第30話 翌日の様子
疑似デートの翌日。
つまり、学校の始まりを告げる月曜日。
学校でクラスメイトたちに囲まれている日和さんを見ると、俺なんかと本当にデートをしたのかと疑いたくなる。
でも、俺と目が合うたび、嬉しそうに目を細めてくる彼女の姿が、決して夢や幻の類で無かったことを証明している。
そして、日和さんの嬉しそうな様子は、もう一つ大事なことを裏付けているように感じてしまう。
『わ、私も鳥羽さんのことが好きになり始めてます……』
昨日、確かに言っていた。
今でも、あの時の真っ直ぐな好意に満ち溢れた瞳を思い出せる。
それにしても、どうして彼女は俺なんかを好きになり始めたのか。
……この思考、鈍感系主人公みたいで若干気持ち悪いな。
それはそうと、本当に俺如きに好かれる要素があるとは思えない。
こういうことを日和さんに言うと渋柿を食わせられるので言えない。表面上は自分を卑下することを辞めたけど、内心はそこまでついてきていないのだ。
色々と考えていると、日和さんがこちらに近づいてきた。
この間のように、何か用事があるのだろうか。
堂々とした立ち振る舞いではあるが、頬に朱を帯びている。
そんな表情されたら、こっちだって赤くなっちゃうって! とか思いつつも、絶妙な俺たちの関係がバレないように何とか取り繕わなければ。
「あ、あの……」
日和さんは何かを言おうとして、口をもごもごさせた。
こうやって、顔を突き合わせるとどうしても昨日のことを思い出してしまう。恐らく、彼女もそんな感じではないか。
このままでは何かあったと周りから勘繰られてしまう。
「え、えっと、何か言おうとして忘れることってあるよね!」
「そ、そうですね! また思い出した時に連絡します」
「うん、よろしく!」
日和さんは去って行ったのだが、周りの男子生徒が俺に話しかけてきた。
普段、向こうから話しかけてくることなどほぼない奴なのに、何なんだろう。
「……鳥羽、お前、雲原さんの連絡先を持っているのか?」
「え、まあ……うん」
「お、お前……! 凄いな!」
クラスメイトの男子は俺を賞賛するように瞳を輝かせていた。
その反応を見て、やらかしたと思った。
日和さんは学校で異性と一定の距離を保っている。それに加えて、男子生徒で彼女の連絡先を持っている人は誰もいないと、風の噂で聞いたことがあった。
最近は毎日のように連絡を取っているから、忘れてしまっていた。
面倒なことになる前に、釘を刺しておこう。
「事情があるんだよ。それと、俺は誰にも、雲原さんの連絡先を教えるつもりはないからな」
「あ、そっか~、それは残念……」
それだけ言って男子生徒は去って行った。
基本的に、うちのクラスに悪い奴はいないと思っている。それもこれも、このクラスをまとめ上げている日和さんのお陰なのだが。
☆ ☆ ☆
日和さんから連絡を受けた俺は、美術室へと向かっている。彼女から、今後のことを話したいと連絡を受けていた。
今後のこと、とか言われると昨日の出来事から、俺たちの今後を想像したくなってしまう。冷静に考えれば、親たちのことだろうが。
美術室に赴くと日和さんと麻衣がいた。
麻衣の方はキャンパスに向かって絵を描いていた。宝谷麻衣は、芸術センスがぶっ飛んでおり、その推薦によって我が宮野口高校に入学している。そんな彼女から何やら話を聞いている日和さん。
何やら結構専門的な話をしていて、俺が割り込みづらい雰囲気。
そういえば、日和さんは「イラストを描いてみたいなと思っていた時期があった」と言っていたことを思い出す。それと何やら関連がありそうだが……。
まあ、話が落ち着くまで待っていようかと思って椅子を引く。
引き方が下手だったのか、音が立ってしまった。
「あ、来てたんですね! ごめんなさい……気づかなくて」
「い、今、来たところだよ……」
俺の存在に気づいた日和さんは輝くような笑顔を見せてくれる。俺もその表情を見て、思わず口角が上がってしまう。
互いの表情を見つめ合っているが、ただ緊張しているだけだ。これでは今朝と同じで話が進まない。
自分の気持ちを振り切って、何とか声を上げる。
「こ、今後のことって……親たちのことだよね?」
「そ、そうです……」
互いに気持ちが向いている(?)ことが分かってしまい尚更、親たちのような距離感に近づいている。寧ろ、教室より外野が少ないからか、殊更に。
「……昨日のデートを参考にして、親たちのために、デートプランを考えようか」
「……は、はい」
多分互いに、昨日のデートで揺れた心の整理が終わっていないだろう。
その情報を元にして、親たちのデートプランを作り上げなくてはいけない。
昨日の日和さんの可愛さを思い出し、脳みそがやられそうになりながらも、話を進めていくことにした。
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