蝉の人生

本編

――私たちの命は実に短いものだ。

　幼虫のうちは7年程度生きていられるが、成虫になれば、7日ぐらいで死んでしまう。そんなことをどこかの誰かが語っていたっけ？

　私はね、ずっと思ってるんだ。成虫に……大人になんかなりたくない。

　汚い地を這う生活が終わり、綺麗な空を飛べるようになる……やっと自由になれるじゃないかって？7日間だけの命、それを本当の自由と呼べるのかい？

　まあ、私の考えは他の子供たちにはひねくれてるだとか馬鹿げてるとか言われるんだけどね。誰も共感してくれちゃいないが、そんなことで私の考えは変わらないよ。

＊＊＊

　そんなことを長い年月、考えてるうちに、とうとう私も成虫になってしまったよ。

　自分の嫌な見た目に変わっていく身体にゾッとするね。この姿がカッコいいだとか可愛いだとか、皆の言うことは、さっぱり私には分からないや。

――初めての空、飛んでみると案外悪くない。

　でもね、7日間の寿命を対価とするならこんなもんじゃ釣り合わないや。

　何か他にすることはないかな。飛んでいるだけじゃつまらないや。

　そういえばこの星にはニンゲンという種族がいる。弱肉強食の頂点に立つ生き物だ。私たちは奴らのことを地を這って見上げて見ていたけど今なら見下ろせるじゃないか。

――私は空高く飛び、木に留まる。

　ベンチと呼ばれる物に、2人のニンゲンが座っている。私は今、ニンゲンよりも上にいるんだね。つまり今の私は……

――この世界の頂点だ！

　なんて浮かれていられるのも一瞬だった。私は鳥に咥えられる。じわじわと食べられていくのがわかる。

――でも、これでいいの……これでいいんだよ！

　私の考えは間違えてなかったんだ。成虫になっても良いことなんてない。7日ぐらいしか生きられないし、何より空には、危険なことがあるって自分の身で知れたから。

「どうか、みんなが寿命で死ねますように」

　それが私の最後の願いだ。

――完。