第12話 日和さんを探して

 父さんから日和さんの家の住所を聞いて、彼女が住んでいるアパートへと向かう。

 会って話さない? とメッセージアプリで連絡をしてみたが、既読はつかない。通話もダメだった。


 勢いで女子の家にアポなしで来てしまったが大丈夫なのだろうか? と思いながらもインターホンを押す。


『はい、今、行きます……って彰くん!?』


 聞こえてきたのは日和さんの母、春子さんの声だった。


鳥羽彰とばあきらです。突然すいません』

『ちょっと待っててね』


 それから少しの間、アパートの廊下で待たされる。


「お待たせしちゃったわね……さあさ、入って」

「お邪魔します」


 脱いだ靴を端に揃えて、雲原家の中へ。

 廊下を通されて案内されたリビングには服が脱ぎっぱなしだった。下着等が落ちていないのはまだ幸いか。

 以前に日和さんが、「だらしないところがある」とお母さんのことを言っていたが、それを見せられたような気がした。


 椅子に座らせられて、飲み物を出された。

 それはありがたいのだが、日和さんはいないのだろうか。春子さんが呼びに行っている様子もないのは気になる。

 

「最近は日和と仲良くしてくれてありがとうね。どうしても仕事の都合上、帰って来るのが遅くなっちゃうから、遊んでくれるのは助かるわ。それにしても、今日はどうしてウチに?」

「どうしても日和さんに言いたいことがあって……」


 謝りたいなんて実の親の前で言えるわけもなく、下手な言い方になってしまった。

 一瞬、訝るような視線を向けられたが、すぐに申し訳なさそうな顔を見せた。


「それがね、あの子、何も言わずに出て行っちゃったのよ」

「……え、そうなんですか」


 もしかして、俺が思っている以上に日和さんは責任を感じて思い悩んでいる?

 それとも、春子さんを連れ出す際に何かトラブったとか。


「……聞きづらいんですけど、喧嘩でもしました?」

「そんなことしないわよ! あの子はとても良い子だから、喧嘩とか考えられないわ! でも、たまに、一人でフラッと出かけることがあるのよね、今日みたいに」


 喧嘩とか考えられない、なんて二人暮らしであり得るのだろうか。

 この言い方だと数年レベルは、意見のぶつかり合いすらしていないようだ。

 

「夕方には帰ってくるだろうし……そしたら、彰くんに教えようか?」


 この春子さんの言い方から、日和さんが家でどういう風に過ごしているのかは、何となく予想がつく。仮に俺の予想が合っているのなら、春子さんがいない場所で日和さんと話がしたいと思った。


「いえ、大丈夫です。探してきます。お茶、ごちそうさまでした」


 置かれた熱いお茶を一気に飲み干して、俺は雲原家から出た。


☆ ☆ ☆


 出たは良いが、日和さんを探す宛てがない。

 日和さんが行きそうな場所を春子さんに聞いても良かったが、あの様子では知っているわけがないと聞かなかった。


 と、なれば頼れる奴は一人しかいない。

 俺はスマホを操作して、ソイツに電話をかけた。


『ワンコールで出てやったぞ~、感謝しろだぜ~』


 いつも通りの変な語尾で通話に出る女、宝谷麻衣。

 麻衣は日和さんの親友だと俺に宣言していた。なら何か知っているかもしれないと電話をかけたのだ。


『ありがとう。それで早速聞きたいことがあるんだけど、日和さんが一人になりたい時に行きたそうな場所って分かる?』


 麻衣に聞いて分からないなら、誰にも分からないだろう。そうなれば、もう足でしらみつぶしに探すしかないが……。


『日和ちゃそが一人になりたい時にいくところ~、う~ん……分かんないぜ~』

『そっか。時間を取らせて悪かった、切るね』

『ちょっと待つんだぜ! お前の言い方的に、日和ちゃそが、今どこにいるのか分からないんだろ~』


 麻衣が大きな声を出したのが、スマホ越しに伝わってきた。

 変人ではあるが、優しい彼女だ。何か協力してくれる気になったのだろう。

 

『ちゃんと状況を話すんだぜ』


 ちゃんと、と言われても俺が分かっている情報は少なかった。だから、俺なりの解釈を入れて話してみることにした。


『多分だけど、日和さんは親と何かトラブったんだと思う』

『日和ちゃそが親子喧嘩……い、意外だぜ~』

『喧嘩まではいかないと思うけど……、何て言うんだろう……』


 上手く口にすることができない。

 ずっと「良い子」だった彼女が、一人で行先を告げずに外に出る。

 それはつまり……。


『……頭を冷やすため? なのかな』

『……親子喧嘩の頭を冷やすためぜ? ダハ、ダハ!』


 ダハダハと笑い出す。

 これは麻衣が愉快がっている様子に他ならなかった。


『まるで、アキラみたいじゃないかぜ? お前、離婚して大変になった父親との距離感に悩んでよく家から飛び出してたじゃねえかよ~、甘えないようにするためだとか言ってよ~』

『そんなこともあったな』


 言われて思い出す黒歴史。

 一人になってしまった父親に迷惑をかけまいとした末に、遊びに行くと装って一人近所をぶらぶらしていたあの日。

 もしかして、日和さんも同じだったりするのだろうか。


『なら、日和ちゃその近所を探してみればいいんじゃないかだぜ~、あの子の気持ちを多少なりとも分かるお前なら、見つけられるぞ~。探して来い!』


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