第31話 デート成功?

「デートの手順は昨日と同じで良いかな?」

「手順……映画を見て、食事を食べるという順番ですよね」


 照れくささを取っ払い、まずは前提条件の確認。

 そんな俺の様子を感じ取ったのか、日和さんもちゃんと向き合ってくれた。


「そう。大まかな流れに問題が無ければ、チケットを買って、父さんにデート行って来たら? って提案しようかなって」

「私は昨日のデート、とても楽しかったので全然良いと思いますよ。よろしくお願いしますね」


 日和さんのニコッとした微笑みが可愛い。

 俺も楽しかったし、特に反論はない。


「じゃあそうしよっか」

「はい!」


 そもそも今の話は、疑似デートに行く前から予定していたことではあったので、ただの確認に過ぎなかった。問題は、その次。


「それで、デート中はどんなことをさせようか?」


 筋書よりもその中で何をしてもらうか。

 俺と日和さんが親たちにアドバイスをする、その内容。


「映画の感想は言い合ってもらいましょう。それだけは絶対です」

「そのための映画だしね……」


 互いに映画を見て、その感想を言い合うことで互いを知り仲を深めてもらう。

 見させる映画の内容も、特に問題は無いと話はついているし。


「あとは……た、互いにボディタッチをしてもらいましょう……か?」


 語尾が上がっていた。

 日和さんの躊躇いを感じさせるような言い方。

 その気持ちは十二分に分かる。


「それ、父さんに言うのかなりキツイな……」

「……そうなんですよね。あれがどれだけ恥ずかしい思いをする行為なのか、知ってしまってからは尚更」


 微妙に俺と目が合わない日和さん。

 そういうこと言われると、昨日の指の感触を思い出してしまう。


 手がムズムズするが、俺と日和さんでは言葉の意味が異なっている。

 俺は父さんと踏み込んだ恋愛話をすることに忌避感があるだけだ。


 やっぱり、そこら辺の感覚が俺たち親子とは違うんだなと思う。


「……頑張ろう」

「ですね。いざとなったら、『私たちもやったんだから』と思うことにします」


 得意げに鼻を鳴らす日和さん。

 あの親たちなら手なんて繋いだことは無いだろうという認識だから出る言葉。そう思うと、疑似手繋ぎをした俺たちは前に進んでいる。


 ……前に進んでいるというか、そのせいで互いに意識し始めてしまった感覚のほうが強いのだが。


「親に対して恋愛面でマウント取れるなんて……くふっ」


 複雑な心境だ、と言おうと思っていたけど、思わず笑ってしまった。

 日和さんもそれに釣られて、笑みをこぼしていた。


 そんなやり取りを経つつ、日和さんとデート計画を練っていった。


☆ ☆ ☆


 俺と日和さんで考えたデート計画を父さんに伝えた。

 父さんは苦笑いをしながらも、俺たちの提案通りにデートをしてくるらしい。


 迎えた週末、父さんと春子さんは二人で出掛けていった。


 果たして上手く行くのか。

 ちょっとでもお互いのことをよく知れて、再婚まで近づいてくれたら良いなと願いながら、家でダラダラと過ごす。


 そして、夜帰って来た父が発した言葉。


「彰、ありがとう。彰と日和さんのお陰でちょっと話せるようになって来た!」

「おおっ、おめでとう!」


 もしかしなくても、作戦は上手く行ったらしい。

 疑似デートで試してきた甲斐があったと、胸を撫でおろした。


 やっと効果的に距離を縮めることができたと喜びを感じて、そのままの勢いで日和さんにメッセージを送った。


『父さんが言うには、デートが上手くいったらしいよ』


 送って一分もしないうちに、日和さんからの返事が返ってきた。


『そうらしいですね! 私もお母さんから聞きました』

『春子さんはなんて?』

『修二さんと映画のことで盛り上がっちゃった、だそうです』


 俺はびっくりしているスライムのスタンプを送り、続いて。


『春子さんも楽しんでたなら、大成功じゃん!』


 あの二人が盛り上がる。

 盛り上がるほど、ちゃんと話せたというのならとても大きな前進だろう。雲原家の二人を紹介された時の様子からすれば、信じられないことだ。


『嬉しいです! このままの調子で行って欲しいです』

『同感』


 順調に関係性を近くして再婚まで行って欲しい。

 そんな喜びと共に、次の作戦はどうしようか? なんて考え始めてしまうが。


『上手くいってるみたいだし、次の作戦はどうする? 一旦様子見とかでも良い気がするけど……』

『様子見、ですか?』

『そう。一回親たちだけに任せてみる、とか』


 上手く関係が進んだのなら、俺たちのお節介を一旦辞める。

 二人だって大人なのだし、ある程度まで距離が近くなれば、それからは早いのではないかと思うのだ。

 寧ろ、下手に刺激するのは良くないんじゃないかと思ってしまう。


 しかし、既読が付いてからというものの、日和さんからの返事がない。

 さっきまで、即返信を繰り返していただけに、恐らく何かを悩んでいるのだろうか。俺と意見が違うとか。


 待っていると、いくつも通知が並んでいた。


『気になりませんか?』

『仲が良くなったお母さんたちの様子が』

『それに、本当に話せるようになったか、確かめる必要があると思うんです』


 言われてみれば確かに気になる、と返信する前に新しいメッセージ。


『一度、二人のデートを尾行してみませんか?』

 

 

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