第12話 地獄の幕開けと復讐の決意

「おはよう空。昨日はよく眠れたかしら?」


「おはよう天音さん。おかげさまでぐっすりと眠れたよ」


「ならよかったわ。美空ちゃんはまだ来ないのかしら?」


「ああ、あいつは寝起きが悪いからまだ寝てるのかもしれないな。あいつの部屋の鍵のスペアってあったりするか?」


「一応あるわよ。はいこれ」


 天音さんはすぐにカードキーを投げ渡してくれた。


「じゃあ、起こしてくるよ」


「いってらっしゃい。私はここで待ってるから」


 全く美空の奴、相変わらず朝が弱いんだから。

 これからはああいう所を治してもらわないとな。


「美空入るぞ~」


 部屋の鍵を開けて部屋に入る。

 やっぱり昨日住み始めたばかりだから俺のいる部屋とあまり大差ないな。


「起きろ美空。もう朝だぞ?」


 大体部屋の場所とかは同じだからすぐに美空の部屋にたどり着く。

 一応ノックをしてから部屋の中に入る。

 やっぱり寝てるな。


「おいってば。早く起きろって」


 身体を揺すって美空を起こそうと試みる。


「う、ん?お兄?なんでここに?」


「なんでって朝だからだよ。天音さんが待ってるから早く支度して天音さんの部屋に来てくれな」


「え!?そうだった!今日から朝は天音さんの家で食べるんだった!!お兄、すぐに支度して向かうから先に行ってて!起こしに来てくれてありがとう」


「はいはい。じゃあ、先行ってるな~」


 急いで着替えを始めている美空を置いて天音さんの部屋に戻る。


「美空ちゃんはどうだった?」


「やっぱりまだ寝てたよ。さっき起こしてきたからすぐに支度してこっちに来るってさ。迷惑かけてすまない」


「別に時間に余裕はあるからいいわよ。それよりもあなたは昔から美空ちゃんをよく起こしていたの?」


 特に気にしていない様子で天音さんは俺と美空の関係性について問うてくる。


「そうだね。いつもってわけじゃないけどたまには起こしに行くこともあったかな。あいつ、結構寝坊するから」


「ふふっ。なんだか羨ましいな。私には兄妹とかいなかったからそう言うの少しうらやましいかも」


 その言葉は今まで感じたことが無いくらいに感情がこもっている気がする。

 天音さんは自分のことをあんまり話そうとはしてくれないけど昔に何かあったであろうことはあったばかりの俺でもなんとなくわかる。


「そんなにいいもんじゃないけどね」


 そんなにいいものではない。

 でも、昔から俺達兄妹は助け合って生きてきた。

 そう言った人がいなかった天音さんからしたら俺たちの関係は羨ましいものなのかもしれない。


「お待たせしました!すいません寝坊してしまって」


「いいえ。気にしなくてもいいわよ。時間に余裕はあるし。それじゃあ食べましょうか」


「「「いただきます」」」


 俺達三人は手を合わせて天音さんが作ってくれた朝食を食べ始める。

 あんまり会話とかはなかったけど穏やかな朝の時間だったと思う。

 この後に待っているであろう地獄を思うと背筋に嫌な汗が流れ始める。

 割り切ったはずなのに少し前に味わった出来事がフラッシュバックしてしまう。


「じゃあ、私と空は学校に行くわね。美空ちゃんも学校でしょう?」


「はい。私もそろそろ学校に行こうと思ってます」


「ならこれお弁当。持っていって頂戴」


「いいんですか?ありがとうございます」


 お弁当なんて作ってたのか。

 驚いた。


「もちろんあなたの分もあるから心配しないで頂戴」


「ありがとう」


 クスリと笑って天音さんは俺にも弁当を渡してくれる。

 絶対においしい奴だ、この弁当。

 この先に待ち受ける地獄に少しの楽しみができた。


「別にいいわよ。じゃあ、行きましょうか。またあとでね。美空ちゃん」


「はい!また」


 なんか美少女が仲睦まじく話してる姿っていいな~

 美空は兄の俺が言うのもなんだけどめちゃくちゃ可愛いし天音さんは学園のマドンナというあだ名にたがわないほど可愛い。

 正直そこら辺の芸能人なんかより可愛いと思う。


「何考えてるの?空」


「いや、何でもないです」


 馬鹿正直に二人のことが可愛いと思っていましたなんて言えるわけもないから俺は口を噤むしかなかった。


「全く何を考えてたんだか。まあいいわ。それよりも今日は帰りにスーパーに寄ってもらってもいいかしら?食材が無くなってしまって」


「もちろん付き合うよ。そもそも食材が無くなったのは俺と美空が原因でもあるわけだし」


「そこは気にしなくてもいいんだけどね。まあ、そういうわけで荷物持ちよろしくね?」


 天音さんのウインクに胸が高鳴る。

 最愛の彼女に振られたばかりなのにこうして他の女の子にドキドキしてる自分が情けなくなる。


「それと今週末買い物に付き合いなさい」


「ん?別に何も予定はないけど何を買いに行くの?」


「あなたの日用品よ。美空ちゃんはある程度家から持ってきたものがあるだろうけどあなたはそれすらないんだから買いに行かないといけないでしょ」


「あ~そういえばなかったな」


 完全に忘れてた。

 服とか生活用品とかは最低限のものすらなかった気がする。

 買いに行く時間もなかったから気にしてなかったけど、買いに行かないといけなかった。


「なんで忘れてるのよ全く。そういうわけで今週末買いに行くわよ。もちろん拒否権はなし」


「拒否するつもりなんかないよ。わかった。今週末あけとくよ」


「よろしい。じゃあ、授業が終わったら昇降口で待っていて頂戴。できるだけ早く行けるようにするわ」


「ありがとう。気にしなくてもゆっくり来てくれて大丈夫だよ」


 俺が昇降口にいると、どうせいろんな奴からダルがらみされるんだろうな。

 それでもいい。

 別にもう気にしない。

 有象無象の言葉に耳を傾ける必要なんてないし俺がいま考えるべきことはどうやってあいつらを地獄に叩き落とすか。

 ただそれだけだ。

 今はそれだけを考えていればいい。

 他の感情は捨てろ。

 俺はあいつらを絶対に地獄に叩き落とす。


「ん?それと昼休みは一緒に食べましょう。いい場所を知ってるの」


 一瞬天音さんが俺を不思議そうに見ていたけどすぐに普通の顔になって俺を昼食に誘ってくれる。

 嬉しいな。


「わかった。俺が天音さんの教室に行くよ」


 誘ってもらったんだからそれくらいしないとな。


「わかったわ。待ってる」


 天音さんと一緒に学校で昼食を食べることになるなんて少し前の俺が聞いても絶対に信じなかっただろうな。


『今日も一緒に登校してるぞ!?』


『昨日は校門前の女の子と一緒にどこかに行ってしまったし』


『二人はどういう関係なんだ?』


『そもそも今までいろんなイケメンが告白したりしても全部断ったのになんであんな奴と一緒にいるんだよ』


 校門が近づくにつれて俺たちに視線が集まる。

 それに伴って俺に対する暴言が聞こえてくる。

 暴言だけでなく疑問や嫉妬などの声もちらほらと聞こえてくる。


「気にしなくていいわよ」


「わかってる。心配してくれてありがとう」


「別に心配したってわけじゃないけど」


 天音さんはそう言って眼をそらしてしまう。

 その様子を見た周囲はさらに動揺が広がる。


「じゃあ、俺はこっちだから」


「ええ。また昼休みに」


 そう言って俺たちは教室前で別れた。

 これで先ほどまでは天音さんと一緒にいるから向けられていた好奇の目線が無くなりその代わりに俺に対する悪意が100%になる。

 二日前はしんどかったけど今となってはもうどうでもいい。

 俺がやることに変わりはないし俺はもう虐めに屈するつもりもない。

 俺には天音さんと美空がいる。

 2人が俺を信用してくれてるからこの針の筵の中でも生きていける。


「さて、まずはこの花瓶と遺影を片付けるところから始めようか」


 そうして地獄のような一日が幕を開けるのだった。

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