第8話 意外な共通項

 アニメオタクですら「あったな~」くらいの認知度の作品なのに……。

 だが、彼女の「好き」と言った言葉に決して嘘があるようには思えない。頬が紅潮して興奮しているのが伝わってくるからだ。


「マイナーだけど、一番最初に見た深夜アニメで、作画が個性的だったがらだよ」

「そ、そうなんです。『機械少女のカラフルマジック』はシナリオとしてはそこまででもないかもしれませんが、作画が凄いんです!」


 機械少女のカラフルマジックというアニメはソシャゲ原作の作品だ。

 ソシャゲ本編自体は面白いのに、アニメではオリジナルシナリオをやったせいで、上手く作品の魅力を伝えられていないと評される。


「だよな。普通の回はそうでもないんだけど、浄化回が凄く凝ってるもんな」


 浄化回。

 機械少女のカラフルマジック、アニメ全十二話話のうち、四話と十二話のこと。

 本作は世界を侵略してくるクリーチャーたちと、人間達に作られた機械少女たちとの戦いを描いた作品だ。そしてクリーチャーに支配された土地というのは、色が奪われたモノクロの世界になっている。

 そのモノクロの世界をカラフルな世界に取り戻す回が俗に浄化回と呼ばれる。


「どうしたら、あんなに綺麗なものを描けるんでしょうか。世界が色づいていく感じがとっても美しくて」

「そうそう。とにかくあの回の作画がいかれまくってるんだよな」


 俺は日和さんの言葉に同意するようにうんうんと頷く。

 好きなマイナーアニメの話がここまで通じる人が、リアルに存在するとは……。


 やはり、そうなってくるとどうして、このアニメを日和さんが知っているのか気になって来た。


「雲原さんこそどうして、カラフルマジックのことを知ったの?」

「……は、恥ずかしいんですけど、一時期イラストを描いてみたいなと思ってた時期があって、なんか参考になる作品がないかなって探してたら、って感じです……」


 頬を掻いて苦笑いしている日和さん。

 昔、SNSで、創作しているのを知られるのは恥ずかしい。と呟いている人を見たことがある。しかもそこそこバズっていた。

 もしかして日和さんも恥ずかしかったりするのだろうか。


「参考になった?」

「いえ、凄すぎて無理でした……と、そんなことより、二人で一緒に『機械少女のカラフルマジック』を見ませんか?」


 日和さんは露骨に話題を変えようとした。やっぱり、黒歴史だったりするのか。俺は日和さんのイラストを見てみたいと思っているけど、当人が恥ずかしいと思っているものを見せてとは言えなかった。


「いいね。じゃあ、もう一杯コーヒー淹れてこようか?」

「……コーヒー以外でお願いします」


 あの滅茶苦茶苦いコーヒーを思い出したのか、日和さんは渋い顔をしていた。

 そんな彼女を尻目に立ち上がり、キッチンへと向かい紅茶を淹れた。


 紅茶の入ったカップを日和さんの前へと置く。


 さっきまでは日和さんの正面に座っていたが、置いてあるテレビでアニメを見るなら、テレビの前にある三人掛けのソファに座るべきだ。

 既に日和さんはそちらに移動していることに今更気づく。


 俺は一人分の間を開けて、日和さんのいるソファに座った。

 そして、配信サイトでアニメの再生を始めた。


☆ ☆ ☆


 気づけば夕日は完全に沈んで部屋が暗くなっていた。


「なんか、昔より面白く感じたような気がしました……!」


 日和さんは色々と感想を呟きながらアニメを見ていた。

 アクションシーンとかになると、「ほっ」とか「あっ」とか、突然顔を背けたりとか、一杯感情を見せていた。見せていたというよりも、自然と身体が反応してしまうだけかもしれないけど。


 そんな日和さんにどうしても時々目が行ってしまうのはしょうがないだろう。別に恋愛感情はないけど、可愛いと思ってしまうことはある。

 

 それはそれとして、日和さんのいう事には同感だった。


「初めて見てから時間が経ったからかな、思ったよりもストーリーに深みがあったというか……」

「そうなんです。昔の私は幼過ぎて、話が理解出来なかっただけなんじゃないかと思います」

「逆に言えば、それが理由でウケなかったのかもしれないけどね」

「そっちの可能性もありますね。そういえばネットの反応で昔、似たようなのを見たような気がします」


 互いに興奮冷めやらぬ中で、感想を語り合っていた時だった。

 玄関のドアが開かれた音がした。つまり、今日のメインターゲットである俺の父親が帰って来たのだ。


 リビングに彼が入って来ると驚きなのか、カバンを落としていた。


 父親に日和さんが来ることは伝えていない。

 だから、そういう反応になるのは当然のことだった。


「お邪魔しております」

「あ、うん。いらっしゃい……」

 

 さっきまでの熱を感じさせないかのように日和さんが挨拶をする。

 

「アキラ……これは一体……?」

「昨日レストランから一緒に外に出た時に、友だちになって、それで」


 そう言ったのだが、信じられない、というような眼で見てくる父さん。


「そ、そっか。日和さんと仲が良いに越したことはないけど……」

「うん、そうでしょ。だから明日もうちに遊びに来るって」

「え、そうなの!? ぜ、全然良いんだけどさ」


 親たちを動かすにはもう何回か遊んだほうが良いはずだと、俺たちは意見をすり合わせておいたのだ。

 そうして、日和さんが高頻度でウチに来ることになった。

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