第17話 一つの解決と復讐開始

「本当にそれでよかったの?」


「もちろん。それにスマホにそこまでの金額はかけてられないしね」


「それならいいのだけどね。それよりも私に隠れて何買ったのよ?」


「今のところ秘密かな」


「お兄教えてくれないの?」


「すまんな。話せる時が来たら話すから二人ともそれで勘弁してくれ」


 俺はスマホのほかに買っておいたものをポケットに忍ばせる。

 正直今日はスマホよりもこれを買いに来たといっても過言ではなかった。


「じゃあ、話せる時が来たら話して頂戴ね」


「ああ。すまないな」


「別に謝ることじゃないわよ。誰にでも隠しておきたいことはあるでしょうし隠しておくことでいいことがあるかもしれないからね」


 天音さんは少し不敵に笑っていた。

 なんで笑ってるんだ???

 こういう時の天音さんには恐怖を感じる。

 何を考えてるかわからないから本当に怖い。


「お兄なんか永遠姉さんを怒らせるようなことしたの?」


「いや、心当たりはないな」


 どうやら美空も天音さんの変わった雰囲気を感じ取ったのかコソコソと俺に聞いてきたけど俺に聞かれてもわからない。

 なんなら俺が教えて欲しい。

 まじで。


「二人とも?何を話しているのかしら。私も混ぜてくれないかしら?」


「いや~大したことじゃないっすよ?」


「そうそう!永遠姉さんに聞かせるまでもないことですよ!!」


 2人して必死にごまかす。

 別にやましいこともないしごまかす必要もないんだけど。

 天音さんが発している圧に負けてしまったのだ。


「そうなの?ならいいのだけど」


 俺達天音さんになんかしたのかな?

 わかんないけど機嫌を直してもらえるように頑張るとしよう。


 ◇


「今更なんですけど永遠姉さんはなんでお兄のことを名前で呼んでるんですか?」


「なんでって、別に一緒に住んでるし美空ちゃんも苗字は柳だから紛らわしいでしょう?」


「それはそうなんですけど、なんかそれだけが理由ってわけじゃない気がするんですよね~」


 昼食を済ませた後に美空は天音さんとそんな話をしていた。

 美空がしていた話は俺も少し気になる所ではあった。

 最初は柳って呼ばれてたけど、いきなり呼び方が空になったから戸惑っていたんだよな。


「別に深い理由なんてないわよ。私の気まぐれ」


 天音さんは視線をそらしてはぐらかすように答えた。

 どう見ても怪しい仕草だったけどこれ以上は踏み込まないほうがいい気がする。


「そうでしたか。答えてくれてありがとうございます!!」


「いえ、これくらいの質問に答えただけでお礼を言われるほどじゃないわよ」


 どうやら、美空も俺と同じくこれ以上は踏み込まないほうがいいと考えたのかすぐに話題を変えようとしていた。

 美空は昔から人の心を読むのがうまかったからな~


「お兄!スマホ買ったんだから連絡先教えてよ!!」


「そういえば忘れていたわね。私も教えてもらっていいかしら?」


「ああ、もちろん。はいこれ」


 スマホの画面にメッセージアプリのQRコードを表示させて二人に差し出す。


「よしっ、これからよろしくねお兄!」


 美空がそういった次の瞬間には可愛らしいクマのスタンプが送られてきていた。


「私もほうもよろしく頼むわね」


 ぴろんという音の後に天音さんが送ってきたスタンプが表示される。

 そこにはブサかわとでもいえばいいのか。

 ふくよかな猫のスタンプが送られてきていた。

 そういえば、天音さんの部屋でもこのぬいぐるみを見たことがある気がする。


「うん。よろしく」


 俺の方も二人に課金をしなくても使える犬のスタンプを送っておいた。


「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。二人とももう買っておきたいものはないかしら?」


「俺の方は大丈夫」


「私も大丈夫です!」


「そう?ならこのまま帰りましょうか」


 こうして俺たち三人は帰路に就いた。


 ◇


「では、柳空さん。柳美空さん。お二人に話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「はい大丈夫です」


 翌日の昼天音さんの部屋で俺たちは弁護士の人と会話をしていた。


「まずは柳空さん。あなたのことをご両親に伺いましたがあなたが幼馴染の女の子に無理やり迫ったから追い出した。といっていましたがこれは本当ですか?」


「いいえ。俺はそんなことは一切してません」


 開口一番にすごいことを聞かれたな。

 まあ、少しは予想してたけど。

 あの母親のことだ。

 自分に正当性があると主張するために始めに俺が悪いと主張することくらい容易に想像できた。


「わかりました。まあ、永遠さんと一緒にいて手を出してない当たり本当にそのようなことはしていないのでしょうね」


 弁護士の人は天音さんの方を一瞥して微笑んでいた。

 どうやら天音さんとはそれなりに面識があるらしい。


「では本題に入りますがあなたのご両親が行っている行為ははっきり言って育児放棄に該当します。裁判にかければ3か月以上5年以下の懲役を科される場合があります。またその場合あなたと美空さんには未成年代理人を立てることが可能になります」


「…はい」


「そして、はっきり言ってしまえばもうすでに警察の調査が入っており育児放棄があったと認められていて起訴されています。裁判の結果はわかりませんがこれで家庭裁判所に行き未成年代理人を立てることが可能です」


 まさか、もうすでに起訴までされているとは知らなかった。

 もしかしたら天音さんが裏で手をまわしてくれていたのかそれとも他に何か原因があるのかはわからないけどこれで動きやすくなる。


「未成年代理人は私で大丈夫なのでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


「わかりました。ではそのように手続きを進めますので他に何か聞いておきたいことなどはありますか?」


 俺と美空を見て弁護士の人はそう問いかけた。


「一ついいですか?」


「はい。大丈夫ですよ」


 美空がおずおずと手をあげていた。


「両親は何か言っていましたか?」


「、、、、、、」


「言ってたんですね?何を言っていたのか聞かせてもらってもいいですか?」


 弁護士の男性はとても居心地が悪そうに天音さんを見つめていた。


「話してあげなさい。二人には知る権利があるわ」


「、、、わかりました。ご両親は美空さんのことは非常に心配しておりました」


「私のことはってことはお兄は?」


「、、、、」


 押し黙るっていう事は俺に何か酷いことでも言ってたのかな?

 まあ、最初にあんな質問が飛んでくるくらいだからそれ関係で何か言ってたんだろうけど。


「大丈夫ですよ。教えてください」


「私たちは性犯罪者を追い出しただけで何も悪いことなんてしていない。と」


 どうやら、二人の中で俺が瑠奈に関係を無理やり迫ったのは既定路線らしい。

 疑いすらもしなかったんだろう。

 つまりあいつらは実の子供よりも瑠奈のことを信用した。

 いや、俺たちよりも瑠奈のほうが可愛かったのかもしれないな。


「そうですか。教えてくださりありがとうございます」


「いえ、その大丈夫ですか?」


「何がでしょうか?」


「実のご両親にこんなことを言われて傷つかないはずがありません。本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。予想はしていましたし。それよりも未成年代理人の件お願いします」


「かしこまりました。それでは私は手続きを行ってまいりますね」


 そう言って弁護士の男性は出て行った。


「お兄大丈夫なの?」


「大丈夫だって。あの様子を見てたらどうせあんなことは言われるんだろうなとは予想してたからさ。それよりも天音さん。いろいろとありがとう」


「私は今回何もしてないわよ。二人のために動き回ってくれたのは後藤さんだから」


「でも、天音さんが居なかったらその後藤さんも動いてくれなかったと思うから。だからありがとう」


「私からもありがとうございます」


 2人して天音さんにお礼を言う。

 こうしてまた天音さんに借りができてしまった。


「いいってば。二人とも今日はゆっくりしてなさい。疲れたでしょう?」


「いや、そういうわけにはいかないよ。今まで天音さんに頼りっぱなしだったし何か手伝えることないかな?」


 そそくさと夕飯の準備を始める天音さんを呼び止めて手伝いを申し出る。

 いつまでも天音さんにもたれかかってるわけにはいかなかったから。


「そうですよ!永遠姉さん!私も料理はできるんですから手伝わせてください!!」


「ん~そういうなら手伝ってもらおうかしら。といっても美空ちゃんには手伝ってもらうことはあるでしょうけど空は料理できないでしょう?」


「ぐ、、、確かに俺は料理とかは全然できないけど」


「ならゆっくりしてなさい。あなたが一番疲れているでしょうし。気にしなくてもあなたにはいつも食器を洗ってもらってるので十分助かってるんだから」


 そう言われては流石に引き下がるしかない。

 手伝いたいとは言ったものの自分が料理全くできないことを完全に忘れていた。

 今度美空に家事を教えてもらおうかな。

 そう真剣に考えてしまう。


「じゃあ、私達で用意を始めましょうか。美空ちゃん」


「はい!初めて永遠姉さんと料理作るから楽しみだな~」


「そんなに大したものは作れないわよ?」


「それでもですよ!」


 2人仲睦まじく会話をしながらキッチンの方へと消えていった。

 天音さんと美空が仲良くしているのを見るとなんだか落ち着くな。


「これで両親の件は片付いたのか。意外とあっけなかったな」


 別に両親に対してそこまで大きな復讐心はなかった。

 でも、もう俺と美空には関わってほしくなかった。

 だから、未成年代理人を立ててもらった。

 これで俺は復讐に専念できる。


「もう俺は容赦しない。幼馴染だろうが親友だろうが関係ない。あいつらは等しく俺の敵であり平穏を乱す害悪だ。絶対に地獄に叩き落としてやる」


 俺は明日から始まる学校でどう立ち回るかを考えながら二人が夕飯を作り終えるのを待っていた。

 その間ずっとクリスマスの日に起こった光景が絶えずフラッシュバックしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る