第9話 永遠姉さん
「聞き忘れてたんだけどあなたは両親のことをどう思っているの?」
「どう思っているとは?」
「憎いとか嫌いとか信用できないとか少しはあるでしょう?」
「そういうことか」
俺が母さんや父さんをどう思っているのか、か。
信用されなくて悲しい。
けれど、きっと今更俺が何を言ったところであの二人は瑠奈のことを信用しているから俺の話なんて聞き入れては聞き入れてはくれないんだろうな。
「もう一緒にはいたくないかな。それにもしもこの嘘の噂が露見してももう親としてふるまってほしくはないと思ってる」
「でしょうね。なら裁判を起こしましょうか」
「なぜに裁判?」
今の話でどうして裁判が出てくるのだろうか?
何も裁判することなんてないと思うんだけどな。
「あなたの両親が行っているのはハッキリ言うと育児放棄。立派な犯罪よ。だからうちの会社の弁護士に頼んで未成年代理人なってもらうの。もちろんそれを行う過程であなたの両親が育児放棄をしていることが露見するでしょうから下手したら逮捕されるかもしれないけどそれでもいい?」
「、、、わかった。覚悟はしておくよ」
今回の件で分かったことだけど父さんや母さんが大事に思っていたのは俺たち子供ではなく世間体だったのだ。
そんな環境に美空を置いておきたくないし、なによりこの後に保護者ずらして出しゃばってきてほしくない。
「わかったわ。あなたが18歳になって成人になれば美空さんの未成年代理人になれるから。じゃあ、こちらで必要な手続きは進めておくわね」
「ありがとう。天音さん」
「別にいいわよ。私が好きでやってることだし」
「ずっと気になってたんだけどさ、なんだか天音さん初対面の時と雰囲気が違くない?」
初対面の頃は口調がもっとフランクだった気がする。
でも、今はフランクすぎずに普通の口調だ。
「だって、あの時はもしかしたら自殺しちゃうかもと思って気を使ってできるだけ明るく接してたのよ。でも、今のあなたからはそこまでの危うさは感じないから素に戻っただけ。こっちのほうが楽だからね。あなたは前の私のほうが好みだった?」
「別にそういうわけじゃない。ただ、単純に気になったから聞いただけで好みとかは関係ないな。天音さんはいつでも魅力的な女の子だと思うよ」
「あなたそれ素でやってるの?」
「ん?何が?」
俺は今何か変なことを言っているのだろうか?
あきれながらため息をついている天音さんを見るに何かやらかしてしまったのだろう。
「私にそういうことを言ってくる人は大抵下心があったんだけど、それを全く感じないのよね。素でほめられたのは初めてかもしれないわ。ありがとう」
「え、うん。どういたしまして?」
天音さんが何に対して礼を言っているのか全く分からない。
でも、なんだか少しうれしそうだからいいか。
「まあ、手続きが完了するまでは一週間以上かかるだろうから今すぐにってわけでもないんだけどね。それまでは私と学校に行きましょうね?」
「もちろん。裁判が終わっても一緒に行くさ。そういう契約だからね」
「ふふっそれもそうね。っと、そろそろ美空さんが来る頃かしら?」
「だね」
気が付けば俺たちは二時間近く会話をしていた。
ここから俺の家までは30分くらいで荷物をまとめるのに一時間くらいかかってるだろうからちょうど二時間。
そろそろ来てもおかしくはない頃合いだ。
「噂をすれば来たわね。今開けるわ」
インターホンがなりカメラには美空が映し出されている。
エントランスの扉を天音さんが開けて少ししてから今度は玄関のほうのインターホンが鳴る。
「俺が開けてくるよ。天音さんは座ってて」
「いいえ。私も行くわ。ついでにこのまま三人で美空さんに渡す部屋の内見をしましょうか」
「そう?なら一緒に行こうか」
「ええ」
2人して立ち上がり扉をあけて美空を迎える。
「遅くなってすいません。荷物持ってきました!」
「かなり少なくないか?」
「いや、さすがに一回で持ってくるのはこのくらいが限度だから」
美空はスーツケースとスポーツバッグを一つづつ持ってきていた。
美空ならもっと持ってくると思ってたんだけどな。
予想が外れた。
「まあ、玄関先でいつまで話してるのもなんだからまずは美空さんの部屋を案内するわ。ついてきて」
「は、はい」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
あまりにも緊張した様子の美空を見ていて面白いのかクスリと笑いながら聞いた。
「えっとそういうわけじゃないんですけど、なんて呼んでいいかわからないですし、それにここまでよくしてもらった恩もあるのに生意気な口をきいていいものかと思いまして」
美空は気まずそうに視線をそらしながらそういった。
うん。俺もその気持ちはわかるな。
最初はめっちゃ緊張したし敬語だったけど禁止されたからな。
「そんなこと気にしなくてもいいのに。あなたも空に似て謙虚なのね。私のことは、そうね。永遠でいいわよ?」
「いきなり名前呼びはハードルが高いので永遠姉さんでいいでしょうか?」
「いい響きね。永遠姉さん。私兄妹いないからとても新鮮だわ」
天音さんは嬉しそうに微笑んでいた。
やはり、今まで親しい友達がいなかったのだろうか?
まあ、こういう事を聞くのはマナー違反だろうから聞かないけどさ。
怒られるのは目に見えてるし。
「じゃあ、これからは永遠姉さんって呼ばせてもらいますね!私のことも呼び捨てでいいですから」
「う~ん。呼び捨ては遠慮させてもらうわ。その代わりに美空ちゃんって呼んでもいいかしら?」
「もちろんです!これからよろしくお願いします。永遠姉さん!」
「ええ。よろしくお願いしますね美空ちゃん」
どうやら二人は早々に打ち解けれたようで安心する。
天音さんはなんだかうれしそうだしよかった。
「じゃあ、部屋案内するわね。こっちよ」
「お願いします!」
こうして俺たちは三人で美空の部屋を見て回った。
他にも美空の荷解きを手伝ったりしていたらあっという間に時間は過ぎていた。
「じゃあ、私は夕飯の支度をするわ。できたら呼びに行くから待っていて頂戴?」
「いやいや!!私も手伝いますよ?ここまでしてもらって何もしないでくつろぐっていうのも申し訳ないですし」
「本当に美空ちゃんは空に似ているのね。気にしなくていいのよ。いづれは手伝ってもらうつもりだけど今日は兄妹でゆっくりしてなさい。美空ちゃんだって昨日一日心配してただろうし兄妹水入らずで話すべきこともあるでしょう?」
そう言いながら天音さんは俺に目配せをしてくる。
(あなたの両親に関する話を美空ちゃんにもしておきなさい)
と、言っているような気がする。
いや、多分これはそう目で訴えかけているんだろうな。
「そうだね、気遣いありがとう」
「いいえ?じゃあ私は部屋に戻るから。何かあったら呼びに来て頂戴。それじゃあ」
そう言って部屋には俺たち兄妹が残されるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます