第18話 約束破ったら渋柿食べてもらいます

 日和さんから出た言葉に、頭が真っ白になった。

 デートを試す。親のためだと、彼女は言っていた。

 しかし、俺の心は揺れに揺れていた。


 ちゃんとしたデートが出来ているかどうか怪しい親たちのために「理想的なデート」を追及し、教えてあげる。今回の提案の意味はそういったところだろう。


 この間は自分から日和さんを家に誘った。でも、これはただ単に親を釣るため。言うなれば、ただ遊んだだけに過ぎない。


 でも、今回の日和さんからの提案は、デートをすること。

 デートってことは大なり小なり、恋愛感情を意識したものの、はず……?


「どうぇ! 日和ちゃそがアキラと疑似デートぜ~?」


 俺も「どうぇ!」って言いたい。

 言いたいけど下手に動揺を見せたくは無かった。日和さんのことを異性として意識していると思われて距離を取られたくないからだ。

 

「く、雲原さん、ちょっと詳しく聞いてもいい? 一応、何のためのデートなのか、教えて欲しいんだけど」

 

 やばい、どうしても口調に動揺が。

 そう思っていたけど、日和さんの様子もおかしかった。


「え、えっと、すいません……ちょっと考えます」


 あんまり深く考えずに俺と疑似デートするって言ったのだろうか。

 日和さんは思っていたよりも天然だった?


「そうですね。やっぱり、お母さんたちの距離感が縮まらないのは、デートのせいだと思ったんです。もっと距離を縮めるために効果的なデートがあるはずだと」

「俺は、親たちがどういうデートしてるかまでは把握してないから何とも言えないけど……、確かにそうかもしれない」


 そもそも父親と恋愛話をする場面がない。

 日和さんと春子さんの二人はそうではないのだろう。


「…………そ、そうなんです。お母さんから呆れるような逢瀬を聞かされますよ」


 また考えるような間があったような気がする。

 天然なのかと思ってけど、そもそも頭が回っていないのだろうか。


「日和さん……大丈夫? なんか疲れたりしてない?」

「大丈夫です。寧ろ今は、元気が溢れてますよ」


 そう語る日和さんの微笑みは血色がよかった。

 確かに今日は、若干テンションが高い様に見える。

 それだけなら、全然良いんだけど。


 そんな風に思っていると麻衣が箸を置いて「ごち!」と叫んだ。


「なあ~アキラ~、あたし、食い終わったから教室戻るな~」

「え、二人っきりは困るんだけど……」

「もう今のお前、緊張してないだろ~。だったら、あたしはいらないんだぜ~。それに、これからデートの話をするんだったら、巻き込まないで欲しいよな~。じゃあな~」


 麻衣はお盆を持って、俺たちの前から去って行った。

 確かに、緊張は無くなったけど、それは別の問題が発生してるからだし……。

 とはいえ、俺たちの親の話に巻き込むのもどうかと思ったので、引き留めたりはしなかった。


「鳥羽さん……そう言えば、どうして宝谷さんを誘ったんです?」


 日和さんは先ほどみたいに怒ったりはしていない、純粋に不思議だとでも言うように首をかしげていた。


 その質問に答えるかどうかは悩む。

 大したことではないとは思っているが、それで日和さんに気を遣わせたくはない。

 でも、昨日は日和さんとお母さんとの問題に首を突っ込んだ。それなのに、俺のことを話さないわけにもいかないだろう。


「平たく言えば、自分に自信がないんだよね。雲原さんみたいなキラキラしてる子と、自分のような人間が人前で接する自信がない。だから、その雰囲気を壊してくれそうな麻衣を誘ったんだ」

「私そんなにキラキラしてませんし。そもそも、自分のような人間って……素敵な人なんですから、そんなことを言わないでください。これはお世辞ではないです。本気でそう思ってますからね」


 日和さんは強い眼光を光らせていた。

 本気でそう思っているのが目を逸らしてしまっても伝わってきそうだ。

 

 それでも、自分なんかが……と言いたくなってしまう。

 残念な人間性だ、だけど。


「……なるべく雲原さんの前では言わないようにします」

「約束ですからね。破ったら、渋柿食べてもらいますよ」

「はい……頑張ります」

 

 針千本ではなくて、渋柿なのは日和さんなりの優しさなのか。

 卑下しないようにしてくれるのも、渋柿なのも彼女の人の良さだろう。


 改めて日和さんがとても優れている人だと実感する。

 そんな彼女と親のためとは言えデートに行く。


「ごめんなさい。話が逸れましたね」

「いや、そもそも俺が麻衣を誘ったのが良くないから……」


 とは言いつつも、話が逸れても良いとは思った。

 だって日和さんとデートについて話さなくてはいけない。それが、普通に恥ずかしいのだ。


 だけど、彼女は待ってくれない。

 興味津々なのを示すかのように前のめりだった。


「鳥羽さんにとって、理想的なデートとは何だと思いますか?」

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