第40話 親たちを旅行へ

 放課後の教室で気怠く椅子に寄り掛かる。

 普段からそうかもしれないが、今日はもっと気怠い。


 それもこれも、昨日が楽しかったせいだ。

 親たちを尾行するという背徳感のある行動に、日和さんから凄いプレゼントをもらうという現実味のないことがあったから。


 疲れていてぐっすり寝れたのだが、それはそうとまだ眠い。

 ふぁああと、どうしても欠伸が出る。


「アキラ、今日は眠そうだな~」

「まあ、昨日色々あったから……」


 俺の机に寄っかかって来たのは、幼馴染の宝谷麻衣だ。

 普段は日和さんの近くにいるはずだが、何をしに来たのだろうか。


「昨日はどうだったんだぜ~?」


 麻衣はニヤニヤとした表情で俺に問いかけている。

 その表情で色々と察した。

 恐らく、日和さんから昨日のことを聞いているのだと思う。


 そうなってくるとどちらの意味でニヤニヤしているのか……。

 親たちを二人でつけ回したことか、それともプレゼントのことなのか。でも、とにかく言わなくちゃいけないことはある。


「麻衣。ありがとう……雲原さんのイラスト制作に手伝ってくれて」

「ありゃ、バレてたのか~。それで、あのキャラクターはどうだったんだぜ?」


 そうは言っているが、絶対に初めから感想を聞きに来ている。

 コイツ、芸術家としてのプライドがあるらしいので、評判などは気にしている。


「クオリティ高いなって、普通に売れそう」

「ほお~、それは良かったんだぜ~。ちゃんとそれを日和ちゃそにも伝えたかって……お前のことだから、伝えているよな~」


 流石に彼女は俺のことをよく分かっている。

 賞賛の気持ちは素直に隠さず伝えたつもりだった。


「因みに日和ちゃそにしたのは口頭でのアドバイスだけだぜ~、まだまだ荒いけど伸びしろがありそうで楽しみだな~」


 ふざけた喋り方をしている麻衣だが日和さんの画力を認めているようだった。

 もしかして、この二人が仲が良いのって、そこら辺に理由があったりするのかも。


 二人で話していると、教室外からやってきた日和さんが興味津々と言った様子で近づいてくる。


「何話していたんです?」

「昨日、雲原さんから貰ったオリキャラのことを。雲原さんはイラストが上手いな~って麻衣と話してた」

「いやいや、大したことはないですよ」


 謙遜する日和さん。

 どこか彼女はイラストを描くという行為に自信がないらしい。何かを作って他人に見せるのが恥ずかしいという気持ちは分からなくはないけど、もっと自信を持って欲しい。

 

 褒めちぎる機会が欲しいが、他に描いているものも見てから褒めたい。

 でも、見せてくれないだろうなとは思う。


「渡したオリキャラのことを話してくれるのは嬉しいんですけど……それよりも、鳥羽さんに相談があるんです」


 そう言った日和さんの表情や言葉遣いには、切羽詰まっている様子はない。

 となると、親関連のことかなと想像できる。

 だが、俺とは違う捉え方をする奴もいるようで。


「ひ、日和ちゃそ! どうして、あたしじゃ駄目なんだぜ!?」

「いや、あの……私達の親のことなので……」

「そ、そっかなのだぜ…………」


 日和さんの親友を称する麻衣は取り乱した後に、意気消沈と言った様子でその場へと崩れ落ちた。


「そういうことだから、麻衣はどっか行っててくれ」

「分かったんだぜ……、あたしも将来的に、日和ちゃそと血縁になりたい……」

「それは無理じゃないか……」


 というか親たちが再婚したとて、俺も日和さんと血縁になるわけではないし。

 麻衣はとぼとぼとした足取りで俺の机から去って行った。


「私たちの関係はバレているのですし、宝谷さんが一緒でも良かったですかね?」

「まあ、でももうどっか行っちゃったから……」


 もう麻衣は教室から去ってしまっていた。

 今更、呼び戻すのは難しい。

 それに、俺たちの仲がかなり良くなっていることがバレるのも……。面倒なことにはならないだろうけど、話が進まなくなるのは確かだ。


「……来週末にお母さんが出張に行くみたいなんです」

「はいはい」

「それでですね……出張先なんですけど……」


 日和さんがスマホに地名を入力し、何やら画面を見せてくる。

 そこに映るのは綺麗な洞窟や、気持ちよさそうな温泉など。


「観光地ってこと……?」

「そうです。お母さんの出張先が観光地なんです」

「いいなあ~洞窟。涼しそう」


 ニュースでは今秋から暑くなると言っているから、涼しそうな洞窟に行きたい。

 それに暑い時の温泉だって決して悪くはないはず。


「良いですよね。私も行きたい……という話は置いておいて、どうにかしてここに修二さんを送り込めませんか? 週末だし、もし予定がないなら、一泊でも」

「つまり、二人っきりで軽く旅行をさせるわけか……」

「そういうことです!」


 胸を張って得意げな日和さん。

 もう何回か作戦を立てているからか、立案が上手い。

 日常のイベントを利用して、親たちの距離感を縮めようとするのは流石だと思う。


「アイデアはすごく良いと思うんだけど……父さんをどう説得しよう……」


 

 

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