第29話 疑似デートの終わり、雲原日和の気持ち
「わ、私も鳥羽さんのことが好きになり始めてます……」
彼女は俺の目を見て、そう言った。
まだ、熱が抜けきっていないのか頬は赤く染まったままだった。
多分、日和さんは俺の言葉を受けて、そう言い返すことを選択したのだ。真剣な眼差しをしていることからも、嘘だなんて思わない。
純粋な好意を受けて、思わず目を逸らしたくなってしまう。だけど、それは礼に欠ける。
すると、必然的に見つめ合うような形に。
こうやって見るとやっぱり可愛いなと改めて思う。
艶やかな髪に、真っ白い肌、宝石のような瞳、しっとりとした唇。顔のパーツも良くて、全体的に整って見える。
そんな彼女が熱を帯びたように見つめてきている。この俺なんかを。
嬉しい、とは思う。でも、どうしても自分なんかが、と思う気持ちもある。
それにしても、この状況……どうしようか。
互いに見つめ合ったまま、声を出せなくなってしまっている。
この時間が嫌なわけではないが、日和さんにだって門限はあるはず。
そう思って何とか声を絞り出した。
「か、帰ろうか……」
「はい……」
そして、俺たちは家に帰るために改札をくぐった。
日和さんは隣を歩くのが恥ずかしいのか、少し後ろからついて来ていた。
☆ ☆ ☆
私、
映画館とは違って、肘掛けがなく仕切りのない状態。
正直に言えば緊張していますが、どうにも彼の隣にいると安心もします。気持ちの上げ下げが両立していて、不思議な感覚です。今は、かなり落ち着いていて、気持ちの整理が捗りそうです。
鳥羽さんには言えませんが、今日のデートには別の目的がありました。
お母さんたちのために理想のデートを追及する、これは表の目的。
裏の目的は、私が鳥羽さんに対して、どのような気持ちを抱いているのかを把握することです。裏というか、こっちが本題です。
私は、鳥羽さんのお陰でお母さんに本音を言えるようになりました。
あの日、彼は私をわざわざ探し出して、共感と解決策を示してくれました。
後日、そんな彼に感謝を示すため、お弁当を作って行こうと考えたのです。あの日、お昼ご飯を満足に食べられなかっただろうから、という意味合いもあって。
そしたら、お母さんに「……流石にそれは止めといた方が良いんじゃない?」と言われ、宝谷さんにも「ただでさえ、家族になるかもしれないのに、付き合ってるなんて噂が流れたら最悪だぜ~」と言われました。
冷静に考えれば、そう目に映るのも分からなくはないです。
付き合っていなくとも、相当近しい間柄でしかしないことに違いはありません。
そうなったときに、私が抱いている感情が何か気になったのです。
少なくとも、彼にご飯を振舞いたくなるくらいには、
でも、それが何なのか、今一分からなかったのです。
それだけ信頼できる男性は死んでしまったお父さんしかいなかったので、尚更。
つまり、彼に抱いている感情が、友情なのか、恋愛感情なのかを確かめたくなってしまった。
今から考えて見れば、そう思っている時点で……という話ではあるのでしょうけど。
疑似デートだったのは、その場の思いつきです。
恋人っぽいことをすれば、恋愛的な好きかどうかを確かめられるはず……と。
デートをすることが決まり、服装や化粧はどうしようか、と悩み出します。
当日は絶対に彼を待たせたくないと、集合時間の三十分前には到着しました。
明確に恋人らしいこととして、手を繋ぐことを提案しました。
一緒に街を歩き、映画を見て、ご飯を食べました。
最後に、彼が私のことをどう思っているのかを聞きました。
色々と試してみて、顔に熱を帯びるような場面が何度もありました。
私は男性から向けられる感情には敏感なつもりです。
告白された回数は片手で数えられませんし、正直、気持ち悪いと思ってしまった男性だっています。
鳥羽さんには、全くそういう気持ちを覚えませんでした。
寧ろ今日は、そうやって鳥羽さんとのデートでドキドキできることに嬉しさを感じていました。
つまるところ、私は鳥羽さんのことが恋愛的に好きになりかけている。それを自覚して、彼に伝え返しました。
彼も私のことを好きになっちゃいそう、と言っていました。
両想いに近いのだと思います。
でも、付き合うという話を私は出しませんでした。
男性からそういう言葉を言われたい、そのような欲求は確かにあります。だけど、そういうことではありません。
彼、
強欲だとは分かっています。
けど、彼にとって、私を選ぶ【特別】な理由を持っていて欲しい。
私とのデートでドキドキしたから、なんて理由で済まされないものが欲しい。
そして、彼にとっての【特別】となった時に、結ばれたいのです――。
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