第15話 悟の嫉妬
よくよく考えればこれってすごいことだよな?
俺は天音さんが作ってくれた朝食を食べながら考える。
学校で人気のマドンナのお手製の料理を朝から食べてるなんて学校の連中に知られたら殺されそうだな。
いやまあバレなくても針の筵であることに変わりはないんだけど。
「どうしたのお兄?朝から変な顔して」
「美空ちゃん大丈夫よ空がおかしいのは今日に始まったことではないでしょ?」
「確かに、、、さすが永遠姉さん。お兄のことわかってますね!!」
「お前ら俺を何だと思ってるんだ?」
朝から考え事をしてただけでこの言われよう。
ひどすぎだろ。
「どう思ってるってね~変質者?」
「おい妹。兄を変質者呼ばわりとは一体どういう了見だ」
「いえ、案外的を得てるんじゃないかしら?実際私と会ったときは公園にいた怖い人なわけだし」
「天音さんまで、、、しかも言い返しにくいところを」
うん、まあ真冬のあの時間帯に公園のベンチで座ってたら変質者といわれても否定できない。
「ふふっ、冗談はこれくらいにしといてそろそろ学校に行きましょうか。今日は金曜日だから今日を乗り越えれば休みよ」
「やった~休みだ~」
美空は両手をあげて喜びをかみしめていた。
そんなに休みがうれしいのかよ。
「買い物にも行かないといけないしね」
「それが楽しみなんですよ!永遠姉さんと買い物!!」
「あら、そんなに楽しみにしてくれてるのは嬉しいわね」
あれ?俺は?
どうやら美空は俺よりも天音さんと行きたいらしい。
「二人ともお楽しみの所申し訳ないけどそろそろ行かないと遅刻するぞ?」
2人が楽しそうに会話をしているのは見ていてうれしかったけど、さすがにこのままでは遅刻してしまう。
「あら、もうそんな時間なのね」
「早いね~もう少しゆっくりできると思ったのに」
残念そうに抗議の声をあげてる美空だけど遅刻するのは不味いと思っているようですぐに支度をしていた。
「じゃあ、私と空は行くわね。これお弁当」
「いつもありがとうございます!永遠姉さん」
「いつもといっても二日目だけどね。じゃあ遅れないようにね」
「天音さんの言う通りだぞ。絶対に遅刻するなよ~」
「お兄に言われなくてもわかってるよ。行ってらっしゃい二人とも」
「「行ってきます」」
美空に見送られながら家を出る。
昔は誰かに見送ってもらうことが当たり前だと思っていたけどそれが当り前じゃないと最近身をもってわかった。
「空もお弁当今のうちに渡しておくわね」
「ありがとう。これで今日の楽しみができたよ」
「だから大げさよ。昼食くらいで」
天音さんってなんだか自分を下げようとする節があるんだよな。
最初は気のせいかとも思ったけどやっぱりそうな気がする。
「俺にとってはくらいじゃないってことだよ。本当に楽しみんしてるんだから」
「あなたがそう思っているのは嬉しいわね」
並んで学校に続く道を歩く。
電車に数駅乗って降りたらもうすぐに同じ制服に身を包んだ生徒がいっぱいになる。
同時に視線を向けられる。
「少し慣れてきたな」
「あらいいことじゃない。こういうのはいつか慣れるものよ」
多分天音さんも常に視線を向けられる生活を送ってきたんだろうな。
これだけ容姿も整ってるし成績も優秀なんだから当たり前といえば当たり前なんだろうけど常に見られてる本人としては不愉快だったと思う。
現にこういう視線を向けられて俺は不愉快だし。
「やっぱり天音さんも苦労してきたんだね」
「それはもちろん。いろんな苦労をしてきたわ。でも、あなたみたいに苦しい経験は少ししかないけどね」
「柳先輩~奇遇ですね!!」
「わっとと、いきなり背中叩いてくるなよ。びっくりするだろ」
「すいませ~ん」
舌をべっと出しながら謝る一つ下の後輩。
昨日知り合ったばかりなのにこの子距離感おかしいな!?
あと、この子は絶対に天然なんかじゃない。
この子は多分小悪魔系やあざとい系といわれるタイプの人間だ。
さっと俺は認識を改める。
「空、この人は?」
天音さんは少し不審そうに杉浦さんのことをみていた。
かなり警戒してるな~
「えっと昨日知り合った杉浦さん」
「どもっす。杉浦七海って言います」
なんでこの子敬礼してんの?
顔をシュッとして天音さんに敬礼してた。
本当につかみどころのない子だ。
「この子少しおかしくない?」
「天音さん初対面でそれはいくら何でも失礼だよ?俺もそう思うけど」
「一番失礼なこと言ってるの柳先輩っていう自覚はあるっすか?」
いやいや、そんなジト目で見られてもな。
俺は客観的な事実を述べただけだし。
俺は悪くない!
「無視しないでくださいよ全く。それよりなんで今この学校で一番嫌われてそうな柳先輩と学校で一番人気の天音先輩が二人で登校してるんすか?もしかして恋仲とか?」
「そんなわけないでしょう。私と空はさっき偶然そこであっただけよ」
「それは無理があるんじゃ?」
首をかしげながら杉浦さんは頭に?を浮かべている。
うん。俺もさすがに無理があると思う。
「何か言ったかしら?杉浦さん?」
「ひっ、いえ何でもないっす。失礼しました!!」
大人げない。
一個下の後輩を圧で黙らせた。
「ほら、ボケっとしてないで行くわよ」
「うん」
言われるがままに俺は天音さんについていく。
そんな光景を周囲はやはり好奇の目で見つめていた。
そこには嫉妬や憎悪、怒りなどの悪感情が向けられている気がしてならなかった。
◇
「なんで空の野郎が天音と歩いてんだよ。えぇ?」
今の空は評判最悪。
この学校内でも最底辺の男だといっても過言ではない。
そんなあいつと学校のマドンナである天音がなんで一緒に歩いてんだよ。
イライラするなぁ。
「わかんない。もしかして天音さんって空みたいな性犯罪者が好きなのかな?」
「それは流石にないだろ?」
「わかんないよ?ああいう完璧に見える子が実はそういう歪んだ思考を持ってるかもしれないんだからさ」
「瑠奈が言うならそうなのか」
一応瑠奈の顔を立てて賛同しておくがそんなわけないだろう。
学校でも孤高でほとんど誰とも話さない天音と空にどんな接点があったんだ?
俺が話しかけてもまともに相手にすらされなかったのになんであんな奴と、、、
「それよりも行こ。こんなところでもたもたしてると私達まで遅刻しちゃうよ?悟君」
「あ、ああ。そうだな」
ちっ、こんな奴と一緒にいなければもう少し観察できたのに。
こいつ最近独占欲出してきてめんどくさくなってきたんだよな。
頃合いをみてこいつも地獄に落としてから捨てるか。
空と復縁を迫らせてあいつと天音の関係を探るのもいいのかもしれないな。
◇
「お待たせ天音さん」
「今日は早かったのね。じゃあ、行きましょうか」
「はいよ」
天音さんは弁当箱をもって席から立ち上がる。
向かう場所は昨日と同じ屋上だ。
「今日の学校はどうだったかしら?」
「どうって言われても変わらないよ?普通に虐めみたいなことはされてるし何ならずっと暴言は言われてる」
「それって大丈夫なの?」
「まあね。良くも悪くも慣れちゃったから。それに天音さんと美空がいるからね」
「本当に大丈夫なのね?辛くなったら絶対に相談するのよ?」
ぐっと距離を詰めて鬼気迫る表情で俺を見つめてくる。
これはいつもみたいにからかってるとかじゃなくて本当に真剣な眼差しだった。
いつもは俺をからかっているけどこういう所ではしっかりと気遣ってくれるのが天音さんの優しいところだと思う。
「わかってる。前も言ったけど耐えられなくなったらお言葉に甘えるって」
「ならいいのよ。思い悩んで勝手な行動をとるのだけはやめて頂戴ね?」
なんでこんなにさみしそうな顔をしてるんだろう?
普段から表情があんまり大きく変わらない天音さんだけど今ははっきりとわかるくらいには寂しそうでいてなんだか苦しそうな表情をしていた。
「天音さんこそ何か困ったことがあったら言ってね。俺にできることは多くないだろうけどできるだけ力になるからさ」
「頼もしいわね。では、困ったら助けてもらうことにしましょうか」
「任せてよ」
◇
「空の奴昼休みに一体どこに行ってんだよ」
「さあ?もしかしてトイレで飯でも食ってんじゃねぇか?」
「ありえるな。だとしたらお似合いじゃねえかよ」
そんなわけねえ。
そもそもあいつの弁当は何なんだ?
いや、弁当だけじゃない。
あいつは今どこに住んでるんだよ。
昨日あいつの家に行ったが少し前から帰ってきて無いといっていた。
それに加えて美空も帰ってないらしいし。
「ん?どうした悟。難しそうな顔して」
「具合でも悪いのか?」
「いや、何でもねぇよ」
今度探りを入れてみるのもありかもしれない。
何より最近のあいつなんか前と雰囲気が変わった気がするんだよな。
俺の気のせいかもしれねぇけど。
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