。何かあったのかな?」


 天音さんが寝坊するなんて考えずらいし何かあったと考える方が自然だ。

 一応部屋のほうを見ておくか。

 今まで天音さんの私室には入ったことが無い。

 リビングやキッチンにはすでに数回入っているけど私室だけは入ったことが無かった。

 まあ、機会が無かっただけなんだけども。


「天音さん?起きてる?」


 ドアをノックしてから声をかける。

 返事がない。


「天音さん、入るよ?」


 ドアをあけて部屋を見る。

 そこは綺麗に整頓されていた。

 白を基調とした家具が置かれており本棚やベッド、机といった普通の部屋という感じの内装だった。


「天音さん?」


 ベッドの上に横たわっている天音さんはなんだか少し苦しそうに見えた。


「ふぇ?そらぁ?」


 今までで聞いたことが無いくらいふにゃけた声が聞こえてきた。

 これ、絶対大丈夫じゃない奴だろ。


「うん。空だよ。天音さん大丈夫?」


「ええ、大丈夫よ。ごめんなさい、今起きるわね」


 そう言って天音さんはベッドから立ち上がろうとしてすぐに倒れそうになってしまう。


「っと、本当に大丈夫?」


 何とか支えられたけどこれは多分大丈夫じゃないかもしれないな。

 声もあんなにふにゃけてたし。


「ちょっとごめんね」


 天音さんのおでこを右手で触る。

 熱い。

 体感だけど38度は超えている気がする。


「これ、熱ない?」


「そんなことないわ。大丈夫よ」


 俺から離れて天音さんは一人でドアのほうに歩いていってしまうがすぐにつまずいてしまう。

 これは休ませないとダメな奴だな。


「そんなことなくないじゃないか。ベッドに戻ってくれ」


 流石にこの状態の天音さんを学校に行かせるわけにはいかない。

 幸いテストとかは無いから休んでしまっても大丈夫だろう。


「でも、」


「でもじゃないよ。しょうがない。ちょっとごめんね」


 駄々をこねる天音さんを無視して抱きかかえる。

 所謂お姫様抱っこだ。


「ちょっと、そら」


「こうでもしないと天音さんは言うことを聞いてくれないでしょ?」


「ぐっ、そらのくせに生意気よ」


 天音さんは不満そうな顔をしていたけど特に抵抗されることなくベッドまで運ぶことができた。

 抵抗する気力が無いのかもしれない。


「生意気でごめんな。でもさすがに今の状態の天音さんに無理をさせるわけにはいかないからね」


「別に謝らなくてもいいわよ」


「体温計ってどこにある?持ってくるから」


「それくらい自分でできるわよ?」


「こういう時くらいは甘えてくれ」


 天音さんは本当に人を頼ろうとしないな。

 そういう所が少し不安になるんだよな。


「そこの棚よ」


 天音さんは指をさしながら教えてくれる。

 すぐに棚から体温計を取り出して渡す。


「じゃあ、計ってくれ。俺はいったん美空にこのことを伝えてくる。それと小粥でも作ってくるからキッチン使ってもいいか?」


「悪いわね。お願いするわ」


「ん。任せてくれ」


 料理ができないと自分でも思う俺だが、さすがに小粥くらいならできる。

 というかできないとやばい。


「お兄?なんで永遠姉さんの部屋から出てきたの?まさか2人って!?」


「まずはその根も葉もない考えを捨てなさい」


 全くこういう悪ふざけが好きなところは何歳になっても変わんないな。


「は~い。でもなんで出てきたの?」


「天音さん熱があるっぽいんだ。だから今日の朝食はとりあえずなしだな」


 朝食を作れる人間は天音さんと美空の二人。

 だが、美空は朝が弱くて起きる時間が遅く登校時間ギリギリだから今から作ったら間に合わない。


「なるほど。そういう事だったんだ」


「だから俺は今日学校休んで看病することにするよ」


「おっけ~私も看病したいところだけど今日はテストだからな~」


「行ってくれ。俺でも看病くらいはできる」


「わかった。永遠姉さんにお大事にって伝えておいて」


「了解だ」


 美空はそういうとすぐに学校に向かった。

 相変わらず朝が弱いようで所々寝癖が治っていなかった。


「っと小粥作んないとな」


 小粥の作り方をスマホで表示しながら作り始める。

 ある程度仕込みが終わったところで一度天音さんの私室に戻る。


「熱はどうだった?」


「38.1度だったわ」


「がっつり熱あるね。もうすこしで小粥作れそうだけど食べれそう?」


「ええ。ありがとう。あなたまで休ませてしまってごめんなさい」


「天音さんだって俺のために休んでくれたことがあるじゃないか。お互い様だよ」


 俺が美空と会ったときに天音さんはすぐに休むことを選んでくれた。

 そのおかげで俺は美空とゆっくり話すことができたんだよな。


「そうね、そういう事にしておくわ」


「そうしてくれ。じゃあ持ってくるから少し待っててくれな」


「わかったわ」


 俺はキッチンに戻って小粥をもって天音さんの部屋に向かうのだった。

 自分でも出来は悪くないと思う。

 いや、そもそも小粥に出来がいいとかあるのか???


「いや、これ以上は考えまい」


 小粥を見ながら小粥にうまい下手もないのではと考えかけた俺は必死にその考えをかき消した。

 これ以上考えると本当に悲しくなってきそうだったから。



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