第11話 悟の思惑
俺には気に食わない親友がいる。
いや、親友と思っているのはあいつだけで俺は思ってないわけだが。
あいつはいつも俺の先を行きやがる。
俺よりも運動神経がいい癖にあいつは一切その才能を生かそうとしない。
俺が精一杯努力して結果を残した野球ですらあいつと体育の授業で試合すると俺よりも活躍しやがる。
それを素直にほめてもあいつは謙遜するばかりだった。
「本当にうざってぇ」
女子にも人気があって昔俺が好きだった女に告白したら空のことが好きだからと断られたことが何度もある。
俺がどれだけ努力をしてもあいつは俺の先を行く。
むかつくったらありゃしねぇ。
それでも、俺はあいつの親友を演じ続けた。
全てはあいつを絶望の底の底のさらに底に叩き落とすために。
「でも、本当に高校生カップルとは思えないんだよな」
つい先日俺は空に瑠奈とどうすれば付き合えるかについて相談された。
あいつらはずっと両想いなのにずっと互いに距離をとったままだ。
周りもそんな二人のことを温かい目で見守っている節があるんだよな。
「そこに付け入る隙があるんだよな~」
一回あいつらをくっ付けたうえで瑠奈を寝取ればあいつを絶望のどん底に叩き落とすことができる。
どうせあいつらは一回付き合ってもなかなか距離を詰めれんだろうしな。
加えて空は奥手だから俺がぐいぐい行けば瑠奈は簡単に堕ちるんだろうな。
◇
今日ショッピングモールで瑠奈に会った。
どうやら今日は空の誕生日プレゼントを買いに来たらしい。
これをきっかけに俺は瑠奈とちょくちょくプライベートで会うようになった。
「こうやって徐々に距離を詰めて行けばいい。瑠奈も俺のことは嫌いではないようだし付き合って結構経っているのにまだ手をつないだだけとか小学生の恋愛じゃないんだからさ」
ここまでくると純粋とかじゃなくただ単に空がヘタレなんだと思う。
ははっ、そんなにゆっくりとしてるからお前は俺に大切な幼馴染兼彼女を盗られるんだよな~
「空は気づいてないんだろうな。瑠奈が俺に心変わりし始めてることに。笑えるぜ」
ここからどうやって瑠奈を完全に落とすかが大切だ。
今はまだ付き合って一年目だし時期としては早すぎる。
二年目になって少し落ち着いたくらいで攻めれば簡単に落とせるはずだ。
「時期は、そうだな~夏休みくらいに告白してクリスマスを一緒に過ごすくらいできれば上々だろうな。そうすれば空は晴れてクリぼっちになるわけだしな。あはははは。考えたら笑いが止まらねぇや」
楽しいなぁ。
空が絶望しているところを見たくて仕方ねぇ。
「まずは瑠奈を堕とすところからってな」
そこから始めねぇとあいつの絶望はみれんからな。
◇
「瑠奈俺達付き合わないか?」
計画通りあいつらが付き合い始めてから一年が経ち、付き合って二年目の夏休み。
俺は瑠奈に告白した。
正直こいつのことはそこまで好きというわけじゃないが顔は良いしスタイルもいい。
弄ぶにはうってつけの相手だ。
だけどまあ、こいつも空への復讐が終わったら捨てる予定なんだけどな。
「い、いつから?」
「ずっと前からお前のことが好きだった。でも、先に空と付き合ったから一回は諦めようとしたんだ。だけどお前のことを諦めきれなかった。だから俺と付き合ってほしい」
「でも私は空と付き合ってるし、」
「俺は二股でも構わないから。それに空に言ったりもしない。だからお試し感覚でいいから付き合ってくれ」
嘘だ。
俺は別に瑠奈のことを好きなんて思ってない。
こいつは所詮空に対する復讐の道具に過ぎない。
俺が本当に付き合いたいのは天音永遠だ。
学園のマドンナともいわれていて親は大企業の社長らしい。
顔もいいし性格もいい。
俺にふさわしい女といえる。
だが、前に告白したときはなぜか振られたんだよな。
思い出したらむしゃくしゃするぜ。
「うん、じゃあ付き合おうかな!これからよろしくね悟君」
「ああ。よろしく頼む瑠奈」
俺は優しく瑠奈にキスをした。
「え、」
「だめだったか?」
「う、ううん。初めてだったからびっくりしただけ」
頬を赤らめながら瑠奈はうっとりとした表情を浮かべる。
こうやって少しずつ空の大切な彼女の初めてを奪っていく。
それが楽しくて仕方ない。
これからお前の何もかもを奪ってやるからな。
空楽しみにしておけよ。
◇
「どうする?見られちまったわけだが」
クリスマス当日、ホテル街に入る所を空に見られた。
本当はわざと空に見られるように仕向けたわけなんだけどな。
瑠奈はそれには全然気づいてないだろうな。
馬鹿な女は扱いやすくていい。
「本当にどうしよう。このままじゃかなり面倒なことになるかも」
「じゃあ、先手を打つしかないんじゃねぇか?例えばおばさんに空に無理やり迫られたって言うとかな」
計画通りだ。
これで俺が空を嵌めようとしなくても勝手に瑠奈が動いてくれる。
もし仮にこの件が露見したとしても問い詰められるのは瑠奈のほうだろうな。
本当にこいつは都合のいいコマだよ。
「そうだね。確か今はおばさんたち旅行に行ってるはずだから帰ってきたら言ってみようかな?」
ほら、すぐに俺の話に乗ってきた。
ははっやっぱりこの世界は俺を中心に回ってるんだ。
最高にいい気分だぜ。
「いや、少し時間を置いたほうがいいんじゃないか?すぐに言うと少し嘘くさいだろう?ちょっと時間をおいてから悩んでる感じに言ったほうが信憑性が高いだろう?」
「それもそうだね。じゃあ、始業式の朝くらいに言いに行こうかな。空のことだからおばさんたちに今日のことを話せないだろうし」
「だな。そんなことよりもせっかくここまで来たんだから楽しもうぜ?」
「そうだね。じゃあ行こうか」
ちょろすぎだろ。
この後瑠奈をおいしくいただいて今日の所は解散した。
しっかりとメッセージアプリでデマを流すことも忘れない。
自分で言うのもなんだが俺はそれなりに人脈があるからこのことをばらまいておいた。
後は自分を正義の味方と勘違いしたあほ共が勝手に空を攻撃したり虐めをしたりするんだろうな。
本当に俺の人生はイージーゲームだぜ。
◇
『本当に来やがったよ』
『クリスマスに堀江さんに無理やり体の関係を迫ったんでしょ』
『幼馴染だからってそれはないわ』
『藤田君が居なかったら堀江さん危なかったんじゃない?』
『さすがは藤田。もう英雄だな』
案の定空が教室に入った瞬間クラスのほとんど全員があいつを汚物を見るかのような目で見ていた。
他にもあいつの机の上には落書きに花瓶と遺影が置かれていて完全に虐められてるやつのそれだった。
「お前本当にすごいな!無理やり迫られてる堀江さんを助けるとか」
「そうだぜ!普通の人間にできることじゃない。やっぱお前はすごい奴だよ!」
「よせよ。俺は当たり前のことをしただけだ」
できるだけ謙遜をしておこう。
そうしたほうがいい印象を抱かれやすいしな。
「そんなことしてない!」
空はそう言って教室を出て行った。
これであいつのクラスでの居場所はなくなったな。
まあ、家に帰っても居場所はないんだがな。
今日の朝に瑠奈が空の母親にデマを流している。
母親はそれを鵜呑みにしたらしい。
全く子供を信じないなんてひどい親だよな~
「なんだあいつ?気持ちわり」
「ほんとそれな。あの堀江さんが嘘つくわけないだろうに。認めて楽になればいいものを」
「だな。お前もそう思うだろ?悟」
「そうだな」
こいつら本当にバカだな。
俺が空を陥れたのに一ミリも気づいてない。
ここまでくると滑稽だな。
必死に笑うのを堪えて俺はうなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます