第13話 針の筵とお弁当
『うわっ柳の奴来やがったぜ』
『本当じゃん。昨日はこなかったからもう学校をやめたと思ったのに』
『マジどの面下げて学校来たんだよ。いっそのこと死んでくれたらありがたいんだけどな』
『マジでそれ』
クラス中が俺を見てそんなことを言って嗤っていた。
悪意しかない言葉。
少し前の俺なら耐えられなかったかもしれない。
だが、今となってはもう何も感じない。
いや、感じる必要が無い。
「というか、画鋲と落書き残ってるじゃねえかよ。担任はこれを見ても何にも思わないのかよ」
思わないだろうな。
あの人めんどくさがりだし、どうせ隠蔽でもするんだろうな。
「おお空。お前どの面下げて学校に来たんだよ?ええ?瑠奈を無理やり襲おうとしておいて本当に面の皮が厚い奴だよなぁ?」
「悟」
クラスの連中が遠回しに俺のことを罵ってくる中悟だけが余裕の表情を浮かべて話しかけてきた。
面の皮が厚いのはどっちのほうだよ。
瑠奈を俺から奪って、居場所まで奪ってから嘘のうわさを広めておいて話しかける奴のほうが面の皮が厚いだろうに。
「というか、何しに来たんだよ?次に襲う女でも探しに来たのか?ええ?」
「そんなわけないだろ。何度でも言うが俺はそんなことをやってない。してないことで攻められてもな」
「ははっ、まだ言い訳するのかよ。瑠奈が襲われそうになっていた現場を俺がしっかり見てるんだからそんな言い訳が通用するわけないだろ」
悟は嘲るように嗤っていた。
それに同調してクラスの連中もゲラゲラと嗤っていた。
頭に血が上りそうなのを必死にこらえて俺は机の落書きを消し続ける。
「だんまりかよ。まあいいわ。もう瑠奈に関わるなよ?お前のせいで傷ついてるんだからさ」
「もともとそのつもりだ」
「そうかい。ならよかった。変に執着してストーカーみたくなったら困るからな。あはは」
絶対にこいつは地獄に叩き落とす。
改めて俺はそう決意した。
こいつは純粋な邪悪だ。
人を貶めて楽しむような生粋の屑。
今まで親友だと思ってたのは俺だけで全部こいつの掌の上で踊らされてたんだろうな。
「まだ一限目も始まっていないのにどっと疲れたな」
◇
「うわっ、あいつ本当に来たよ。大丈夫だからね!瑠奈にあいつが何かしようとしてきたら私たちが守るから」
「うん。ありがとう」
空が学校に来た。
皆は空をこぞって攻撃してた。
その中で悟君が空に近づいて何かを話していた。
距離が離れてるから何を話してるのかはきこえなかったけど悟君は笑っていて空は少し顔を顰めていた。
「柳の奴早く学校辞めてくれればいいのにね~」
「わかる。性犯罪者と同じ学校とか本当に勘弁なんだけど。いつ襲われるかわかったもんじゃないし。瑠奈もそう思うよね?」
「うん。そうだね。私もまだ怖いしあんまり顔見たくないかな」
変に空が学校に来つづけて私と悟君が流した噂が嘘だと露見したら次にああいう目に遭うのは私たちになる。
だから、このまま私たちが被害者と英雄であるうちに空にはいなくなって欲しい。
いっそのこと自殺でもしてくれればいいのに。
「だよね~しばらくは私たちと一緒に帰ろ?」
「だねだね。みんなで行動してたら襲われないだろうし」
「ありがとう。二人とも。しばらくの間お願いしようかな」
「任せててよ」
「うん!」
このままうまくいけば私は悟君と幸せになれるし、みんなから被害者として扱ってもらえる。
この生活を手放したくない。
だから、本当に空が邪魔だな~
◇
「じゃあ、今回の授業はここまでだ。解散」
三限目が終わりついに昼休みがやってきた。
正直今まで大変だった。
教科書がおじゃんになってたりクラス中からシカトされたりで授業に支障が出ることもあった。
先生はそんな空気に気づきながらも見て見ぬふりをしていたし。
「やっと昼休みか。なんかどっと疲れたわ」
この三時間でかなりの精神的疲労を覚えたけどこれからもこれが続くのだから慣れて行かないとな。
頬を叩いて気合いを入れる。
「天音さんのとこに行かないとな」
弁当箱をもって立ち上がる。
あまり待たせてると怒られそうだから怖い。
天音さんって意外とドSの素質があるんだよな~
「おい空。お前弁当箱なんか持ってどこに行こうとしてんだよ?一緒に食う相手なんかいないんだろ?」
「お前には関係ないだろ?お前が俺のことをどれだけ嫌ってても構わないけどわざわざ俺に関わるなよ。鬱陶しい。別に俺は何も言わないから瑠奈とよろしくやってろよ英雄様?」
いきなり悟に絡まれて不快で仕方なかったからつい言い過ぎてしまった。
全部本心だから訂正はしないけど。
「空、てめぇ」
「おいおいそんなに顔赤くしてどうしたんだよ?タコみたいになってるぜ?」
「、、、」
俺と悟のやり取りが注目を集めている。
誰も口を挟んだりはしないけどみんなに見られているような気がする。
まあ、そんなことどうでもいいんだけどさ。
「じゃ、俺は行くからな」
顔を真っ赤にした悟を置いて俺は教室を後にする。
悟の性格を考えればこれで引き下がるなんてことは無いんだろうけどしばらくはおとなしくしてくれると嬉しいな。
とりあえずは両親の件が片付くまではな。
◇
「お待たせ天音さん。遅くなってごめん」
「謝らなくてもいいですよ。それじゃあ行きましょうか」
「うん」
天音さんはすぐに自分の弁当箱を持って立ち上がる。
その光景がやはり珍しいのかクラス中から見られている。
今では学校一の嫌われ者の俺と学校のマドンナが一緒にいれば注目も集めるか。
これは瑠奈の噂の方以外でもやっかみを受けることになりそうだな。
「所でいい場所ってどこなの?」
「屋上よ」
「あそこって鍵かかってなかった?」
「あれは見た目だけよ。まあ、屋上に行く生徒なんてほとんどいないからそのことに気が付いている人は少ないから普段は誰もいないのよ」
「なるほど」
どうやらこの言い分的に天音さんは普段から屋上を利用しているらしい。
学校の人気者もきっと苦労があるんだろうな。
俺にはわかんないけど。
「それと空、少し遅かったようだけど何かあったの?」
「ごめん」
「怒ってるわけじゃないのよ。ただ何かあったのか気になっただけ」
「別にどうと言うことは無いよ。ただ悟に絡まれただけ」
今日の行動でわかったけどあいつは俺のことを目の敵にしている。
いつからかはわからないし何が原因だったのかも俺にはわからないけど。
「それって大丈夫なのかしら?」
「別に大丈夫だ。何か不都合があるわけでもない。だから今のところは心配しなくても大丈夫だよ」
「わかったわ。もし本当に辛かったり困ったことがあれば遠慮なく私に相談しなさい。いいわね?」
「わかった。ありがたく好意に甘えさせていただくよ」
とはいったものの本当に天音さんに頼ることは無いと思う。
天音さんには迷惑をこれ以上かけたくない。
きっとこういうと天音さんは迷惑なんかじゃないっていうんだろういけど。
「そうしなさい。ついたわよ」
「おお、ここが屋上。始めてきたな」
「でしょうね。私は去年から使ってるけど私以外がいたことは無いわね」
「去年からってまた何で」
「別にどうだっていいでしょ。それよりも早く食べましょう」
「そうだね」
「「いただきます」」
手を合わせて天音さんが作ってくれた弁当に舌鼓を打つ。
やっぱり天音さんは料理がうまい。
下手なお店で食べるよりも天音さんが作るご飯のほうがおいしいと思う。
いやマジで。
「本当においしそうに食べてくれるのね。作った甲斐があるわ」
「だって本当においしいから。こんなにおいしい弁当を食べれて俺は幸せだよ」
「大げさよ。たかが弁当くらいで」
「大げさじゃないよ。少なくとも今の俺にとっては天音さんが作ってくれるご飯が数少ない楽しみだよ」
「嬉しいことを言ってくれるじゃない。そんな風にほめられたのは私、久しぶりよ」
はかなげな笑みを覗かせる彼女から何か影を感じる。
俺の気のせいなのか?
「ならよかったよ。天音さん寒くない?」
今日は晴天で日の光がポカポカとして気持ちいいけど今が1月で真冬であることには変わりない。
しかもここは屋上でそれなりに冷たい風が吹いているから少し心配になった。
「少し肌寒いけどそれがどうしたの?」
「いや、良かったらこれ羽織ってよ」
「これ空のジャケットじゃない。ありがたいけど空は寒くないの?」
「大丈夫だよ。天音さんさっきからちょっと震えてたし」
「バレてたのね。よく見てるじゃない。じゃあありがたく羽織らさせてもらうわ」
ジャケットを羽織ってふうっと天音さんは息をついた。
どうやら結構寒かったみたい。
「全然良いよ。俺はこれくらいしかできないしさ」
「気遣いができるのは良いことよ」
「そうかな?」
「そうよ。誇ってもいいわ」
得意げに笑う彼女は先ほどまでの学校で見せていた作り物じみた笑みじゃなく心の底から笑っているかのような笑みだった。
「天音さんは何で去年から屋上で昼ご飯を食べてるの?もしよかったら聞かせてもらえないかな?」
俺は天音さんのことをもっと知りたいと思う。
知らないと恩を返すことはできないし、困ってることがあるなら力になりたいとも思う。
天音さんはなんだかいつも壁を作ってるように思うし。
俺を誰かに重ねてるようなそんな違和感を覚える。
俺の勘違いかもしれないけど俺はこの違和感の正体を知りたい。
「それは、、、」
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