第26話 暗闇の良いところ、悪いところ
予告映像たちが終わり映画本編へ移り変わる。
ジャンルはアクション。
筋肉! って感じの男たちが愛する人のために違法なサバイバルゲームに挑むという洋画だ。内容が昨今のトレンドと合っているのかは知らないが、緩急のある展開に、ド王道。嫌いな奴は少ないだろう。
そんな話なので、ちょくちょく爆発シーンがある。
その度に画面がよく光るので、周りの様子も良く見える。隣で見ていると日和さんが、息を呑む仕草だったり、夢中になって鑑賞している様がよく分かった。
一方の俺も隣の日和さんをあまり意識せずに映画鑑賞をすることができた。
視聴者を取り込めるような話であることは間違いなかったからだ。
期待を裏切らないストーリーだったが、終盤のとんでも展開にびっくりしながらも映画が終わりを告げる。
俺には一切分からないエンドロールに流れる英語の文字、そして洋楽。
前の座席の人達の一部は席を立ってシアターから出て行った。
気持ちは分かる。キャストや監督など、製作陣に興味はないし、皆一斉に出ると込み合ってしまうからだ。
だけど、一番後ろの席、俺たちの途中退席はどうしても多くの人に目立つ。
止めるべきだろうと思ったけど、日和さん的にはどうなのだろうか?
そこそこ映画を見に行く彼女にとっては映画鑑賞への慣習が何かしらあるはず。そうじゃなくても、お手洗いとか、出たい理由はあるかもしれない。
声を出さずに意図を伝え合う方法。
そうだ、今度は俺が日和さんの耳に手を当てて話せばいい……。
……いいのか? だって、つまりそれは日和さんの煌めくような髪と白い肌に触れてしまうことに他ならないのに。
でも、先ほどの日和さんは躊躇なくやってきた。
彼女が何とも思っていない行為なのに、俺だけ緊張していても仕方ない。
そして、先ほどの日和さんに習って、スッと彼女の耳に手を当てた。
さらさらした髪と、すべすべとした肌がどうしても鼓動を高鳴らせる。そんな俺の感情がバレないように、平静を装って話しかける。
「雲原さんってエンドロールって見る派?」
俺の囁き声に日和さんは体をビクッと震わせたのが暗闇の中でも分かった。
そして、体を背けてから胸に手を当てて、深呼吸するような素振りを見せた。
急に話しかけられれば、そりゃビックリもする。
それから落ち着きを取り戻した日和さんは、手の形を何かを包むように整えた。
何かしらの返答があるのだろうと、俺は前を向いて体を屈める。
「み、見ますよ……だから、終わってから出ましょう」
耳元で囁かれるのも、髪をほんのり触られる感覚も慣れない。
どうしても、ゾクッとしてしまう。
それにしても日和さんの声が震えていた。
……もしかして、彼女も俺と同じ感想を抱いたのかな。無意識で囁いてこられる危険性を知ったのかも。
チラッと日和さんがどんな表情をしているのか気になったが、それを見るのはかなわなかった。暗闇の悪いところだし、良いところだ。
☆ ☆ ☆
映画館から出ると日が沈んでいた。
上映時間がズレることはないし、計画通りの進行だった。
「映画、面白かった……ですよね?」
「まあ、面白かったと思うけど……」
人によってはどう感じるか分からない部分があると思ったけど、そう思っていたのは俺だけでは無かったらしい。でも、その話はまた後でだ。
「夕飯は例の……なんかオシャレそうな名前の……、場所どこだっけ?」
「名前くらいちゃんと覚えときましょうよ……」
日和さんが仕方ないですね、と言った様子で、マップを表示する。
この繁華街にあるリーズナブルなレストラン。英語だかアメリカ語だかなんだかの名前がついている。
外食は普段はチェーン店くらいにしか行かないので、そういう場所に縁がない。
映画館を出て、少しだけ歩くとその店はあるようだ。
「ここかな……」
「たぶん、そうだと思います」
テナントビルに入り、指定の階を目指してエレベーターに乗る。
出たところで、まず感じるのは料理の良い匂い。
あと、並んでいる人たち。
「やっぱり混んでましたね……」
「そうだね。待つしかない」
休日の夜ということもあり、予想通りに込み合っていた。
その列の一番後ろにつける。だけど、ただ待っている時間ももったいない。
「本当は食事をしながら、感想を話し合う予定だったけど、今話しちゃおっか?」
「ぜひそうしましょう!」
待っている時間が退屈だからとか、そういうわけではないだろう。
そわそわしている。日和さんは感想を語り合うのにかなり乗り気らしい。
「凄かったですね! 終盤の展開……ある意味で」
「そうだね……かなりぶっ飛んでいるというか」
互いに想っている感想は同じだったらしい。
見て来た映画、途中まではサバイバルゲームが展開されるのだが、それが中盤で終わってしまう。その後、生き残った元参加者たちが集合し、ゲーム開催者を見つけ出して、ロケランで爆破して、金を奪い去って終わる。
「テンポが良すぎるんですよ! 推理パートもほとんどなく主催者を見つけ出して、その護衛たちと戦闘になっちゃう。テンポがほんとに早い」
「分かる~。スピード感がいいよね」
「そう! そうなんです!」
順番が来るまで、俺たちは映画についての感想を語り合った。
夢中になって語る日和さんを見て、良い映画を選べたのかなと思った。
これだったら、親たちも気に入ってくれるはずだろう。
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