第16話 買い物とナンパ

「待ちに待った週末!やっと買い物だね!お兄」


「そんなはしゃぐなよ。小学生じゃないんだから」


「いいじゃない。元気なほうが見ていて気分がいいわ」


 週末、俺たちは予定通りに大型ショッピングモールに足を運んでいた。

 美空は終始テンションが高く天音さんはそんな美空を見て楽しそうに微笑んでいる。


「お兄は買うもの決まってるの?」


「ああ。服とかの生活必需品とスマホだな」


「あれ?スマホ持ってなかったっけ?」


「持ってたけど家に置いてきちまったからな。今更取りに行く気にもならんし。それにどうせ捨てられてるさ」


 家を追い出してきた母親の様子を思い出すに俺の私物はほとんど捨てられたとみていいだろう。

 まあ、もともと取りに行く気もなかったんだけど。


「そういえば確かに空の連絡先を知らなかったわ。スマホを買ったら教えて頂戴」


「お兄私にも教えてね!!」


「もちろん。同居人の連絡先がないと何かと不便だからな」


 今の現代人にとってスマホというのは生活必需品といっても過言ではない。

 どこに行くでもスマホは必要だしなくて困ることはあってもあって困ることはない。


「そうそう、二人とも明日は暇かしら?」


「暇ですよ~」


「俺も予定はないけど何かあるのか?」


「二人の両親のことで話があるのよ。じゃあ、明日は空けといてもらってもいいかしら?」


「わかった。空けとくよ」


「了解です」


 やっと一番の問題が片付きそうだ。

 この件が片付いたら次は学校のほうを片付けよう。


「じゃあ、そろそろ行くわよ。こんな入り口でもたもたしていても何も得られるものはないからね」


「は~い」


 天音さんの言葉に美空は元気に頷いていた。

 今更だけど結構視線を集めてるんだよな。

 美空は身内びいきを抜きにしてもかわいいし天音さんは言わずもがなだ。

 そんな二人と一緒にいるのが冴えない男だからなのかいろんな人から見られている。

 割合的には男性のほうが圧倒的に多いわけだけど。


「何ぼさっとしてるの?早く来ないとおいていくわよ?」


「そうだよお兄。せっかく買い物に来たんだから楽しまなきゃ」


「わかってるからそう急かさないでくれ」


 慌てて二人の後を追う。

 買い物なんて瑠奈か悟としか来たことが無かったから少し新鮮な気持ちになる。


「じゃあまずはお兄の私服から見に行こう!!」


「そうね。空は服の持ち合わせがなかったはずだからそうしましょうか。服を見終わったらスマホを見に行きましょう」


「わかった。何から何まですまないな」


「別にいいわよ。じゃあ、行きましょうか」


 三人でショッピングモールを見て回る。

 すぐに目的の服屋にたどり着いて俺自身の服を物色する。


「やっぱシンプルなのがいいよな」


「お兄はいっつも無難な服を着てるよね。少しは冒険とかしないの?」


「いやいや、冒険とかしたらダサい服になったら困るだろ?こういうのは無難なのが一番いいんだよ」


「空はそういうタイプなのね」


「そうなんですよ。最近のお兄はずっと黒とかグレーとか白とかそういう無難な色の服しか着ないんですよ」


「しょうがないだろ?俺は自分のファッションセンスに自信が無いんだからな」


 俺が適当に服を買ったら地獄コーディネートが完成するに決まってる。

 せっかく買った服をタンスの肥やしにするなんてのはごめんだ。


「そういう事ならわたしたちで選んであげようかしら?面白そうだし」


「それすごくいいですね!!やりましょう永遠姉さん」


「という事だからしばらくの間は付き合ってね?空」


 あはは~これ俺が着せ替え人形にされる奴なんじゃ?

 だとするなら拒否したい。


「え~と、それって拒否権とかって?」


「あるわけないでしょう?おとなしく私たちにコーディネートされてなさいな」


「そうだよお兄!観念して着せ替え人形になるのだ~」


 2人に腕をがっしりと掴まれる。

 この時俺は悟った。

 これは逃げれない奴だと。


 ◇


「ふぅ~楽しかったぁ~」


「そうね。なかなか面白かったわ」


「二人が楽しそうで何よりだよ」


 2人はとても満足そうな表情だった。

 最初は二人とも真面目に俺に似合う服を選んでくれていたのだ。

 だが、、、


「お兄に似合う服を選ぶのもいいけど普段お兄が着ないような服を着せてみたいよね!」


 という美空の発言からこの着せ替え大会の拍車がかかったのだ。


「なら、これなんかどうかしら?」


 天音さんが手にしていたのはどう考えても高校生が着ないようなスーツがにぎられていた。

 なんで?


「ちょっと待て。なんでスーツなんだよ」


「だってあなたこういう服着なさそうじゃない」


「当たり前だろ!!俺はまだ高校二年生だぞ?スーツを着て外出する機会なんてないんだよ」


「だからこそ着せたいんじゃないの。大丈夫。あなたに似合うスーツを選んできたから」


「私もお兄のスーツ見てみたい!!」


 2人にそう言われては着ないわけにもいかない。

 元より俺に拒否権はなかった。


「どうかな?」


 試着室で天音さんに手渡されたスーツに袖を通す。

 自分で鏡を見てみると着ているというよりは着られているといった感じが抜けない。


「いいんじゃないかしら。普段の空よりも少し大人びて見えるわよ」


「お兄かっこいいじゃん!!」


 どうやらダサくはないらしいのでほっとする。

 まあ、天音さんが選んでくれたものだからそうそうダサいものもないか。


「じゃあ、次はこっち着てみてよ!!」


「待て待て、そう考えてもお前はふざけてるだろ。なんでそんなに世紀末みたいな服着せてこようとするんだよ」


 思い返せばここからだった。

 美空が変な服を持ってき始めたすぐ後に天音さんもそれに便乗して意味の分からない派手な服とかを持ってき始めたのだ。

 ここから先はあまり思い出したくはないけど、一つ言えるのはあの天音さんがお腹を抱えて爆笑してた。

 それはもうすっごく恥ずかしかった。

 今日起こったことはできるだけ早めに忘れるようにしよう。

 そうしよう。


 ◇


「お、お兄機嫌直してよっぷふ、」


「美空ちゃんあんまり笑ってわ、可愛そう、ぷふ、よ」


「二人ともそんなに笑いながら言われてもね」


 結果的に二人の着せ替え人形にされた挙句に相当ひどい服を着せられた。

 ツボってしまったのか服を買い終わった今でも二人はずっと笑っていた。


「そう怒らないでよお兄。新鮮で面白かったからさ」


「そうよ空。あんまり怒ってると幸せが逃げるわよ?」


「それってため息じゃないの???」


 ため息をすると幸せが逃げるって聞いたことがあるけど怒ってても幸せが逃げるのか?

 だとしたら世の中幸が薄そうで残念である。

 いや、マジで。


「そんなことよりも次は空のスマホを見に行くんでしょう。早くいくわよ」


「ちょっと待って。先にお手洗いに言ってきてもいいかな?」


 着せ替え人形にされて一時間が経っていたので少しトイレに行きたくなってしまった。


「いいわよ。私たちはここで待ってるからササっといってきなさい」


「早く戻ってきてよねお兄」


「わかってるよ。じゃ言ってくる」


 ◇


「ふう。すっきりした」


 早めに戻らないと二人に何を言われるかわかったもんじゃないな。

 少し歩く速度を速めて二人が待っている場所に戻る。

 そうして二人が見えてきたときに俺の視界に飛び込んできた光景は、、、

 ナンパだった。


「なあ、姉ちゃん暇なら俺らとお茶でもしない?」


「そうそう奢るからさ」


「いえ結構です」


「そんなに冷たいこと言わずにさ!」


「っと、すいませんね。この二人は俺の連れなのでナンパはよそでやってもらってもいいでしょうか?」


 男の一人が天音さんの手を掴もうと伸ばした手を掴む。

 相手は金髪でチャラチャラした男で俺のことをすごい目でにらみつけてきた。

 おお、こわっ。


「んだてめぇ?今俺がそこの姉ちゃんと話してんだよ。邪魔してんじゃねえ!」


 男はもう一つの手で俺に殴りかかろうとしてきた。

 避けたら天音さんに当たりかねないか。

 諦めてもう一つの手で殴りかかってくる手を止める。


「ちっ、」


「いいんですか?結構周りの人に見られてますけど?それにここ監視カメラに写ってるんで問題になったら言い逃れできませんよ?」


「おい、その辺にしとけって」


「わあったよ。ちっ」


 男たちは悪態をつきながらどこかに行ってしまった。


「二人とも大丈夫?災難だったね」


「え、ええ。助けてくれてありがとう」


「ありがとねお兄」


「いやいや、お礼を言われるようなことじゃないし。それより早く行こう。俺たちは何もしてないけどそれでも注目は集めちゃってるからさ」


 なるだけ明るい声を出して二人を安心させるように試みる。


「そうね。行きましょうか」


「うん!!」


 2人もそれに気が付いているのかはわからないけど明るくふるまって歩き始めた。

 それにしても今どきナンパなんて本当にあるんだな。

 まあ、2人が可愛いのはわかるけど嫌がっている相手に無理に迫る行為はあまり感心できないけどね。

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