第7話 自己紹介ゲーム
顔を赤くしている日和さんの様子。
朝になると上下が逆さまになる、と答えざるを得ない質問とは。
「……黙ってないで、早く答えてくださいよ」
普通に考えれば、この質問は簡単だ。だけど、日和さんが恥ずかしがっている様子に、可愛らしいと思ってしまった僕はとぼけてみたくなってしまう。
「えっと、砂時計とかじゃないよね」
「ち、違いますよ。とぼけてないで、さっさと答えてくださいっ!」
普段なら聞けないような日和さんの少しだけ張った声が部屋中に響く。
もっと見ていたいが、そんなにからかえるような関係でもないので、既に浮かんでいた答えを口に出す。
「寝相、だよね?」
「正解です……はあ」
「ごめん、反応が面白くって」
日和さんは眉を寄せて、不満を露わにしていた。そして冷たそうな雰囲気を纏った彼女は小言を言った。
「本当に分からないふりしてたんですね。サイテーです」
「うっ、ごめんなさい」
勝手な認識だが、少し距離が縮まってきたのではないかと思っていた。
だが流石に調子に乗り過ぎてしまったと反省し、しっかりと頭を下げた。
「嘘です。そこまで怒ってませんよ。怒ったふりしたら、鳥羽さんがどう反応するのか気になっただけです」
「そ、そっか。それなら良いんだけど」
ほっ、と安心して嘆息を吐く。
余りにも雰囲気が真に迫っていたので、勘違いしてしまった。
「だけど、本当に不快だったら指摘して欲しい」
「……超真面目なお父さんの元で育ってきただけのことはありますね」
自分の真面目を褒められるのは嬉しかった。俺のことだけでなく、父親まで褒められているような気分になるからだ。
でも、自嘲気味に言っていたのは何故なんだろう。
それを隠すように笑顔を見せる彼女は、使ったカードをケースに収納した。
「では気を取り直して。次の質問にいきましょうか――最初はグー、じゃんけん、ポン!」
次に負けたのは俺だった。
ルール通りに机に広がったカードの中から一枚を引く。
書かれていたお題。そこに見えるものは。
『あなたが暇な時にすることを教えてください』
暇な時にすること……。
現代人なんてスマホがあれば、暇な時にすることは多種多様。人によってはスマホ以外の何かかもしれないけど。
答えることは決まっているけど、普通に答えたら、すぐに質問が特定されてしまいそうだ。
「アニメを見ること。ポッケモンとか好きだったよ」
嘘は言ってないけど、ちょっとだけ誤魔化す情報も入れてみた。
「好きだったよ……? ってことは過去のことですね」
「そうそう、小さい頃は一週間の楽しみだったなあ」
日和さんは確信したようにムフっとしている。
上手く騙されてくれているように見えた。
これは勝った。そもそも勝ち負けがあるゲームかは聞いてなかったけど。
「と、でも言うと思ってました? 私は見抜いています。鳥羽さんの言ったことがブラフであることに!」
「な、なんと……」
流石にゲームを持ってきた側だからか、嘘をつかれる可能性があることを想定していたらしい。そして、それを見切った日和さんは高らかに回答を叫ぶ。
「質問は『今、ハマっていること』です!」
「残念! 不正解!」
あれだけ自信満々だった答えは一瞬で不正解の烙印を押されてしまった。
それにショックを受けて、【え、嘘】みたいな表情をしている日和さん。
「ま、まさかですけど、嘘をついていなかったんですか? となると、一人で勝った気になって盛り上がっていた残念な人だった……?」
「あ、いや。推理自体は合ってたよ。ただ、質問が違うだけかな」
「そうでしたか!? となると、今度は悔しくなって来ますね…………それで、答えは一体何だったんですか?」
日和さんは両手を丸めて、悔しそうにしていた。
学校で話題の美少女がこんな顔をするんだと、内心で驚いた。
「答えは『あなたが暇な時にすることを教えてください』って質問」
「近かったようで、遠いような……、何とも言えない距離感の答えでしたか」
「まあ、質問が適応してる範囲が広いと思うし」
ハマっていることを暇な時にする人は全然いると思うし、そういう面で言えば一部被っているような答えだったのは間違いない。
「それで、暇なときはどんなアニメを見ているんですか? さっき言ったようにポッケモン?」
日和さんがそういう風に聞いてきたが、まさか彼女が僕のアニメの趣味について聞いてくるとは思っていなかった。もしかして、その手のことに詳しかったりするのだろうか?
「暇さえあれば見てるから色々って感じだよ。特に何かに拘って見てないかな」
「じゃあ、好きな一番好きなアニメは何なんです?」
結構ガッツリ聞いてくる。姿勢も前のめりで興味津々だ。
やっぱりアニメとかに元々興味があったりするのだろうか。
だが、一番の好きを答えるのは結構難しい。
本数を見てれば見てるほど自分の中の好きが増えていくからだ。
でも、その中であえて名前を出すなら。
「『機械少女のカラフルマジック』かな……絶対知らないと思うけど」
全然知名度も無ければ、一部界隈で人気とか言うわけでもない。
そういう作品を普通の会話で出してしまったのを後悔しかけた。だが。
「……! 私もその作品好きですよ。なんでそんなマイナー作品を知ってるんですか?」
まさか好きと言ってくるとは思ってもみなかった。
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