第14話 珍しい後輩と闇が見える永遠

「それは?」


「考えてもみなさいよ。昼休みになるたびに知らない男の人から告白されたり人気のないところに呼び出されて告白されたり。全く知らない女子生徒から友達みたいに接されるのよ?想像してみなさい。恐怖でしかないわよ」


 そういった天音さんは両手で肩を抱きながら震えていた。

 どうやら相当に嫌だったらしい。

 確かに俺もそんなことをされたら教室でおちおちと昼ごはんなんて食べてられないな。

 いわば今の俺みたいな状況ってことだもんな。

 根本にあるのが悪意なのか好意なのかっていう違いはあるけど。


「それは確かに嫌かもね。それが理由でずっとここで食べてたの?」


「そうね。だって教室に居ると落ち着かないしずっと話しかけられてゆっくりできないんだもの」


 周囲に壁を作ってる理由もそういう事なのか?

 なんだか違う気がするけど天音さんがこういってる以上は否定することもできない。


「俺は一緒にいてもいいの?」


 ふと不安になってしまった。

 本当は一人で過ごしたいのに俺に気を使って無理して過ごしているならなんだか申し訳ない。

 もし、そうだったら今度からは丁重にお断りしてボッチ飯としゃれこむことにしよう。


「いいに決まってるっじゃない。そもそもダメなら私はあなたをここに誘ってないわ。正直一人でここにいるのは静かでいいけど少し寂しかったのよ」


「そっか、じゃあありがたく今後もお昼をご一緒させてもらおうかな」


「そうしなさい」


 天音さんはすました顔でそう言っているけど少し耳が赤くなっている。

 表情があんまり変わらないから感情が読みにくいけど、少し照れてるのか?


「じゃあ、そろそろ戻りましょうか。あんまり長居してると風邪を引いちゃいそうだし授業にも遅れるわ」


「そうだね。さすがに今の状況で遅刻までしたら不味いから早めに戻らないと」


 ただでさえ学校で悪目立ちしてるのにここでさらに悪目立ちするような行為はあんまりしたくなかった。


「では戻りましょうか。あと、帰りに買い物に行くの忘れてはいないでしょうね?」


「忘れてないよ。昇降口で待ってればいいんだろ?」


「そうよ。忘れていないようでよかったわ」


「まあ、忘れるわけないでしょ。そこまで記憶力は衰えてないよ」


「なら良かったわ。もし忘れていたら空に痛い目を見てもらおうと思っていたのだけどね。残念」


 痛い目っていったいどんな目なんだ???

 怖すぎるだろ。


「ははは~」


「笑ってないで早くいくわよ」


 呆れたように肩をすくめながら天音さんは屋上を後にした。

 慌てて追いかける。


「じゃあ、私は教室に戻るわね。空も遅れないうちに戻るのよ?」


「わかってるよ。お弁当ありがとう。本当においしかった」


「それはさっき聞いたわ。早く戻りなさい」


 しっしと天音さんは俺を教室に戻るように促す。

 俺は犬か何かか??


「はいよ~」


 今、そんなことを言ってもどうしようもないので素直に天音さんに従うことにする。

 う~んなんか天音さんとの距離感がいまいちつかめないんだよな。

 名前で呼んでくるし、なんやかんや優しいし。

 普段の男嫌いの天音さんからは考えられないような対応をしてもらっていると俺も思う。

 でも、なんでそうされているかに心当たりはない。

 前に公園のベンチであったときが初対面のはず。

 都合よくラノベの主人公みたいに過去に助けた女の子が天音さんだった!?みたいなこともない。

 本当に初対面。

 名前を知っている程度の関係性だったのにいきなりなぜか家を貸してもらって生活費までも援助してもらってる。


「悪いことをしようとしてるわけじゃなさそうだけど、なんでここまでよくしてくれるのか意図が分からない。ん~」


「先輩?こんなところで何してるんですぅ~?」


「いやちょっと考え事をって君は!?」


 ネクタイの色は赤色。

 一年生か。

 いきなり声をかけてきた後輩らしき女の子は目をぱちぱちさせながら首をかしげていた。

 待てよ?

 今のを見られたってことは一人で何かをぼそぼそ呟いている危ない人間として見られたんじゃ、、、

 待って死にたい。


「私は一年の杉浦 七海といいます。そういう何やら一人でぼそぼそ呟いていた危ない先輩のお名前は?」


「危ない先輩て、否定できないのがつらいんだけど。俺は柳 空だ」


「柳って今噂になっているあの柳先輩ですか?」


 なおも首をかしげながら杉浦は問い掛けてくる。

 この子めちゃくちゃ可愛いな?

 系統は天音さんとは違って可愛い系か?

 いや、仕草とかをみるにあざとい系という奴だろうか?

 綺麗なピンク色の髪をツインテールにしており瞳の色は緑色。

 こんなに可愛い一年生がいるなんて聞いたことが無かった。

 まあ、一年生と関わる機会なんてかなったんだけどね。

 などとくだらないことを考える。


「君の言うあのが分からないけど俺の名前は確かに柳だよ」


「あれですよ!彼女さんに関係を無理やり迫ったって噂の先輩ですか?」


「めっちゃ言ってくるじゃん。そう言うのって普通気をつかってみなまで言わないもんじゃないの?」


 どうやら天然らしい。

 いや、性格が悪いという線もあるか。


「だって先輩やってないんでしょ?」


 杉浦は特に気にした様子もなく目を見つめてくる。

 なんだか、俺が考えていること全部が見透かされているような錯覚を覚える。


「なんでそう思うんだ?」


「いや、先輩がそんなことをする人間には見えないからっすよ。そもそもそういうことをする人間ってもっとこう変な感じがするんすよ。でも、先輩はそういう変な感じがしないし。だからやってないのかなって思ったんすけど」


「そうか。なんか君って珍しいタイプだね」


「なんでですか?」


「いや、今までは大体そんなことを聞かれもせずにずっと暴言を言われてきたんでな。君みたいに俺のことをみてやってないって言ってきた人間はほとんどいなかったんだよ」


 両親にすら信用してもらえなかったしな。


「それは大変っしたね。まあ、元気出してくださいよ。私でよければ話し相手くらいにはなるんで」


「ありがとう。君は優しい子だね」


「そんなことないっすよ。ただ、信憑性のない情報に流されて人を正義ずらして糾弾する人間になりたくないだけっす」


 正義ずらして糾弾するか。

 確かにそうかもしれないな。

 クラスの連中は悟と瑠奈のことを妄信的に信じて俺のことを糾弾してきたからな。


「君は一個上の先輩よりもずっと大人だよ。少なくとも俺のクラスメイト達よりはね」


「ならうれしいっす。あ!!そろそろ授業始まるんで行きますね!」


「ああ、引き止めて悪かったな」


「何言ってんすか。引き止めたのは私っすよ~じゃ」


 杉浦はそう言って走って行ってしまった。

 なんだか嵐みたいな子だったな。


「っと、俺も早く戻らないと遅刻する」


 自分のことを糾弾してこない人間が一人増えたことに喜びを感じながら俺は足早に教室に戻った。


 ◇


「柳先輩か。なんだかおもしろい先輩だったな~。今度もう一回話しかけてみようかな。顔よかったし性格も悪くなさそうだしさ」


 噂を流されてたのは知ってるし本当は何があったのか私は真実を

 多分だけど私がこの学校内で唯一じゃないかな~

 あの光景の一部始終を見てたの。

 まあ、被害者と加害者を覗いてだけど。


「ふふっ、いい人そうだし助けてあげてもいいな~。まあ、加害者の方も見てから判断しよっかな?私善人じゃないし」


 スマホに入っているデータをみて私はほくそ笑みながら今後の展開を予想して楽しむことにした。


 ◇


「空待ったかしら?」


「大丈夫10分くらいしか待ってないよ」


「こういう時は今来たところだよって言うところなのよバカ」


 横腹を肘で小突きながら天音さんはジト目を向けてきた。

 世の中には美少女にジト目を向けられて興奮する人たちがいるようだがどうやら俺はそうではないらしい。


「冗談だよ。今来たところ。そんなに睨まなくても」


「くだらない冗談はやめなさい」


「すいません」


 言い訳を許さない圧を感じて素直に謝る。

 天音さんを怒らせると本当に怖そうだから今度からはくだらない冗談は控えることにしよう。

 絶対に!!!


「いいわ許してあげる。それじゃあ行きましょうか。あんまり遅くなって美空ちゃんを待たせるのも悪いからね」


「そうだな。行くスーパーとかって決まってるの?」


「もちろんよ。いつも私が使ってるところよ」


 やっぱり天音さんはいつも自炊してるらしい。

 俺は今まで家事とかをほとんどやってこなかったから本当にすごいと思う。


「わかった。行こうか」


 こうして俺たちは歩き出すわけだけどやっぱり周りからの視線は絶えない。

 所々から陰口は聞こえてくるけど気にしないようにしている。

 多分天音さんも聞こえてるんだけど全く反応していない。


「本当直接言えないなら口になんか出さなければいいのに」


 ボソッと呟いた天音さんの表情を俺は今後一生忘れられないと思う。

 とても冷たい目をしていた。

 いや、冷たいなんて表現では生ぬるいくらいだった。

 声音も普段に比べて数段は低く鋭かった。


「天音さん?」


「っと、何かしら?」


「いや、何でもない」


「そう?」


 声をかけるとすぐに普段の天音さんに戻っていた。


「早く行きましょ。ここは少し気分が悪いわ」


「ごめん。俺のせいで」


「あなたが謝ることじゃないわ」


 天音さんはやっぱり優しいな~

 でも、さっきの天音さん本当に怖かったな。

 昔になにかあったのかな?

 でも、多分俺がその領域に踏み込んじゃダメな気がする。

 それを聞いてしまったらもう天音さんとは一緒にいられないような気がするから。


「あなたは少し自責しすぎてるわね。もっと気楽にいかないとしんどいわよ?」


「自分では自責してる意識なんかないんだけどな」


「でしょうね。逆に自責的な性格の人は大体自覚なんてしてないからね」


「それはそうかも」


「まあいいわ。早く食材を買って帰りましょう」


 天音さんに言われるがまま俺はスーパーへの道のりを歩き買い物を済ませて家に帰った。

 今気が付いたことなんだけど俺ってスマホ持ってないんだよな。

 今週末買いに行かないと。

 流石に、スマホが無いのは不便すぎる。


「じゃあ、食材は冷蔵庫に入れておいて頂戴」


「了解」


 ササっと買ってきたスーパーの袋から食材を取り出して冷蔵庫にしまう。

 三人分の食材ということもあってかなりの量を買ったから結構重かった。


「じゃあ、ちゃちゃっと夕食を作るから待ってなさい」


「うん、手伝えなくてごめん」


「別に気にしなくてもいいってずっと言ってるじゃない。私は料理するのが好きだし手間もそんなに変わらないから気にしないで」


「ありがとう」


 こうして天音さんだけに料理を作らせていると申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 でも、それを言うとこう返されるからこれからは口に出さないようにしよう。


「暇なら美空ちゃんを呼んできて頂戴。もう少し時間はかかるけどまたすぐに呼びに行かないといけないのだからね」


「わかったよ」


 立ち上がって美空の部屋に向かう。

 余談だが俺たちは三人がそれぞれの部屋の合鍵を持っているため普通に入ることができてしまう。

 まあ、俺と美空は寝るとき以外は大体天音さんの部屋にいるわけだけど。

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