第10話 美空の心配と醜い空
「お兄、大変だったね」
「まあな。美空にも迷惑をかけたな」
「迷惑なんて掛かってないよ。でも、お兄は大丈夫なの?」
「大丈夫って何が?」
美空が俺のことを心配してくれているのが分かる。
でも、申し訳なくもある。
俺のせいで美空は両親と離れることになってしまったのだから。
「別に私と二人きりの時くらい強がらなくてもいいんだよ?辛かったら辛いって言ってもいいんだよ?」
「いや、強がってなんかいないさ。俺は大丈夫だ」
「ならいいんだけど。それよりも私に何か話があるんじゃないの?そんな顔してるよ」
「お前には敵わないな」
どうやら美空にはすべてバレてるらしい。
全く本当に敵わない。
昔から俺が悩んでたり何か考えていたらすぐにばれるんだからな。
「で、わざわざ永遠姉さんに席を外してもらってまでする話って何なの?」
「美空は、母さんや父さんのことをどう思ってる?」
「なに?いきなり」
「大切なことなんだ。答えてくれ」
今から話すことは今日、天音さんに言われた両親についてだ。
美空が両親にはあんまり懐いていないのは知っているけど、それでも俺たちにとっては唯一無二の両親であることは変わりない。
だから、美空が嫌だというなら俺は天音さんの提案を断るつもりだ。
「う~ん。あんまりわかんない。昔からあんまり家にいなかったし。一緒に遊んでもらった記憶もあんまりないからね。どちらかというと瑠奈姉のほうに構ってた感じだったしね」
「それはそうかもな」
「で、こんなことを聞いて大事な話って言うのは一体どんな内容なの?」
「それがな、天音さんに頼んで俺たちの未成年代理人を立ててもらうことになった。その過程で裁判になるんだけど、もしかしたら父さんや母さんが逮捕される可能性がある。美空も俺と同じ人に未成年代理人を頼もうと思っているんだけど美空はそれでいいか?」
「うん。構わないよ。私はあんまりあの二人のこと好きじゃなかったし。それにお兄にあんな仕打ちをした人たちを許せないからね」
美空は腕を組んでそう言っていた。
どうやら美空もあの二人のことはあまり好きではなかったらしい。
「そうか。じゃあ、俺から天音さんにお願いしておくよ。美空から俺に話しておきたいことはあるか?」
「えっと、大切なことではないんだけど少し抱きしめてもいい?」
「別にいいけどなんでだ?」
昔はよく俺に抱き着いてきてたけど最近では甘えてくることはあってもそういった直接的なスキンシップはしてこなかった。
たまには甘えたいのかな?
「ずっと不安だった。お兄が家を追い出されて一日帰ってこなくて。もしかしたら死んじゃったかもしれないって思って不安で不安で仕方なかった。でも、今はお兄が目の前にいて二人きりで喋れてて本当にうれしいの」
美空は目に涙を浮かべていた。
どうやら相当に不安にさせてしまったらしい。
「そっか。心配かけてごめんな」
目の前で泣いてしまった美空を抱きしめる。
体温が直に伝わってきて少し安心する。
俺はまだ生きてる。
そう実感できた。
心臓の鼓動が聞こえる。
すごく安心するな。
「お兄が謝ることじゃないでしょ!お兄が苦しい時に私は何もできなかったのに。いつも私はお兄に助けられてるのに」
「そんなことない。現にお前はこうして俺の前に姿を見せてくれただろ?それにこうしてお前を抱きしめてるとなんだか昔を思い出して安心するんだ。それにお前は母さんたちですら信じてくれなかった俺のことを信じてくれただろ。それだけで俺は十分救われてるんだよ。俺を信じてくれたのはお前で二人目だからな」
背中をさすりながらできるだけ優しい声で俺は自分の思っていることを伝える。
多分、変に言葉を取り繕ったり強がったりするよりもそのほうが美空を安心させることができると思ったから。
「そうなの?」
「そうだよ。だから美空が何もしてないなんてことは無い。自分を信じてくれる人がいるってだけでかなり気持ちは楽になるんだからな」
「そっか。ならよかった。えへへ」
美空は嬉しそうに笑っていた。
その笑い方はやっぱり昔と変わらなくて安心した。
「まあ、これからはいろいろと大変だろうけど協力して頑張って行こうな」
「うん!っと、ずっと聞きたかったんだけど永遠姉さんとお兄ってどういう関係なの?あの時は友人って言ってたけどお兄の反応的にあの時初めて友人って言われたんでしょ?」
どういう関係か。
確かに天音さんは友人って言ってくれたけど助けてくれたときは完全に他人だったからな~
どう説明したらいいもんかな。
「最初に会ったときは本当に同じ高校に通ってるってだけだったな」
「最初に会った時っていつなの?」
「それは昨日だな」
「おかしくない!?主に二人の距離感とか。それにほとんど初対面の人にここまでよくしてくれるのって永遠姉さんはどんなにいい人なの!?」
「それは俺もそう思う」
昨日も少し聞いてみたけどのらりくらりと躱されて本当の理由を教えてもらったことは無い。
「理由は聞いたの?」
「聞いたけど教えてもらえなかったんだよな」
「どういう経緯でお兄たちは知り合ったのさ」
「それはだな、」
正直に話してしまっては美空を心配させてしまう。
でも、ここで逃がしてくれる美空でもないだろう。
俺は一体どうすればいいんだ。
「お兄?教えてもらうまで逃がさないからね?」
美空は笑顔でそう言って詰め寄ってきていたけど完全に目が笑っていない。
怖すぎる。
この後、天音さんが呼びに来るまで俺はずっと美空に問い詰められる羽目になった。
◇
「ちゃんと話はできたのかしら?」
夕食後
美空は自分の部屋に戻って俺は天音さんの部屋にとどまっていた。
今は食器を洗っている最中だ。
「まあ、話すべきことは話せたと思うよ」
「ふふっ。やっぱりあなたには伝わったのね」
「それってアイコンタクトのこと?」
「そうよ。もし気が付かなかったらどうしようと思ったけど気づいてもらえたようでよかったわ」
天音さんはソファーに座りながらこっちを向いて微笑んでいた。
どうやら俺の推測は間違っていなかったらしい。
「まあ、あんなふうに意味深に見つめられたら気が付くよ」
「そうかしら?意味までは気が付かない人間のほうが多いと思うのだけどね。まあいいわ。それより美空ちゃんは裁判についてなんて言ってたのかしら?」
「反対はしなかった。美空は美空で両親に思う所があったらしい」
「そうなのね。それにしても子供を信用しない親なんて碌な親じゃないのでしょうね」
「そうかもしれないね。というわけだからさっきの話改めてお願いしてもいいかな?」
「もちろんよ。任せておきなさい。一週間くらい後に詳しく話を聞かれる機会があると思うからその時に美空ちゃんと一緒に答えてくれると助かるわ」
「もちろん」
これであの両親の問題は片付くはず。
次に俺が考えるべきことはあの二人をどうするかについてだ。
あの二人だけじゃない。
今まで友達として接してきたくせにすぐに手のひらを返して俺を罵ってきた連中もそうだ。
断じて許すことなんてできない。
「、、、あなた大丈夫なの?」
「いきなりどうしたんだよ」
「自分では気づいてないのね。あなた、とても思い詰めたような顔を時々してるのよ。さっきまでは美空さんがいたからかそんな顔をしてなかったけど帰った瞬間に暗い顔をするんだもの」
「そうなのか?」
そんな顔をしてたのか。
自覚は全くなかったな。
「そうよ。だから心配してたの」
「心配かけて悪い。俺は大丈夫だ」
「そう?ならいいのだけど」
天音さんはそう言って俺から視線を外した。
隠し事はできそうにないな。
「じゃあ、俺はそろそろ部屋に戻るよ。おやすみ天音さん」
「ええ。おやすみなさい」
食器は既に洗い終わっているので俺はそのまま天音さんの部屋を出て自分の部屋に戻る。
ササっとシャワーを浴びて寝る。
まだこの部屋に来て二日目だけどなんだか居心地がいいと感じる。
何でなのかはわからない。
「明日こそ俺は学校に行くことになる。でも、大丈夫だ。俺のことを信用してくれる人間が二人もいる。だから俺はまだ前を向いて進むことができるんだ」
天音さんと美空がそばにいてくれる。
もう、他人に何を言われようと気にする必要なんてない。
虐められようが貶められようが俺の目的は変わりない。
「俺は復讐をする。名誉の回復なんてどうでもいい」
こんなことを考えてる時点で俺は自分が醜いと再認識する。
でも、今はそれでいい。
俺はそう考えて眠った。
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