第3話 親を早く再婚させる同盟

 俺の提案に日和さんは悩む素振りを見せた。

 彼女は学校において、異性と一定の距離を保っている。風の噂でしかないが、雲原日和の連絡先を手に入れた男子はいないと聞いたことがある。

 親たちの再婚の手助けを俺と一緒にするようになると、俺とそこそこ近い関係性にならざるを得なくなってしまうから迷っているのだろうか。


「わかりました。協力して親たちを早く結婚させるという計画、一緒に成し遂げましょう。確かにあのままじゃ、再婚までに何年かかるか分からないですしね」

「……ありがとう。俺はあんまり恋愛が分からないから、雲原さんに手伝ってもらえて嬉しいよ」

「実は私も恋愛経験はないんです……期待に応えられなくてごめんなさい」


 日和さんのその言葉は予想ができた。

 多くの男たちに告白されている彼女だが、彼氏がいるとは聞いたことがない。

 つまり、簡単に誰かと付き合うような人物ではないはず。今までピンとくる人物がいなければ、誰かと付き合ったことがないということもあり得るはずだ。


 そこまで予想できていたのに、彼女に謝らせてしまった。

 下手なことを言ったと内心で反省する。


「こっちこそごめん。別に雲原さんの恋愛経験に期待してたわけじゃないんだ。ただ、本当に協力してくれるのが嬉しいってだけだよ」

「そう……でしたか。では一緒に頑張っていきましょうね」


 日和さんは優しい笑みを見せた。

 僕も気持ちいい笑顔で日和さんに言う。


「これからよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 そうして僕らは互いのメッセージアプリの連絡先を交換した。

 日和さんのプロフィール写真は可愛らしいイラストの猫ちゃんだった。

 ユーザ名は【ぴよぴよひより】だった。


 ひよこなのか猫なのか……。

 それにしても可愛らしかった。


 二人でレストランの入り口に戻ると、親たちは固まったままだった。

 その様子を遠目から眺めてると日和さんが呟いた。


「お母さんたち、よくあの様子で連れ子のことを紹介しようと思いましたよね」

「……俺の父親が真面目だからだよ。再婚するかもしれない相手になら、付き合い始めた時点で紹介すべきだって言ってた」


 おどけた調子で俺は言った。

 長年見ている俺からすれば、欠点であり美点でもあると思う。

 流石に一般的な目線で見れば、連れ子の紹介なんてもっと関係性が発展してからのイベントであるのは間違いない。


 そんな俺の父親のことを聞いた日和さんは笑わなかった。


「良いお父さんじゃないですか。それだけ真面目な方ならお母さんを安心して任せられるというものです」


 父さんが好きになった相手の娘がどういう人なのか、少し分かった気がした。そんな娘を育ててきた人なら、俺も安心して見守ることができる。


 そうして俺たちは二人の元へと戻り、その日の顔合わせは終わった。


☆ ☆ ☆


 気だるげに教室の机に伏せながら、教室の真ん中で女子生徒に囲まれている人物、雲原日和のことを眺める。なんかテンションの高そうな女子に誘われて、教室の外に消えていってしまった。それに人がぞろぞろ着いていくし。


 どう考えても人気者だ。

 そんな相手と今日、お互いの親をくっつけるための作戦を実行する。


「はあ~」


 とため息をつくこえが横から聞こえた。

 まるで、俺の心内と同調するかのような。というか、察せられてしまったのだ。


「辛気臭~プンプンじゃんな~」


 その声が聞こえる方向を見ると、何か変な奴が隣の机に腰掛けていた。

 

 明らかな校則違反のピアス。じゃらじゃらした男性向きのアクセサリーを首に巻き、頭髪が赤と青で半分ずつ別れている圧倒的な存在感。理由があって、教師にこの格好を許されている特殊な存在。


 我が宮野口高校の問題児、宝谷麻衣たからだにまいだ。


「久しぶりに話す気がするな、麻衣」

「まあな~、最近は日和ちゃそのほうばっかりに気を取られてたから、お前に構う余裕がなかったんだぜ~」


 麻衣は日和さんの親友だと宣言している。

 美少女で顔が良くて、居心地が良いからと日和さんの近くにばっかいる。


 そんでもって俺の幼馴染でもある。

 保育園、小中と同じところ一緒に育って来た。


「日和ちゃそから聞いたぜ~、何でも親の再婚相手の連れ子が同じ学校の奴だったってよお~」

「へえ~、そうなんだ。でも、そんなこと俺に話しても良いの?」


 何か勘づいていそうだから、しらを切る方へとシフトする。

 しかし、麻衣はニヤニヤと笑っている。これはもう手遅れかもしれない。


「だってよ、その連れ子ってお前のことだろお~。流石に今日のお前は様子がおかしいもんな~」

「そうかな。普通だと思うけど……」


 様子がおかしい。

 そう言われても自分で自覚していることが無かったから分からない。


 麻衣はすぐそばに落ちていたゴミを拾い上げた。


「普段ならお前は教室にゴミが落ちてれば気づくはずだぜ。そして、必ず自分から拾いに行ってゴミ箱に捨てに行く。それがアキラだぜ~」

「確かに、普段ならやってた」

「もしかしてこの後何かあるのかもしれないけどな、緊張しすぎて自分を見失うのは良くないことなんだぜ~。そうやって平静じゃないお前を見ているのも面白いからありではあるけどな」


 流石に幼馴染だからか、俺のことをよく知っている。


「なるほど。助かった、ありがとう」

「礼なんて良いから、今度昼飯でも奢るんだぜ~」


 それだけ言って麻衣は俺の元からスキップして去って行った。

 

 今日俺が無意識に緊張している理由。

 なぜなら我が鳥羽家とばけに日和さんがやってくるからだ。

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2024年11月30日 13:12

親の再婚のためにクラスの美少女と色々と企んでたけど、俺たちの方が早く結婚しそうな件 綿紙チル @menki-tiru

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