第39話 日和さんからのプレゼント
「渡したいもの……?」
「分かりやすく言えばプレゼントです」
日和さんは不安そうに俺を見つめている。
渡す側がそういう気持ちになるのは当然の反応だが、渡される側である俺も戸惑いを隠しきれる自信が無かった。
何でもないのに、プレゼントをくれる理由があるのか?
そう思っていたが、日和さんが俺にプレゼントを贈る理由があった。というか、俺が作ってしまっていた。
「雲原さん。俺がこの前あげたブックカバーのお返しとかなら、大丈夫だよ。そんな気を遣わなくて……」
俺のその言葉を境に日和さんの纏う雰囲気が変わった。
さっきまでの不安と緊張が吹き飛んで、真剣な眼差しが俺を貫く。
「鳥羽さん……これは気遣いではないです。確かにあの時のお返しでもあります。けど、私が私の気持ちに従って、鳥羽さんにプレゼントをしたくなったからなんです」
「……じゃあ、ありがたくもらうことにするよ」
日和さんは絶対に借りを返そうとする。
出会った時からそうだし、今だってそれは変わっていない。
だけど、それだけでも無さそうだった。彼女が言う「私の気持ち」が具体的に何かは分からないけど、強い気持ちに動かされていることだけは確かだった。
気遣いでないのなら、それは好意に他ならないのではないか。
だとしたら、俺はそれを真正面から受け止める必要がある。
「実は二つあるんです……まずはその一個目から」
日和さんが俺に渡してきたのは、赤いラッピング袋に包まれているもの。
この場で開けたい気持ちに包まれるが、こういう場面ってどうするのが正解なんだろうか、と立ちすくんでしまう。
「開けてくれると嬉しいです」
「ご、ごめんなさい。開けます」
リボンをほどいて、中にあるものを確認する。
透明なビニールの包装に包まれたそれは、アクリルキーホルダーだった。
知らないキャラクターが印刷されている。
中性的な男性キャラクターで、どちらかと言えば男性向けな絵柄だ。一目見てカッコいいと思うような人物ではないが、何故か惹かれるところがある。
「ありがとう。雲原さん、その……とっても嬉しいよ」
「そう言ってくれるなら、幸いです」
安心したような表情を見せる日和さん。
彼女からのプレゼントなら何だって嬉しいに決まっている。
だけど、どうしてこのキャラクターのアクキーをくれたんだろう。
俺が知らないだけで、もしかして有名な作品に登場したりしているだろうか。それとも、日和さんのチョイスなのか。
「このアクリルキーホルダーのキャラクター何か分かります?」
「……ごめん。正直、分からない」
それから日和さんは黙ってしまう。
でも、決して嫌な空気ではなかった。俺の受け答えに対して、彼女は不満そうな表情を見せていない。
ただ、流れていく時間。
数十秒経った後に、日和さんは意を決したように口を開いた。
「そ、そのキャラクター、実は私のオリジナルなんです!」
「オリジナル……! 凄っ! 雲原さんってこんなに絵が上手いんだ」
そういえば……日和さんと『機械少女のカラフルマジック』というアニメの話をしたときのことを思い出した。確か、あのマイナーアニメを見ていた理由が【イラストの参考にするため】だったはず。
「ずっと雲原さんのイラストは見てみたいと思ってたんだよ。それをしかもプレゼントしてくれるなんて……本当に嬉しい」
「あ、ありがとうございます。でも、絵を描いてるって言ったことありました?」
「一緒に『機械少女のカラフルマジック』を見た時に、かな」
「よく憶えてましたね……言った私でも憶えてませんよ」
「その時なんだよね。雲原さんのイラストを見たいと思ったのは」
雲原さんはあの日っきり俺の前でイラストの話題を出したことは無い。
恥ずかしいものだと本人は思っていそうだったから、こちらから話題に上げるのも難しかった。
それだけ俺に渡すのに勇気がいるものをくれた。
その意味とは……。
「ち、因みにそのキャラは鳥羽さんをイメージしたものです!」
「そ、そうなの!?」
「は、はい。全部、宝谷さんの力を借りてはいるんですけど……」
この間、美術室で麻衣と日和さんがイラストについて話し合っていたのを聞いていたけど、そのためだったのか。
このオリジナルキャラクターには、手間と想いが詰まっている。
人の力を借りて、他人にさらけ出すのが恥ずかしかったことを使って、俺にプレゼントを作ってくれた。
これが彼女が言う「私の気持ち」が生み出したもの。
唐突に渡してきていいプレゼントじゃないと思う。計り知れない価値がある。
「嬉しいとしか言えないのが、悔しい……」
「喜んでもらえたのなら、何よりです」
そう言って安心したように微笑む日和さん。
これだけ凄いことをしているのだから、最初からそうやって笑って欲しかったな。
だけどプレゼントなんて何やっても緊張するのも分かる。
「もう一つのプレゼントが、このオリキャラのイラストデータです。もしよかったら、メッセージアプリのアイコンとかに使ってください」
「え、データもくれるの!? ずっと使う!」
「ぜ、是非!」
日和さんはそう言うと嬉しそうに表情を崩した。
俺はもらったデータをすぐにアイコンにした。今までの初期アイコンには、もう戻れそうにはなかった。
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