第27話 互いの食生活

 今日の疑似デートで選んだのはバイキング形式のレストラン。

 時間制限のあるタイプで、その時間以内ならどれだけ食べてもオーケー。


 ただ、俺たちがバイキング形式を選んだのは、沢山食べたいからでは無い。


「お母さんたちはもっと良いところに行くように言いましょうね」

「そうだね……そこは本人たちに任せよう」


 このレストランを貶したい意図で言ったわけではない。ただ、値段的な問題で親たちのデートには相応しくないと思っているだけだ。


「どうしようか? 一緒に取りに行くか、各々で好きに見て回るか?」

「一応デートですし、一緒にゆっくり見て回りましょうよ」

「やっぱりそれがいいよね」


 俺と日和さんは席から立ち上がり、並んでいる料理を見ていく。

 和洋中、色とりどりの料理たちが俺たちを歓迎する。

 どれもこれも美味しそうだ、と思うけとどうしても胃袋と相談する必要性が出てくる。


 そうは思いながらも、炭水化物とタンパク質で皿が埋め尽くされていく。

 

 日和さんはどんな料理を取ってるんだろう……皿の上を見るとかなりバランスが良い、俺なんかとは全然違った。


 奇遇なことで日和さんも俺の皿を見ていた。

 それから、ちょっと呆れたような、面白がるような笑みを浮かべた。


「……もしかして、鳥羽さんってお野菜とか嫌いだったりするんですか?」

「べ、別にそうじゃないけど……それ以外に食べたいものが多くて」


 決して嫌いではない。

 だけど、家でもあんまり摂取することはないし、どうしても目につかない。


「ふふっ、ちゃんとお野菜も食べなきゃだめですよ」

「はい……、おっしゃる通りです」


 おかんか何かかな。

 まあ、俺の本物のおかんは蒸発してるし、あの人も大して食生活に気を遣う人じゃなかったので……。


 日和さんに言われてから、野菜を使った料理やサラダが置いてあるコーナーに戻ってきた。


 しかし普段は野菜などあまり食べることがなく、何を取ったらいいのか分からず、立ち尽くしてしまった。人の流れもあり、邪魔なのは分かっているのだが、折角の疑似デートだし美味しくなかったという記憶を残したくない。


「……何やってるんですか?」


 一通り料理を取り終えたのか、盆を持った日和さんが後ろに立っていた。


「お恥ずかしながら、何を食べたら良いのか分からなくて……」


 俺のその言葉に日和さんはニンマリとした笑顔を浮かべた。

 確かに、この歳で食事のバランスを考えてない俺は愚か者だけどさ……。


「でしたら、私が選びましょうか?」

「それは流石に……」

 

 同級生の女子に、バイキングで取る料理を選んでもらう、この状況。

 情けなくないか?


「いいじゃないですか。ここを選んだのだって、そういう理由ですし。それに……、鳥羽さんにもバランスの良い食事をしてもらいたいので」


 日和さんは特に揶揄ったりすることもなく、そう言い切った。

 普通に心配されているのかな……。


「分かったよ。日和さんのオススメを頼む」

「はい! もちろんです」


 にこやかに嬉しそうな笑みを浮かべた日和さん。

 それから、どんどんと盛られていく野菜を使った料理。サラダの方も手慣れている感じで野菜たちを組み合わせてくれた。


「ありがとう。情けなくてごめん」

「いえいえ良いんですよ。元々の目的通りじゃないですか」


 そして、二人で席に戻った。


「「いただきます」」


 俺は肉や魚から食べ始めているのに対して、日和さんはスープから飲み始めた。

 こういうところでやっぱりお互いの違いというものを実感する。


「やっぱりバイキング形式のお店を選んで正解でしたね。選び方だけでも、お互いのことが良く知れると思います」

「……そうだね」


 親にはもうちょいお値段のする場所に行ってもらうつもりだが、こういうバイキングやビュッフェ形式を選んだ理由はこれだった。

 料理の選び方、食べるものにどうしても差がでてくる。

 相手がどんな食べ物が好きで、苦手なのかが分かる。再婚する上で、食生活をすり合わせるのが大事な作業なのは間違いない。


 まあ、今回は俺の微妙な食生活が露呈してしまっただけなのだが。


「雲原さんは普段からバランスを考えて食事を取ってる?」


 日和さんは器用にプチトマトをつまもうとしていた。しかし、中々上手く行っていないようで、ころころとはじき出されていく。


「と、取ってますよ。基本は自炊でお母さんの分も作ってます」


 ようやく掴めたようで、プチトマトは日和さんに食べられた。


「俺も自炊するけど、簡単なものしかできないからなー。特に野郎の二人ぐらしだから、野菜はあんまり取らないんだよね……」


 別に父も俺も野菜が特段嫌いなわけではない。

 ちゃんと野菜ジュースも飲んでいるし……。


「駄目ですよ。バランスよく食べないと!」

「ごもっともです、なるべく食べるようにしたい……」


 俺の消極的な賛成。

 それに対して、日和さんは遠い目をしながら、ボソッと呟くのだ。


「…………いつか、鳥羽さんの食生活を改善したいな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る