第18話 謎のパワー

 午前中に島の東の端までたどり着いた二人は、そこで一旦休憩を取った。

 日当たりのいい広場で昼食をとることにする。


 ここまでの探索の結果、山にはそれなりに食べられそうな物があったが、それはほとんどが海側、つまり、島の外側にあった。内側にある食べられそうな物はほとんど毒が含まれていたのだ。


 昔、ここで、何か、毒撒き事件でもあったんだろうか?


 影の移動速度と長さからおおよその時間を計れるように円を描いて24等分し、中心に棒を立てて影の先端の位置に印をつけ、ほぼ15分でできる料理を脳内シミュレーションで作り始める。


 こんなところで師匠との修行が役に立つとは。


 レミアシウスの師匠とは、フレシエスのことである。

 彼女が作る食事はとてもおいしくて、エリスレルアの大好物だ。


 レミアシウスは、フレシエスが傍にいなくてもおいしい料理をエリスレルアに提供することができれば世のため人のためになるのではないかと思いつき、彼女の元で修業をしているうちに、いつしかプロ並みの腕前になっていた。

 単純な料理なら何度作っても一定時間で作れるほどに。


 料理の脳内シミュレーションを続けながら、エリスレルアに頑丈そうな適度の大きさの岩と海水を取ってきてもらい、岩のほうを1メートル四方くらいの立方体に加工させたレミアシウスは、上面の真ん中あたりに半円状のくぼみを作ってそこを磨き、空中に浮かんでいる海水を少し使って中を洗った。


 岩の半円のくぼみに新しい海水を入れて害がありそうな成分がないのを確認。

 集めた食材を入れ、岩自体を『力』で高温にして煮込んでいく。


 だいぶ煮込めたので、その周りの平らなところに輪切りにした芋を並べて焼きながら、レミアシウスは木で食器とスプーンとフォークを作った。


「おにいさま、すごーーい!」

「フフン♪」


 大抵のことはセルネシウスに軍配を上げるエリスレルアが、食生活に関してだけはレミアシウスに上げるので、うれしくてたまらない。 

 更に『力』を使って時短し、食器へ料理を移した。


「さ、食べよ」

「いただきまーす!」


 うん、この限られた材料で、我ながら上出来!


「おいしーーい!」

「フフフ」


 食べ終わってウトウトし始めたエリスレルアを見てレミアシウスも眠くなった。


 少し『力』を使い過ぎたかな。


 ここまでで、調理時間が15分の脳内シミュレーション料理は4品できた。つまり、約1時間かかったということだ。

 影の位置に印を付ける。

 その位置は24等分されたピースの1個分弱くらいのところだった。


 実際に料理を作ったわけじゃないから、だいぶ誤差があるだろうけど、1日の長さは地球とほぼ変わらないか、少し長いってくらいか。

 暇になったらもっと正確な時計を作るかな。


 現在の太陽の位置から今が正午頃だと判断し、そこから影が動いていくことを考慮して日陰に移動する。

 昼寝しやすいように地面を整えると、エリスレルアはそこへ倒れるように眠り込んだ。


 たぶん、全力で消化してるんだろうな。


 全力と言っても全ての『力』を使って、とかではない。

 眠っているほうが余計な『力』を使わないので、消化に集中できて早く終わるという全力である。


 お腹いっぱい食べられたわけではないのにすぐにお昼寝タイムとなった様子に、消化に時間がかかる物が多かったかなと反省して、もっといい物を食べさせてあげたいなと思いながらレミアシウスも眠りについた。


 しばらくして―――



 !?



 レミアシウスは飛び起きた。


「お前、何やってんだー!

 先に目が覚めて暇だったのかもしれないけどさ!」


 


「寝てますか、って……寝てたら返事できないだろ」



「どうだろ? ぎりぎりセーフな気もする―――えっ!」


 突然、エリスレルアが虹色に光り輝いた。

 一瞬で彼女の髪が伸びたように広がり、その光が通り抜けると元の短い髪に戻っていた。


 なんだそれーー!!


『どういたしましてー!!』


 びっくりし過ぎて、レミアシウスはいろいろ叫んだつもりだったが声が出ていなかった。


「僕のことより、お前だよ! 最後の返事、加減しなかったろ」

「だって、なんか、うれしかったんだもん!」


 エリスレルアは少しバツの悪そうな顔をしてたがうれしさもにじみ出ていて、本当にうれしかったんだとわかる。


 「来てくれてありがとう」ってことは、魔法陣を展開したのは彼なのか?

 もしかして、ホントに彼が元凶だったとか?


 とはいえ、もし彼が「なんで来たんだ、さっさと帰れ!」とか言ってたら恐ろしいことになりかねなかったから、ひとまず彼には感謝しておこう。


「それで? ユアテスさんは、ほかに何か言ってたか?」

「ううん。呼びかけたのに何も反応がなかったから寝てるのかなって思ってたら、突然すごいパワーと一緒に、『ありがとう!!』って大きな『声』が聞こえた」

「ふむ」


 話しかけてからしばらくしてから返事があったようだし、どうやら、話しかけてすぐに気絶させるのは避けられたようだ。

 次に話しかける時はガイコツを墜落させた時と同じくらいの強さにしろって、言っておいてよかった。


 簡易日時計の影の位置に印をつける。


 大体1時間くらいか……寝てたの。


 それにしても、とレミアシウスは思った。


「……ユアテスさん、どこにいるんだろう?」

「えっ?」

「彼は僕らの居場所を知らないだろ?

 僕たち自身もわかってないし、説明だってしてないんだから」

「うん」

「で、最初にお前に名前とか聞いた時はすっごく小さな声だったって言ってたじゃないか」

「うん! 何言ってるかわかんなかった。

 なんとなく聞かれたっぽかったからエリスレルアだよって言ったけど」

「それが、今回はすごいパワーとともに大きな『声』だったんだろ?

 場所がわからないから近くまで来るなんて無理だろうに、なんで今回は大きな『声』だったんだ?」


 腕組みをするエリスレルア。


「……なんかね。近くにいるって感じじゃなくて、エネルギーの塊が、ドーンって来た感じだったよ?」

「エネルギーの塊?」

「うん!

 『力』を使い過ぎちゃってヘトヘトーって時にセルネシウスおにいさまがドーンと分けてくれた時みたいな感じ」

「ということは、ここの世界にも、そういうパワーがあるってことか」

「そういうってどういう?」

「ん? 『力』みたいなパワー」


 ルイエルト星人は、地球人と違って周りからエネルギーをもらって回復することができる。

 今朝、エリスレルアにこの島はパワーがあふれていると聞いて、単にそういうエネルギーが強い島なのだと思っていたレミアシウスだったが、それはちょっと違うのかもしれないと思い直した。


 エリスレルア、お腹が空いたなと思ったらいっぱいになるって言ってた。

 もしかしたらあのガイコツみたいな生き物がほかにもいて、こいつがお腹を空かしたら自分たちの身に危険が及ぶと考えて、その謎のパワーを送ってるんじゃ……


「そう考えると、『力』を使うと消えるからやめてってのも納得できるかも」

「え?」


 ここには、この島やここにあるモノをエネルギーに変えられると困る人(?)たちがいて、その人(?)たちはそんな状況になる前にエリスレルアのパワーを補充することで、自分たちを守ろうとしているのかも。


「なんでもないよ。

 さ、今度は、島の北側に行ってみるか」

「はーい!」


 この辺りに再び来ることもあるかもしれないと、岩で作ったキッチン台とかはそこに残しておくことにする。


「北側の山々はこっちに面しているほうが南斜面になるから、ホントならおいしい果物とかがあってもいいところなんだけど……やっぱ、毒入りの可能性が高いのかな……」

「おいしい果物だと、毒もおいしいかも!」

「……おいしくても毒は食べたくないよ……」


 にいさん……エリスレルアの育て方、なんか間違ってるよ。


「じゃ、あっちの山の探索をしながら、向こうへ戻るぞー」

「オーー!」


 右手を高く上げたあと、エリスレルアは山の中へ駆けて行った。

 その姿を目で追いながらゆっくりと歩き出すレミアシウス。


 僕たちは、ずっとここにいるわけにはいかない。

 この島を探検し終わったら、エリスレルアは必ず海の向こうへ渡ろうとするだろう。

 その時に、この島の人(?)たちになるべく迷惑をかけないように、エネルギーになりそうなモノを集めておかないと。


「さっき彼から送られたっていうエネルギーの塊が使えたら、それだけで充分移動できそうなんだけどなー」


 あのパワーを溜めておく方法はないものかと思案しながらレミアシウスは山を登っていった。

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