第11話 義理のきょうだい(仮)

 迎えた週末。計画に沿って、俺は父親へ昼飯を食べに行こうと誘う。


「遠くない? 近くの店じゃ駄目なの?」

「遠いから交通費出すのが嫌なんだよ。だから奢ってくれると助かるな~」


 チラチラと父さんの目を見る。

 特に嫌そうな顔をしているようには見えなかった。ちょっと困ったように苦笑を浮かべてはいるが、本気で拒否していない。


 父さんは基本的に俺に甘い。

 常識外のことを言わない限りは基本的には受け入れてくれる。


「わかった。偶には家族サービスしないとな」

「ごちになります」

「その店のことを俺は何も知らないから、ちゃんとオススメを教えてくれよ」

「それはもちろん」


 良し、これで後は時間に気を遣いながら父さんを所定の場所に連れていくだけ。

 ただの外食なのに、数駅先の繁華街まで行くことを認めてくれるかは、ちょっとだけ心配だったが。

 

 わざわざ繁華街まで連れて行くのを日和さんに提案したのは俺だった。

 近場だと二人が帰って来てしまうかもしれないし、繁華街の方がデートしていて楽しいはずだと思ったからだ。


 外出するために身だしなみを整えて、親子そろって外に出る。

 

「彰と出かけるのって久しぶりだな」

「まあ、俺も高校生だしね」

「そうだなあ~、随分と大きくなったよ。時間が経つのが早いよ……大学生になったら、一緒に飯すら食いに行かなくなったりするのかな」

「毎回奢ってくれるなら、俺はついていくけど」

「……うーん。考えておくよ」


 こういう会話をしていると、父さんが俺のためにお金を出してくれようとしているのが伝わってくる。それなのに騙して連れ出してしまっていることに対して、ちょっとばかり心が痛む。


 最近のことを話しながら電車に乗り、気づけば目的地の繁華街へ。

 

 雲原さんも同じ電車に乗って来ているはず。出口で俺が電話を受けるフリをして時間を稼いで、日和さんが俺の父親を発見するという流れだ。


 そう思っていたのに、本当に着信が来た。

 

「あ、電話だ、ごめん」

 

 画面を見るとメッセージアプリの通話機能。

 【ぴよぴよひより】……日和さんからの着信だった。


『はい、鳥羽です。どうしたの雲原さん?』

『……ごめんなさい、鳥羽くん。お母さんを上手く誘うことができませんでした』


 本当にいたたまれなさそうな日和さんの声。

 今日の作戦について日和さんと話した時になんとなく、彼女が乗り気でないのでは、という気はしていた。

 でも、日和さん自身が「やりましょうよ」と言っていたから、大丈夫だと勘違いしてしまった。


『鳥羽さんはお父さんとお二人で外食を楽しんで来てください。今日は本当に申し訳ありませんでした』

『そ、そんな丁寧に謝らなくても……』

『いえ、良いんです。私のせいなので……それでは』


 そして、通話は途絶えた。

 

「日和さんから電話? トラブルみたいな感じだったけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」


 父さんには子細を話すことができないので、とりあえず大丈夫で流すしかない。

 

 俺が行きたいと言ってしまった店へと歩く最中で考える。

 

 どうしても感じてしまうのは、罪悪感。

 嫌な予感自体はあったのに、それをちゃんと察して動けなかった。自分が至らないせいで、日和さんに謝らせてしまった。


 父さんと飯なんて食べてないで、日和さんに謝りに行くべきじゃないか。

 

 でも、と心がストップをかける。

 日和さんは「お母さんを上手く誘うことができませんでした」と言っていた。

 言い方から考えて、どちらかに予定があったわけではなさそうだ。そうなると、恐らく雲原親子の距離感の問題になる。


 そんな日和さんと会うのだ。

 必然的に、彼女たち親子の問題に触れることになるんじゃないか。


 やっていいのか。

 クラスの美少女である日和さんに対して、凡人以下の俺が。

 所詮はここ一週間程度の、親の再婚のための協力関係でしかない俺が。


「どうした彰……やっぱり日和さんと何かあったんじゃないか?」

「別に大丈夫だよ……」


 取り繕ろうとしたけど、どうしたって表情には隠し切れない悩みが出てしまっているのだろう。父さんはそれを見逃すような人物ではなかった。


「喧嘩でもしたか?」

「喧嘩じゃないよ」

「そうか、それなら良いんだけどな。お、俺と春子さんが再婚するなんてなったら、お前ら二人は義理のきょうだいになるわけだしな。仲良い事に越したことはないよ」


 言われて思い出した。

 俺と日和さんは将来的に兄弟になるかもしれないのだ。だから、良好な関係でいたい。これは日和さんにも言ったことがあった。


 そうだ、このままだと俺たちの関係性にしこりができてしまいかねない。

 どうせ家族になるかもしれないのだ。今更、家族の問題だから介入するのは控えるべきなんて言い訳は役に立たないはず。


 自分がやるべきことは、ここで悩みながら、昼飯を食べることなのか。


「父さん、ちょっと俺日和さんに会いに行ってくる」

「うん、そうしなよ。ちゃんと仲直りして来な」

「だから別に仲違いしたわけじゃないって……、日和さんの家の住所教えて」

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